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Report|RED U-35 2021 ONLINE ファイナルは劇的な大逆転で幕

RED U-35 2021 2021.12.01

2020年のコロナ禍の影響による中止を経て開催された「RED U-35 2021 ONLINE」。感染予防対策のために、一次審査から最終審査まで、すべての審査がオンラインによって実施される異例の大会となった。料理人のコンペティションでありながら、審査員の前で料理をせずに優勝者を決める大会がかつてあっただろうか? 望むと望まざるとにかかわらず、本大会は、コロナ禍で開催された特別な大会として、記憶されることになるだろう。そんな大会を制したのは、果たして? 最終審査会と授賞セレモニーの模様をレポートする。

前代未聞のリモートクッキング審査

コロナ禍等イレギュラーな状況下で開催された「RED U-35 2021 ONLINE」のクライマックスは、審査方法もまた過去に類を見ないものになった。なんと、ファイナリストが挑んだのは自らが調理をしない「リモートクッキング審査」である。課題は、「家庭でできる未来のための一皿」をテーマにした料理を、食材の予算1万円を上限に、調理師専門学校の生徒2名を遠隔で指示し、40分以内で完成させるというもの。審査が始まるその瞬間まで、調理を担当する生徒たちには、どんな料理を仕上げるのか、一切知らされないという状況において、挑戦者は的確な指示を出せるのか。料理のクオリティーのみならず、料理人の伝える力までもが問われる内容になった。

審査を務めたのは、德岡邦夫審査員長を筆頭に、脇屋友詞氏、和久田哲也氏、笹島保弘氏、鎧塚俊彦氏、狐野扶実子氏、生江史伸氏、太田雄貴氏の8名。海外に拠点を置く和久田氏はリモートでの参加となった。

ハプニングを乗り切る対応力が問われた決勝戦

決勝戦のトップバッターは、豆類、トマト、キノコ、さつまいもなど、身近な食材で煮込み料理とピュレを作り、プロならではの美的センスで、重層的に美しく盛り付けた堀内浩平氏(35歳/専門 Yamanashi gastronomy/東京都港区「Ichii」シェフ)。

さつまいもを皮まで余すところなく使い、冷蔵庫の余り物という想定で餃子の皮もレシピに取り入れた。「希望の種」というタイトルには、こうした意識こそ食の未来の希望になるという想いが込められている。調理中、調理人のひとりが手に怪我を負い、別の調理人と交代するというハプニングが……。そのときの心境を「正直、焦った」と吐露した堀内氏について、脇屋氏は「その後も落ち着いて的確な指示が出せていた」と評価した。「スタッフに指示を出しながら料理を仕上げる職場なのか」と質問した笹島氏も、堀内氏がひとりで厨房を切り盛りしていると知り、「普段やっていないのに、うまくできていた」と、その健闘をたたえた。

続いて登場したのは、2015、2019年大会の2度にわたり準グランプリを獲得し、悲願のグランプリを目指す野田達也氏(36歳/専門 フランス料理/東京都中央区「nôl」ディレクター)。

ファイナリスト中、最も手の込んだ“攻め”のレシピで挑んだ野田氏は、「大豆ミートのラグートマトパスタ」と「蕪とお米の食べるスープ」の2皿を用意し、裏ごしなど手の込んだ工程を入れたり、食べるスープをパイの包み焼きにするなど、プロの技術を盛り込んだ。ところが、これが裏目に出てしまい、制限時間内にパイ生地が焼きあがらないという事態に。すぐさま、パイ生地を外して食べるスープを仕上げるなど、臨機応変に対応し、最後まで諦めない姿勢を見せた。だが、「仮に10分はやくオーブンに入れられたとしても、パイはサクッと焼けなかったはず」(鎧塚氏)という厳しい指摘も。「会場のオーブンの特性をもっと理解しておくべきだった」と反省の弁を述べる野田氏に対し、狐野氏は「安全策をとらずに、制限時間いっぱいまで、チャレンジしたことは評価できる」とした。

故郷である島原の特産品「手延べそうめん」を生かした「季節香る 春菊の手延べそうめん」を披露したのは、3番手として登場した井上稔浩氏(35歳/専門 ガストロノミー/長崎県島原市「pesceco」オーナーシェフ)。2019年のゴールドエッグである。

井上氏はまず、生徒が調理工程のポイントを理解してから作りはじめられるよう、最初にレシピの全体像を説明。そして何度も味見をしてもらいながら、春菊のアサリ出汁を丁寧に仕上げた。和久田氏は「すぐに伸びてしまうそうめんは、リモート調理に不向きなのでは?」と指摘。井上氏は「そうめんを氷で締め、提供するぎりぎりのタイミングで出汁を加えることで、その弱点を克服できると考えた」と回答。生江氏はフードロス問題の観点から「春菊の葉だけを使い、茎を使わなかったのは少し残念」と感想を述べた。

最終審査の最後を飾ったのは、唯一の女性ファイナリストであるドグエン チラン氏(33歳/専門 フランス料理/広島県廿日市「ベトナム料理とワイン CHILAN」オーナーシェフ)。

ドグエン氏は、自身のルーツであるベトナムのソイガー(鶏おこわ)をヒントに、ココナッツミルク、ターメリック、ナンプラーを使用した「うちの唐揚げ」を提案。調理人の2名を親子の役にふりわけ、家族仲良く調理しているような、あたたかい雰囲気を演出した。太田氏は「演出も含めて、完璧なプレゼンテーションだった」と高評価。太田氏に優勝への意気込みを問われたドグエン氏は「私は、女性として、母親として、一度料理を離れて復帰した料理人として、オーナーシェフとして、さまざまな立場を経験してきた。私が優勝することで、料理人の多様な働き方の未来に向けて、議論のきっかけとなるようなロールモデルになりたい」とアピールした。

