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向田侑司|炎との対話で中国料理の真髄を追う

向田侑司(ウェスティンホテル東京 龍天門)2025 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2026.02.04

実力者がしのぎを削った「RED U-35 2025」において、中国料理界からは唯一となる「ゴールドエッグ」の栄誉を勝ちとったのは、自身の料理スタイルを「炎との対話」と称する向田侑司氏である。

同大会にて向田氏が披露したのは、香港で広く親しまれている「煲仔飯(ボウジャイファン)」だった。麹と中国酒で丹念に風味づけされた鴨肉と香ばしく焼き上げられた豚バラ肉、そして蓋を開けた瞬間に立ち上る味噌の芳醇な香りは、審査員に鮮烈な印象を残したはず。向田氏が師と仰ぐかつて赤坂璃宮の焼物師として活躍した梁 偉康氏の得意料理のひとつであり、そして自身の好物でもあったこのひと皿には、氏の料理人としての「原点」が凝縮されていた。

「銀行や病院への付き添いなど、厨房での時間だけでなく、プライベートでも行動をともにするなど、時間をかけて信頼関係を築き上げて、はじめて教えを乞うことができました。しかし、梁さんはいつも、具体的なレシピや数値化されたマニュアルを伝授してくれるのではなく、目の前で実演してくれるだけ。『はい、こんなかんじ!』と(笑)。あとは自分で考えなさいということだったのでしょう」

梁氏と共に働いた期間は1年ほど。しかし、向田氏にとっては人生で最も濃密な時間だった。師の一挙手一投足を網膜に焼き付け、仕事が終われば古い中国料理の文献を紐解く。鍋を振り、炎との対話を重ねながら「なぜこの味になるのか」を必死に考え抜いた経験は、現在の向田氏を形作る確固たる土台となった。そんななかで芽生えたのが、「自分自身の料理をつくりたい」という想いだ。

「教えられたとおりの伝統的な中国料理をつくることに全力を注ぐ日々のなか、まれに自分らしい新メニューを考案しようと試みたこともありました。しかし、完成したものを見つめると、いつも『果たしてこれは中国料理と呼べるのだろうか』という疑問が拭えなかったのです」

氏が理想とするのは、奇をてらった創作料理ではない。あくまでオーセンティックな中国料理の枠組みを守りながら、その奥底にオリジナリティを忍ばせること。その巧みな融合点を見つけるまでには、長い試行錯誤が必要だった。

手応えを感じはじめたのは、30歳という節目を迎えたころ。ある日、ふと思いついたアイデアを形にしてみると、かつてない納得感が得られたという。これまで蓄積してきた知識と、身体に染み付いた技量が、ようやく「中国料理の真髄」と呼ばれる領域に追いつきはじめた瞬間だった。

そんな自らの実力を試すべく挑んだ「RED U-35 2025」。ゴールドエッグという結果は、口下手な自分を「料理そのもの」で評価してもらったという大きな自信に繋がった。しかし、向田氏はその結果に甘んじることはなかった。

「レッドエッグを逃した悔しさ以上に、他のファイナリストたちとの圧倒的な実力差を肌で感じました。今以上に視野を広げ、さまざまな分野の知識を貪欲に吸収しなければ、この差を埋めることはできない。自分の現在地を確認することができた貴重な経験でした」

次なる1年を「新たな舞台への挑戦」と位置づける向田氏が、自身の未来を表現するひと皿として披露してくれたのが、香港でポピュラーな「ハトの揚げ物」である。実はこの料理、RED U-35の試食審査で披露する構想を練っていたが、時間制限や設備の制約から断念したものでもあった。

現地では通常、蒸す、あるいは煮た後に揚げるのが一般的だが、向田氏は独自の解釈を加えた。「皮目はパリッと、米を詰めた内部をモチッと」という理想の食感を追求するため、あえて「焼いてから揚げる」という調理法を選択。日本人が好む食感を考慮した向田氏らしい工夫だ。

「プレゼンテーションの華やかさでは、フランス料理には敵わないかもしれません。しかし、口に入れた瞬間に広がる中国料理特有の鮮烈な香りと、圧倒的なおいしさにおいては、どのジャンルにも負けないと思っています。遠い将来になるかもしれませんが、理想とする中国料理をとおして故郷の食文化を未来に繋ぐべく、いずれは岐阜に戻りレストランを開きたいと考えています」

「RED U-35」へのチャレンジを通して、「井の中の蛙だったことを思い知らされた」と振り返る向田氏。しかし、その料理には、深淵なる井戸を奥深くまで探ることで体得した中国料理への手応えを武器に、その奥底で繋がる大海へと乗り出そうとする料理人の、輝かしい未来を暗示するかのような、研ぎ澄まされた確かな技量と感性が込められていた。

【料理】
広州ではポピュラーなハト料理を、焼き揚げというオリジナルの技法で仕上げたひと皿。「揚げる油の温度が高過ぎると皮が割れてしまうので、繊細な温度管理がポイント」だと言う。ヤマイモ、ハスの実、なっとく豚、クリ、ギンナン、干貝、アワビのうち、海産物以外はすべて岐阜産。タイトルの「岐山八宝鴿(サイサンハッポウガン)」には、故郷である岐阜の字を忍ばせる遊び心も。失われつつある故郷の食文化への想いと、これまで培ってきたテクニック、そしてオリジナリティを忍ばせたひと皿である。

text by Moji Company / photos by Hiroyuki Ono

プロフィール

向田 侑司

「ウェスティンホテル東京 龍天門」料理人
1993年、岐阜県生まれ。東京・恵比寿のウェスティンホテル東京に店を構える中国料理「龍天門」にて約12年間勤務し、現在は同店の焼物師として活躍。
「RED U-35 2025」においてゴールドエッグを受賞。

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