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コミュニケーションが創りだす「つながり」と「顧客満足」

山田チカラ(レストラン「山田チカラ」オーナーシェフ)

INTERVIEW 2013.10.02

世界中の料理人やグルメから注目を集め続ける「エル・ブリ」のフェラン・アドリア氏と「旬香亭」のシェフ齋藤元志郎氏。 二人の偉大なシェフから吸収した料理哲学をベースに、斬新で独創的なメニューを日々生みだし続ける山田シェフ。「和の心」を体現するため、「茶の湯」を設けた独創的な雰囲気を持つ「山田チカラ」のオーナーであり、 人と人との出会いを大切にしながら常に変化を求める山田氏に、若き料理人たちへのメッセージをいただいた。

 

不安と迷いが交錯した試行錯誤の日々

 

——山田シェフは、今回のRED U-35の対象者のような若手のころ、どのようなことを考えて仕事をしていましたか?

 

まず私の30代といえば、スペインから帰ってきて、レストラン勤めをしていた頃ですね。旬香亭の斉藤元志郎氏が総料理長としていらっしゃって、その店舗のひとつである「旬香亭グリルデ・メルカド」のシェフとして勤めていたのですが、正直自分が何をしたらいいのかという部分を模索していた時期でもありました。それは料理人としてあるべきか否かという話ではなく、まだ日本にないものを誰よりも早く行なっていたものですから、ストレートに伝わるお客さまの表情から、調理器材や食材の調達・準備に至るまで、とにかく毎日が手探りの連続。例えばインポーターの方に、まだ国内にない物品の輸入をお願いしたり、もしくは手に入る範囲のもので代用できないかなど、日々試行錯誤を繰り返しながら、成功とかそういのはまだ考えにも及ばない感じでした。

 

——そのような日々が山田シェフにもあったんですね。その当時と今を振り返って、気付く変化などはありますか。

 

今でも状況として継続していると思いますが、情報にも目に見えるものにも言えることですが、とにかく変化や世間への広がりが早くなっている気がします。例えば10年前は誰もやっていなかったエスプーマ(注1)なんかも、今ではみんな普通に知っている技術になりましたよね。料理を盛り付ける食器ひとつ取っても、以前とは比較にならないくらい、その選択肢が用意されています。業界はこのことにより、たくさんのことを共有できるようになりましたが、半面若い方にとってはかわいそうな時代でもあるのかなと、感じる部分もあります。

 

想いだけでは伝わらない、語学の重要性

 

——物事にはそれぞれ善し悪しがあるのは、世の常ですね。変化の一環に情報というものがありますが、ここは具体的にいかがでしょうか。

 

SNSの波及やネット環境の整備によって、特に海外との交流が非常に身近になったと思います。そこで私が具体的に若い方によくいうのは、「とにかく言葉を覚えなさい」ということ。私自身、95年にバルセロナに行った時はほとんど言葉が分からなかったこともあり、1年はロスしたと感じた経験があるので、これからの方、特に海外へ出てみたいと言う方は、コミュニケーションを取るため、「語学」の重要性を強く伝えたいですね。

 

——そこは想いだけでは乗り切れない部分なのでしょうか。

 

もちろん情熱・熱意といった想いが、何よりも先にくるものです。しかしそれだけではない部分が現実には存在しました。海外に行けばコミュニケーションがとれることで、就労先で任される仕事量は数段変わりますし、何より現地の人たちの自分に接する姿勢が違ってきます。それは私も片言の英語を学び始めたころに、強く感じた部分でもありました。また、あくまでこちらは勉強に行かせていただいているのですから、言葉も分からずにそこに身を置くというのは、大変失礼なことであるとも思います。
さらに加えて言いますと、料理を学びにいったその国の文化や歴史に興味を持つこと。技術や発想といったものは、言ってしまえば世界中どのシェフのもとでも学べるものだと思います。しかし本質的な部分を求めるとき、それは語学抜きにして成しえないと思いますから、一料理人としてだけではなく、一人の人間としての価値を高める意味でもそこは押さえて欲しいです。

 

人とのつながりが自分を育てる

 

