
「RED U-35 2025」の頂点であるレッドエッグ(グランプリ)の座を射止めた須藤良隆氏がシェフを務める「Ryokan浦島」のフレンチレストラン「ラ・プラージュ」は、佐渡島の日本海を望む風光明媚な場所にある。
本土との距離約32km — 日本海に浮かぶ同島は、2024年に「佐渡島の金山」が世界文化遺産に登録されるなど、改めて注目を集める国内最大の離島である。その一方で、最盛期には12万人以上だった人口は年々減り続け今では5万人を切り、主要産業である一次産業においても後継者不足が顕在化するなど深刻な課題も浮き彫りとなっている。須藤氏を突き動かしたのは、そんな状況に対して募る危機感だった。
「地図で見れば小さな点にすぎないかもしれませんが、実際は東京23区がすっぽり入るほど広大な島です。この島を訪れた方は、まずはその大きさに驚かれます。このように、この地の本当の魅力は、実際に足を運んでいただかないと伝わらないのです」

料理人である自分に何ができるのか。その問いに対する答えが、島の恵みをひと皿に凝縮させ、世界へ発信することだった。「RED U-35 2025」のテーマである「日本から世界へ」を、須藤氏は「佐渡から世界へ」という自分自身の使命として捉え直したのである。
「この島で料理を続けて10年余り。その成果を披露するには、『RED U-35 2025』は絶好の機会だった」と語る氏が 同大会で披露したのは、佐渡の伝統食である「フグの粕漬け」をメインに据えた料理だった。 かつて数十軒あったというフグの粕漬けをつくる魚屋は、今や数軒を残すのみ。氏の祖父もかつて魚屋を営み、この粕漬けをつくっていたという。2〜3年もの月日をかけて塩漬けし、毒素を抜く。小さいころから、その仕込みを目にしていた須藤氏にとっては、懐かしい風景のひとつでもある。先人たちが知恵を絞り育んできたこの発酵文化は、人口減少と食生活の変化により、今まさに消えようとしている。
「一度失われた文化は、二度と蘇りません。慣れ親しんだ風景や食文化がなくなってしまうのは、単純に寂しいですよね。しかし、フランス料理というフィルターを通すことで、これらに新たな価値を付け加えることができるはずです」

幼少期に父の背中を見て料理人を志し、フランス・リヨンの名店「ポール・ボキューズ」でも研鑽を積んだ須藤氏。その確かな技術が、島の伝統をガストロノミーへと昇華。審査員はその確かな技術とビジョンメイキング力に期待を寄せた。
「受賞した瞬間は、喜びよりも驚きが勝っていましたが、今はその重みをプレッシャーとして感じています。食の力で佐渡を、そして日本を良くしたいという想いはより強くなっています」
その覚悟は、受賞後の行動にも表れている。氏はすでに自治体と「島留学」プロジェクトを進めるための話し合いを進めており、グランプリの賞金をその資金として寄付。同プロジェクトは、若い料理人や志を抱く人びとを島に呼び込み、佐渡の豊かな食材や文化に触れてもらうというもの。「理想はこの試みを日本各地に広げること」と語るように、氏の視座の高さと視野の広さもまた、「レッドエッグ」に選ばれた理由だろう。

「RED U-35 2025」へのチャレンジをきっかけに、自分が理想とする料理と、島の魅力を改めて掘り下げた須藤氏は今、新たなスペシャリテを模索中だ。
「インスピレーションは日々届けられる新鮮な食材にあります。私が大切にしたいのは、お客さまの記憶に残る料理であること。食べ終えたとき、陽に照らされ眩しいほどに輝く夏の海や、黄金色に輝く稲田など島の美しい風景を思い出してもらえるような。ワンプレートで表現するならば、島が誇る海の幸、山の幸を乗せ、ソースとともに味わっていただけるフランス料理らしいものになるでしょう」
写真のひと皿はその最たるもの。ミネラル豊富な軟水によって育まれた力強い味わいの野菜や、寒ブリや南蛮エビといった極上の魚介がそろう佐渡の恵みを、ソースとともに味わう紛うことなきフランス料理だ。佐渡の誇りとなった若きシェフが紡ぐ新たなスペシャリテに、世界の注目が集まっている。

【料理】 佐渡島ではタラバエビとも称される冬の味覚であるボタンエビと、ロマネスコやプチトマト、アカダイコン、ラディッシュ、オケサガキなど海と山の幸をフランス料理仕立てで表現したひと皿。ユズの泡、ホウレンソウのピューレ、カリフラワーのムースなどでいただく。ロマネスコやハーブ類などこれまで島では栽培されていなかった食材も、地元生産者の協力もあり今では新鮮なものが日々届けられるという。
text by Moji Company / photos by Hiroyuki Ono
須藤良隆
「Ryokan浦島」フレンチレストラン「ラ・プラージュ」シェフ
1991年、新潟県生まれ。高校卒業後に大阪の辻󠄀調理師専門学校へ進学。在校中からフランス料理店「ビストロ・ヴェー」で修業に励む。同校卒業後は長野・軽井沢の「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」を経て、辻󠄀調グループ フランス校(秋コース)へ。リヨンの3つ星レストラン「ポール・ボキューズ」で研修を行う。2012年8月に帰国し、家業である「Ryokan浦島」に新設されたフレンチレストラン「ラ・プラージュ」に就職。スーシェフを経て、2015年より現職。
「RED U-35 2025」においてグランプリ“RED EGG”受賞。