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丸山千里|新たな「料理人」の地平を切り拓くフードクリエイター

丸山千里(フードクリエイター)2025 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2026.01.30

食にまつわる価値観が多様化する昨今、料理人のあり方もまた従来の枠を超えて広がりを見せている。そんな時代を反映するかのように、「RED U-35 2025」において、これからの料理界における新たな可能性を強く印象づけたのが、準グランプリの栄冠に輝いた丸山千里氏である。しかし、その道のりは決して平坦ではなく、理想と現実の間でもがき、自らのアイデンティティを問い直す厳しい旅路でもあった。

丸山氏の料理人としての原点は、農学部に在籍していた学生時代にある。課外活動で訪れた生産現場で、丹精込めて育てられたすばらしい食材と、それを支える人びとの美しさに心を打たれた。「この価値を世に広く知らしめたい」。その純粋な情熱を形にするための手段として、氏は料理人の道を志した。

大学卒業後、調理師学校の学費を稼ぐために一度は一般企業に入社。2年かけて資金を蓄えたとき24歳になっていた氏は、回り道を避け、学校へは行かず都内の人気レストランの門を叩いた。「いつかは自分のレストランを」— 夢に向かってハードな日々に身を投じたが、現実は甘くなかった。志半ばで体調を崩して退職を余儀なくされたのだ。「レストランの厨房で腕を振るってこそ料理人である」と考える氏にとって、それは決定的な挫折を意味していた。

その後、再度一般企業に身を置きながらも、休日は友人のレストランを手伝い、ケータリングや間借りイベントを主催するなど、氏の心から料理の火が消えることはなかった。そうした活動を続けるなかで芽生えたのは、「趣味の延長ではなく、やはりプロの料理人として生きていきたい」という切実な想いだった。

転機となったのは、メニュー開発やフードスタイリングを手がけるクリエイティブグループとの出会いである。レストランでの現場経験と、一般企業で培ったビジネススキル。それらを併せもつ丸山氏は、アシスタントから着実に実績を積み上げ、やがてオファーの絶えないフードクリエイターとしての地位を確立していった。

その一方で、丸山氏の心には常に「微かな躊躇い」が澱のように溜まっていた。「レストランの厨房を主戦場にしない自分は、果たして料理人と名乗ってよいのだろうか」。そんな葛藤を抱える氏を触発したのは、同じようなスタイルで活動する料理人が「RED U-35」でシルバーエッグを受賞したことだった。自分のこれまでの道のり、そして今立つ場所は間違っていないのか — それを確かめるべく、氏は挑戦を決意した。

「『RED U-35』の課題に向き合う日々は、料理人を志した理由や、料理人として表現すべきことを再確認し、これまでの道のりを言語化する貴重な経験となりました」

そんな丸山氏が3度目のチャレンジとなった「RED U-35 2025」で披露したのは、自身の集大成的料理と語る「蟹と柑橘の抹茶ラーメン」だった。抹茶と煎茶に含まれるテアニン・グルタミン酸、そこに鶏ガラのイノシン酸を掛け合わせることで、うまみの相乗効果を科学的に導き出したこのひと皿のポイントは、抹茶のもつ苦味ではなく、うまみやコクに着目した点。見慣れた食材に新たな光を当てるという氏の信念の結晶でもあった。

準グランプリという結果は、氏を縛り続けていた呪縛を解き放ったのだろう。「『レストランの厨房にいなければならない』という固定観念に囚われていたのは、誰よりも私自身だったんです」。その気づきは、次なるステージへのエネルギーとなっている。

現在、試作を重ねる「茶鮨」は、その進化を象徴するひと皿だ。魚を昆布ではなく茶葉で締めるという、科学的なアプローチと遊び心が同居したこの料理は、故郷・鹿児島へのオマージュでもある。荒茶生産量日本一を誇る地元の特産品を、これまでにない角度で捉え直し、世界に通用する価値へと昇華させる。それこそが、フードクリエイターである氏の真骨頂だ。

「私の使命は、メニュー開発を通じて日本が誇る食材の可能性を広げること。とりわけ地元のおいしいものを世界中の人に知ってもらいたいのです。商品化ができれば、時間や空間を超えてその魅力を届けることができます。それはレストランという枠を超えた、この仕事ならではのやりがいです」

その言葉は、丸山氏が新時代の「料理人」であることを物語っている。

【料理】
「酢飯に混ぜ込まれた茶葉の苦味を和らげるために、酸味のまろやかな濁酒からつくられたお酢を合わせた」と語る丸山氏が、「蟹と柑橘の抹茶ラーメン」に続く新たなシグネチャーとして試作を続ける「茶鮨」。仕上げに抹茶とライムのピールを乗せて完成……ではない。添えられた温かいスープ—昆布と椎茸 のうまみを抽出し、ワサビとコブミカンの香りを移したもの—とともにいただくことで、温度と香りにより、茶の風味がさらに際立つという仕掛け。両者のマリアージュによってこの料理は成立する。

text by Moji Company / photos by Shiho Akiyama

プロフィール

丸山千里

フードクリエイター
1993年、鹿児島県生まれ。 九州大学農学部卒業後、コクヨ株式会社を経て、代官山Ataにて勤務。 その後、一般企業にて新規事業立ち上げ ・企業広報をしながら、ケータリングやレシピ提案を行う。 食のクリエイティブプロダクションのスタッフを経て、独立。フリーのフードクリエイターとして、商品開発・飲食店のメニュー開発を行う。「RED U-35 2025」において準グランプリと岸朝子賞を受賞。

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