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プライドも恥も捨てて、挑戦することが成長につながる

須賀洋介(ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション エトワール シェフ)

INTERVIEW 2013.08.15

22歳で誰もがその名を知るジョエル・ロブション氏のアシスタントして勤め、26歳のときに若くしてラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション 六本木ヒルズ店のエグゼクティブ・シェフに抜擢をされたことで注目を浴び、 今や世界で活躍をする須賀洋介氏。最近ではTV番組『アイアンシェフ』に登場した須賀氏を見た人も少なくないだろう。大きな夢を胸に世界中からパリにやって来る若き料理人を数多く見ている同氏が、今の若き日本の料理人たちをどう見るのか。 それと共に、未来に夢抱く若き料理人たちへのメッセージを、須賀氏にいただいた。

 

世界に目を向ければ若手でもキャリアアップできるステージが広がっている

 

——須賀さんは日本でも働かれた後にニューヨークやパリでもお仕事を経験されています。その視点から日本と海外の差についてお感じになっていることを教えてください。

 

大きな差で言うと、キャリア志向と言う点では欧米の人たちが圧倒的に強いと思います。早く二番手に、早くシェフになりたい、とキャリアの段階の捉え方がとても貪欲です。逆に日本では貪欲に我が先に、というよりは与えられたポジションを黙々とこなすというか、よく言えば我慢強い、悪く言えばそのポジションに安住してしまうというところがあると思います。
今回のRED U-35のようなコンクールの数でも差があると思います。若手にチャンスを与えるというものが欧米にはとても多い。もちろん日本にも無くはないのですが、規模が小さいのかなと感じますね。

 

——海外の人たちの方がキャリア志向が強いということですが、そういった人たちがチャンスを得られる場所や仕組みもあるのでしょうか?

 

こちらフランスでもフレンチの料理人が非常に不足しています。不足というのは、レストランをオープンする数、良い人材を求める母数は多いのにそれに見合う料理人の数が少ないという意味で、です。そのため、若くてもスキルがあって賢い人材がいればキャリアアップしていけるマーケットは十分にあります。現地の店では、教えるにしても3年とか5年、ましてや10年かけてといった時間の余裕はありません。やる気があって即戦力の人材にはどんどん仕事を任せているのが現状です。フランスの若手料理人は特にこの現状をいい意味でうまく利用しているような気がします。

 

——若手にはチャンスなのですね。

 

しかしその反面、最近では長く働き続けるという意識が薄れていると感じています。1年、2年もしくは数カ月でお店をかわることもタブーではないというか、当たり前になってきています。そのためお店側もスキルがあって呑み込みが早い人を辞めさせない、モチベーションを維持させる、というためにプロモーションをさせるということもあって、若い人がポジションをゲットするということも簡単な時代になっているとも言えます。それが時に良い事である反面、20年前に僕が修行を始めた頃のような、いわゆる“レシピを盗む”とか“辛い仕事もきちんとこなす”そのために“辛抱強く我慢する”というような成長するための真面目さが失われつつあるような気がします。現代の学校教育の現場においても言える事かもしれませんが、今は、指導する側(マネージメント側)が指導される側(若手の料理人)に与えすぎることで、甘やかしてしまっていると思うのです。その結果、精神力が弱く、我慢の出来ない料理人が多くなっている。本来そのお店で学ぶべき事を消化しないまま、わかった気になってしまい、他のお店に代る代る移る若手が多くなってしまった。これは非常に残念な状況だと常日頃感じています。このことに関しましては日本の現場も非常に似た状況になってきているのではないでしょうか。

 

“日本人が真面目で辛抱強い”というイメージは崩壊している

 

——日本人と言うと真面目で辛抱強いというイメージがあると聞いていますが、須賀さんの視点で日本人はどのように評価されていると感じますか?

 

残念ながら、辛抱強いとか真面目というイメージはほぼ失われてきてしまっていると思います。昔はフランス人のシェフの多くが「日本人を使いたい」と言うほど、日本人は勤勉で、文句も言わず、お給料や休みについてもあまり何も言わず、とにかく辛抱強くよく働く、よく仕事をするというイメージがあったと思います。しかし、今はそういうのは崩壊しつつありますね。
うちのお店にも日本からたくさんの若い人が来ますが、やはり続きません。我慢強さというのがなくなってきていますね。
言葉の問題もあるかと思いますが、昔の日本人は言葉の壁があっても精神力で辛抱強く乗り越えて、長くやって、一緒に働いているスタッフとのコミュニケーションという点では弱いけれども仕事で見せて、みんなに認められて、というのがあったと思います。最近はワーキングホリデーなどの制度もあってこちらに昔ほどお金をかけなくても来られるようですが、続く人は少ない。「この子はすごいな」という若い人が来ることは少なくなってしまいました。

 

——フランスに来る日本人は増えても、優秀な人は少ないと?