完成した料理
左上)堀内 浩平「希望の種」
右上)野田 達也「大豆ミートのラグートマトパスタ」と「蕪とお米の食べるスープ」
左下)井上 稔浩「季節香る 春菊の手延べそうめん」
右下)ドグエン チラン「うちの唐揚げ」
※料理の詳細、レシピはこちら

勝敗を分けた課題への対応力

ゴールドエッグ4名の見事なパフォーマンスを終え、大会はクライマックスへ。コロナ禍の大会に相応しく、YouTubeで生配信された「RED U-35 2021 ONLINE」授賞セレモニーはスタートした。
(会場は、日本橋 室町三井ホール&カンファレンス)

まず行われた「審査員トークセッション」では、事前にSNSで一般や大会参加者から募った質問を、総合プロデューサーである小山薫堂氏が審査員たちに投げかけた。たとえば、「料理人の仕事のためのインプットとして何をしているか」という質問に鎧塚氏は「弟子たちには、若いうちはとにかく技を盗め、と言っている。だが、35歳をすぎたあたりからは、自分の個性を確立していかなければならない」とアドバイス。「審査員就任後に、心境の変化は?」という質問に太田氏は、「大会を通して料理人がどんどん成長していくのがわかる。人の成長を間近で見るのがこんなに楽しいことだとは知らなかった」とその喜びを語った。

そしていよいよグランプリ=レッドエッグの発表へ。リモートで参加したゴールドエッグ4名の緊張した表情が画面に映し出されるなか、レッドエッグに輝いたのは、堀内浩平氏である。今大会のダークホース的存在と見られていた堀内氏だが、三次審査〜決勝の舞台でさらにその評価を高めての受賞となった。

「当初は、我々の誰もが堀内氏の優勝を予想していなかった。予想外のことが起こるのが“RED U-35”らしい」と審査員長の德岡氏。

授賞セレモニー直前に行われた最終審査会で、とくに議論されたのは、「家庭でできる未来のための一皿」という課題をどう解釈していたか、という点だった。素直に解釈して家庭料理に寄せてしまうと、プロの料理人が競うコンペティションとしての意義が失われかねない。一方、原価を高く設定し、プロの技術を盛り込みすぎれば、家庭で作るのが難しいレシピになってしまう。そのバランスに優れていたのが堀内氏であり、おいしさはもちろん、プロらしい技と美しいプレゼンテーションに加え、野菜の皮や余り物の餃子の皮を使用するなどフードロス問題にも配慮したところ、また、4名中最も原価を低く抑えた点も高い評価につながった。その結果、最終審査会の序盤で審査員たちの圧倒的な支持を集め、授賞が決まる圧勝劇だった。

「心臓がバクバクしてうまくしゃべれません。とてもうれしいです。兄とともに故郷山梨にレストランを開業する予定なので、優勝賞金はその資金に使わせていただきます」と率直な喜びを伝えた堀内氏。今後のさらなる活躍に期待したい。

一方、準グランプリに輝いたのは、野田達也氏。2015、2019年大会で準グランプリを受賞し、今大会では悲願の優勝を目指して出場した野田氏だったが、またしてもわずかに届かなかった。しかし、決勝の舞台で見せた高い指導力と、制限時間ギリギリまで攻めるレシピを組んだことは、審査員たちに高く評価された。

そのほか、海外からの出場者のなかで、今後、さらなる活躍が期待される料理人に贈られる滝久雄賞には、吉野勝二氏(34歳/専門 モダンオーストラリア/オーストラリア「Society Restaurant」スーシェフ)が、飛躍が期待される女性料理人に贈られる岸朝子賞にはドグエン チラン氏が輝いた。

「リモートクッキングで、本当に決勝の審査ができるのか不安もあった。だが、実際には、画面越しであっても優れた料理人ならば十分に力を発揮できることがわかった。このスタイルは、料理人の可能性を広げるはず」と総評を述べた小山薫堂氏は、続いて新審査員長を発表。2022年度の大会からは、狐野扶実子氏率いる新体制のもと、料理界の未来を担う才能を発掘していくことになる。初の女性審査員長として、狐野氏が大会に新たな風を吹き込むことになるのか。その手腕にはすでに注目が集まっている。

RED U-35 2021 ONLINE 受賞結果
《RED EGG(グランプリ)》堀内 浩平(東京都「Ichii」シェフ)
《GOLD EGG/準グランプリ》野田 達也(東京都「nôl」ディレクター)
《GOLD EGG/岸朝子賞》ドグエン チラン(広島県「ベトナム料理とワイン CHILAN」オーナーシェフ)
《GOLD EGG》井上 稔浩(長崎県「pesceco」オーナーシェフ)
《滝久雄賞》吉野 勝二(オーストラリア「Society Restaurant」スーシェフ)
《JCB賞》堀内 浩平、野田 達也、井上 稔浩、ドグエン チラン

RED U-35 2021 ONLINE総集編ムービー(ダイジェスト)

RED U-35 2021 ONLINE
■ Organizers (主催):RED U-35 (RYORININ’s EMERGING DREAM U-35) 実行委員会 株式会社ぐるなび 株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ
■ Co-Organizer (共催):株式会社ジェーシービー
■ Partners:三井不動産株式会社 株式会社オセアグループ
■ Supporter:ヤマサ醤油株式会社

■ 特別協力:辻󠄀調理師専門学校

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