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特別対談 特別なひとときのために

半田 雄大(ワイン食堂MAREA)×石井 啓一郎(ヤマサ醤油株式会社)

INTERVIEW 2024.01.23

RED U-35 2023 特別対談「特別なひとときのために
・半田 雄大(ワイン食堂MAREA オーナーシェフ/2014 ブロンズエッグ)
・石井 啓一郎(ヤマサ醤油株式会社 MD推進室長)

ユネスコ無形文化遺産に登録され、今や世界のスタンダード料理の一角を担う「和食」。1645年の創業以来、伝統の製法を守り続けるヤマサ醤油は、いわばその土台を支え続けてきた存在。そんな老舗メーカーの石井 啓一郎氏と、本場で体得したイタリア料理をベースにしながらもその枠組みを超え、より自由な表現をめざす半田 雄大氏の想いが交差したのは、「特別なひととき」にかける情熱だった。

食の未来を拓く輝かしい個性の出現に期待

石井 2013年にスタートした「RED U-35」は、記念すべき第10回大会を迎えました。半田さんがチャレンジされたのは、ちょうど10年前の「RED U-35 2014」でしたね。

半田 はい。第2回大会でした。当時私は33歳。イタリアで奮闘していたころです。そのときのテーマはたしか「豆」。振り返ればスタート当初のテーマは主に「卵」や「日本米のイノベーション」など具体的な食材でした。

石井 時代の変遷とともに社会性を帯びたものに変化してきたのがわかりますね。「RED U-35 2023」のテーマである「2030年のお子様ランチ 〜未来をつくるこどもたちに贈る料理〜」からも、サステナブルな社会の発展に向けた眼差しが感じられます。この大会に挑戦される若手料理人のみなさんの、すぐれた技術とセンスを駆使してテーマを読み解き独自のクリエーションに昇華させる姿には、毎回ワクワクさせられます。同大会をサポートする我々にとっても、食のさらなる可能性を見出す貴重な機会にもなります。半田さんがもし今回チャレンジするとしたら、どんなひと皿をイメージしますか?

半田 私なりに考え実際につくってみたのが、こちらです。

石井 お肉と副菜のお野菜。一見とてもオーソドックスですね。しかも子どもが敬遠しそうな食材がゴロゴロと……。

半田 おっしゃるとおり、ニンジンやセロリ、グリーンピースなど野菜の存在感をあえて際立たせています。それは、肉食の持続可能性や海洋資源の減少など、食をとりまく環境が今後さらに深刻なものになることが予想されるなか、さらに注目されるであろう野菜の魅力を知ってもらうため。まずは「野菜ってこんなにおいしいんだ!」という感動を体験してほしいのです。僕が料理人を志したのも、子どものころにはじめて訪れた料理店での忘れ難い特別なひとときがきっかけでしたから。ちなみに調理方法は、蒸す、あるいは煮ることで野菜のうま味を凝縮させるイタリア料理に倣ったものです。

石井 チェーン店系の某有名イタリア料理レストランでは、我が家の子どもたちがクタクタになったホウレンソウのソテーを喜んでいただいています。あれはイタリア料理ならではのスタイルなのですね。

半田 イタリア帰りの料理人は、みんなあのお店が大好きです(笑)。今回はご家庭でも調理しやすいようにアレンジして、出汁と一緒に炊飯器で調理してみました。こうすることで、手軽にあのクタクタ感を出せるんです。手数をあまりかけずにおいしい手料理を生み出せる工夫のひとつですね。

石井 漁獲量の減少など食材の問題はすでに深刻なレベルにありますが、食の未来にとっては人材の問題も無視できません。人手不足が常態化する飲食業界の現場では、今後ますます加工済み食材の供給が増えることで、料理人の仕事はただそれらを温めて混ぜるだけになってしまいます。メニューのクオリティはもちろん、料理人としてのやりがいの低下を助長してしまうことにもなりかねません。我々とは縁の深い和食業界も例外ではなく、人材不足に悩まされています。聞くところによると、調理師専門学校では近年、和食コースを選択する生徒さんが減少しているとか。

半田 そもそも料理人を志す若者自体が少なくなってきているようです。労働時間の長さ、給与面での不安など、そこにはさまざまな理由があるのでしょう。料理人の労働環境においてはまだまだ改善されるべき点が多いのも事実です。個人的には、決められた時間だけ働きたい人、己の理想を実現するためにとことんまで追求したい人--その双方が活躍できる、いわば働き方の多様性を確保することが重要だと思っています。

石井 そうした状況にありながら、「RED U-35」にチャレンジする情熱のある若手料理人のみなさんは、さらなる高みをめざして日々技とセンスを磨いていらっしゃいます。食の力によって社会課題を解決に導こうとする、志の高い人材を見出し、世界に広く発信する「RED U-35」はとても貴重な存在。ヤマサ醤油がサポートする同コンペティションは、日本の食の未来を切り開くのみならず、より良い社会づくりに多大な貢献を果たしているといえるでしょう。

素材のうま味を支え、全体に調和をもたらす醤油とオリーブオイル

半田 「RED U-35」が私の料理人人生のターニングポイントになったといえるのは、何ごとにおいても考える習慣が身についたからです。あのまま日々の仕事に追われるだけの生活を続けていたら、今の自分はなかったはずですから。

石井 30代の前半は、私にとっても成長を実感できました。成功と失敗を繰り返しながら獲得した経験と知識の両輪がバランスよく回りはじめる、そんな時期でもありましたね。「RED U-35」へのチャレンジから10年が経過した今、半田さんは料理をする上でどんなことを考えていますか?