 

基礎的な技術で言うとまだまだ日本は高いと思います。日本のフランス料理のレベルは高いので、そういうところで教えられた人の基礎技術は高いですし、日本の料理学校の教育レベルも高いと思いますから、基礎技術という点では日本のレベルは非常に高いです。ただ、精神的な部分で弱くなっていますね。

 

伸びる人は二日でわかる

 

——さまざまな国の人たちがやってくる環境にいらっしゃると思いますが、伸びる人、というのはどこが違いますか?

 

とにかく貪欲な人、それに尽きると思います。フランスに来たのは別にここで稼いで食べていくためではなくて自己投資として勉強をしに来たのでしょうから、とにかくたくさんの仕事をさせてもらって、勉強して、自分の引き出しを増やしていかなくてはならないはずです。
まず、こちらに修行として来たのであれば、年齢は関係なく教えてもらうという立場からスタートできること。日本人は年齢によるプライドが海外の人と比較して高くて、それが成長を妨げていると思います。
そして、たくさんの仕事をさせてもらうにはどうしたらいいか? やはり上に気に入られることです。どうしたら気に入られるか? やはりそれは一生懸命努力できる、文句を言わない、先輩の考えを汲んで気を使える。そういうバランスが取れている人は早いですね。半年もしたらそういう人とそうでない人は雲泥の差が出ています。正直1年や半年もいりません。2日間、ワンローテーションすれば伸びる人はわかります。

 

——もしかしたら、それは料理の世界だけでなく普通の仕事でも同じかもしれませんね。

 

そうですね。一般企業でもそうだと思いますが、上司から「●●してくれ」と言われた時、いつの期限で何を求められていて、どういったものに仕上げなくてはいけないかを考える、そしてその期待よりも良い結果を出す。それが肝心だと思います。

 

すごい人は、やはり挑戦している

 

——今回のRED U-35には多数エントリーされた方がいますが、迷ったけれども今回はエントリーしなかったという人もいると思います。そういった様々な若い料理人に向けてメッセージをお願いいたします。

 

僕もまだまだ若いと思っていますけどね(笑)。
まず、このRED U-35の第一回は大きな反響があったようで、出ようかなとか、無理かなとか、もしくは今もうスーシェフとかシェフをやっていて周りの体裁もあるし落ちたら恥ずかしいからやめようとか、そういった思いがあり迷ってエントリーをしなかった人も数多くいると思うんですね。
ですが、やっぱり自分もそうですが、苦しい所、大変なところに入っていかないと、人はなかなか一人で努力をできませんし、成長もできないと思います。ですから、こういう良い機会には恥ずかしさとか失敗したときの怖さは捨てて、どんどんチャレンジしていく勇気を持って挑戦したらいいと思いますね。
僕も先日、『アイアンシェフ』という番組に出ましたけど、あれも断る料理人の人たちってすごく多いと思うんです。

 

——必ず一人が勝って、一人は負けるわけですからね。

 

そうです。当たり前ですが、すごくリスキーなんです。しかも、オファーされるのは有名な料理人ばかりですから。そこで「負けたらどうなる」とか考えるとなかなか挑戦できないと思うのですが、それでもやっぱり挑戦できる勇気、自信。あれにチャレンジできる人はやはりすごいです。
先日、お菓子で鎧塚さんと対戦をさせていただきましたけれども、鎧塚さんはもうあれに挑戦する必要なんてないくらい有名で才能を証明された方だと思います。それでも挑戦するパワーや好奇心をお持ちでいらっしゃる。だからこそ今の鎧塚さんがあるんだなと、すごいなと思いましたね。
きっと料理の世界で大御所と言われる人も、ああいう番組に挑戦する事の出来ない人はたくさんいると思うんです。体裁を気にせざるをえないというか…。でも、若い人はそういうのは関係ないんですから、失うものは何もないわけですし、どんどん挑戦してほしいですね。そして、その努力したことというのは最終的に失敗しても、コンクールで賞はとれなくても、残るものはあるわけです。そこにチャンスがあればどんどん挑戦していくという気持ちを、持ってほしいですね。

プロフィール

須賀洋介(ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション エトワール シェフ)

1976年生まれ。愛知県出身。フランス料理店を経営する家に生まれ、自然と幼いうちから料理人を目指し、高校卒業後フランス語を学ぶために渡仏。帰国後ホテル西洋銀座で勤務の後、縁あってジョエル・ロブション氏の料理研究所に勤務し、コンサルティングや料理番組の助手を務める。26歳の時にラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション 六本木ヒルズ店のエグゼクティブ・シェフに任命され就任。Four Seasons Hotel、台北店、ラスベガス店を総料理長として立ち上げた後、L'Atelier de Joel Robuchon Etoileのシェフに就任。現在は世界中にあるロブションの店舗を巡りロブショングループの総括シェフとして活躍。

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