半田 新型コロナ禍による生活スタイルの変化や、折からの物価高騰もあり、外食需要は大変落ち込んだことも事実です。そんななか、お客様がレストランに求めるものにも変化が見られるようになり、とくに「日常にはない特別な体験をしたい」という想いをひしひしと感じるようになったというわけです。そんなニーズに応え、特別なひとときを提供するべく、それまでのイタリアの郷土料理にこだわったスタイルを、より自由に自分を表現するものへと変化させたのです。それは、イタリア料理を軸にしながらもジャンルにこだわることなく、これまでさまざまな土地で出会った極上の味わいや感動の記憶を、ひと皿に表現しようというもの。出汁や醤(ひしお:麦、大豆などを醤油につけて発酵させた調味料)を使うようになったのもその一環ですね。こちらの醤は、御社の減塩醤油で試作したものです。

石井 ありがとうございます! いい香りですね。麹のような役割も期待できそうです。お店のメニューでは、この醤をどのように活用されているのですか?

半田 きんぴらごぼうをイメージした野菜のソテーに加えたり、魚をマリネする時に少量加えたり。あるいは醤のうま味をフィーチャーしたパスタ料理もあります。カチョ・エ・ペぺ(チーズとブラックペッパーのパスタ)に想を得た、「醤と鰹節のパスタ」はそのひとつ。醤と鰹節のうま味をダイレクトに感じていただけるはずです。

石井 今の半田さんを表すひと皿というわけですね。今度ぜひいただきに参ります。半田さんが考える醤油の魅力とはどんなものですか?

半田 本能的においしいと感じさせてくれる圧倒的なうま味です。近年はよりうま味を重視するスタイルにシフトしているので、塩分が50%ほどカットされている減塩醤油のほうがうま味と塩味とのバランスがちょうどよく、使いやすいと思います。また当店では、食材の無駄を省くためにも、塩漬けにして真空保存した食材に塩や出汁、スパイスなどを加えて味を組み立てるので、もし塩味が限りなくゼロに近い醤油があれば、活用の幅がさらに広がりそうです。

石井 大変貴重なご意見です。というのも、醤油を生かした商品を開発する際、我々はどうしても醤油の風味を軸に考えてしまいがちですから。より多彩な場面で使っていただくためには、イタリア料理など和食以外のジャンルの味わいの組み立て方についても学ばなくてはならないと考えていたところです。イタリア料理には、トマトやチーズなどうま味の強い素材を生かして、味を組み立てている印象をもっていますが、実際はいかがでしょう?

半田 イタリア人は、日本人ほどうま味を意識しているわけではありません。味の骨格は塩。そしてオリーブオイルで風味や味わいのバランスを整える。イタリア料理におけるオリーブオイルは、和食における醤油のようなもの、かもしれません。

ジャンルの枠組みを超えて美味を追求

石井 なるほど。どちらも欠かせない存在というわけですね。ところで、このお店のある中野富士見町は、半田さんの地元でしょうか?

半田 はい、ほぼ同じエリアです。イタリアから帰国する際、地元の方に喜んでもらえるようなレストランを開きたいと考えていました。おかげさまで、お客様のご期待に添えるような存在になりつつあるかなとは思っています。それでも、個人で発信できることにはどうしても限界があります。こうしてヤマサ醤油さんのような日本の食の未来に貢献する企業のサポートをいただければ、より広い情報発信が可能になると思います。「この街には、こんなレストランがあるんだ」ということを少しでも多くの人に知っていただくことで、この場所を起点に、少しでも地元の活性化に貢献できるのではないかと考えております。

石井 味の組み立て方や、醤油のうま味にフォーカスしたアイデアなどに触れることができ、本日は“気づき”がたくさんありました。また、特別なひとときを提供するために、ジャンルの枠組みを超えて美味を追求する半田さんの姿勢には深い共感を覚えたことも印象的です。我々も、創業以来変わらぬ味わいを守り続けながらも、和食という括りにとらわれることなくメニュー提案や商品開発をとおして、醤油の新たな魅力を追求し、国内外に広くアピールしていきたいと考えています。今後ともご協力をお願いいたします。

半田 はい、こちらこそよろしくお願いします!


ヤマサ醤油株式会社 MD推進室長
石井 啓一郎

1976年、神奈川県生まれ。1998年ヤマサ醤油株式会社に入社。3年間の開発経験を経て首都圏を中心とした業務用の営業に従事。2023年4月より現職。

https://www.yamasa.com/

ワイン食堂MAREA
東京都杉並区和田1-17-17
定休日:月曜日

プロフィール

半田雄大(ワイン食堂MAREA)

1980年、東京都生まれ。大学卒業後にイタリアにわたり、フィレンツェのワインバーレストランで7年間シェフを務める。その後、ミラノで2年間、フランス・パリで半年間研鑽を積み、2015年に帰国。2019年にワイン食堂MAREAをオープン。

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