——ご自身の経験からの言葉は、何より説得力がありますね。他に意識しておくべき点などはいかがでしょうか。

 

我々料理人は、料理を通じて食べ手へさまざまなものを届け、その先の顧客満足を追い掛けているわけですが、食材や包丁とだけ向き合っていても、本当にお客様が求めているものには届かないと考えています。お店には色々なお客様がいらっしゃるわけですから、その方々とコミュニケーションをとり、それぞれ異なる背景を理解するため、常にアンテナを広く巡らせ、自ら率先して興味を色々なものに注ぐ必要があると思います。
あとは「人とのつながり」です。これは今日明日で作り上げられるものではありませんが、広いようでせまい業界の中で、ある日知り合いが自分と関わりのある店舗で働くといったようなことがあるかもしれませんし、逆もしかりですから、出来る限り多くの人とつながりを持つべきです。

 

——ネットが普及して、周囲とのつながりが薄く感じる時代だからこそ、今まで以上に意識したい部分ですね。

 

つながりという部分に派生すると、だんだんと少なくなってしまっている昔ながらの大箱のレストラン、いわゆるグランメゾンや料亭と言われる場所では、若手がいて中堅がいて、その上にシェフがいてと、さまざまなことを学ぶ環境が整っていたのではないでしょうか。そこには教育と言う部分も含まれており、例えばシェフと二番手の人が話す内容が、若いときには教養や知識となり、その日々の積み重ねが、自分のステップアップにつながる。時に理不尽に叱咤されることもあるでしょうが、結局その経験を通じて、最終目標であるお客様への応対術を学んでいたりするわけで、そこは今自分がオーナーになり感じる部分ですね。

 

「軸」が導く未来の自分

 

——それでは最後に今回の大会に挑戦している方々、そしてすべての若い料理人たちへのアドバイスやメッセージをお願いします。

 

僕は若いときから、常に自分の最終目標を思い描いていました。その道程は、「今日はこれ、明日はこれ」といった具合に変わってしまうこともあります。ただゴールを常に頭に置くことで、ひとつ自分の中で「軸」が生まれます。私自身、その「軸」に支えられ、今日まで進んできました。これから表舞台を目指す方々も、常に最終目標を持って進むことで、辛い時期や伸び悩む時期を乗り越える支えとして欲しいと思います。
また、メッセージとして伝えたいことは二つ。一つは折角の大会ですから、思い切り自分のカラーを出して、やり残すことのない大会にしていただきたい。そしてもう一つ大切なことは、日本人として、自国の文化や歴史をきちんと踏まえたうえで、世界へ飛び出して行ってもらいたいということです。どれだけ素晴らしい技術を持っていたとしても、海外にでれば私たちは日本人として見られるわけで、自分の国の成り立ちも知らないままには、誇りを持って仕事ができないと思います。これは料理の歴史も含めてのことで、先程の話とは矛盾するように聞こえるかもしれませんが、大切なことはオリジナリティを出す前に、本質を理解しようということです。過去の料理人が届けてきたお皿や食器、盛り付けなど、全てに意味があるはずですから、そこを知ることが必要であり、本質を欠いたオリジナリティは、非常に薄いものに映るでしょう。
本質に辿りつくために、途中述べた「コミュニケーション」「つながり」「アンテナ」というものが重要であり、それらを深い内容が伴うものへ昇華させること。そこに料理人の本当の大変さと面白みがあるんだと思います。そしてそれを満たした時、知識と経験に裏付けされた自分が存在し、どこに行こうと、誰と仕事をしようと、常に自信を持って歩んでいけるのではないでしょうか。

 

(注1)エスプーマ(ESPUMA)/山田チカラ氏が勤めていたスペインの料理店「エル・ブリ」の料理長フェラン・アドリアによって開発された料理、またはその調理法、調理器具のことを言う。亜酸化窒素を使い、あらゆる食材をムースのような泡状にすることができる画期的な調理法で注目されている。

プロフィール

山田チカラ(レストラン「山田チカラ」オーナーシェフ)

1971年、静岡県に生まれる。89年、大月ホテルの「ラ・ルーヌ」に入店。95年、料理修業のためヨーロッパに渡る。2002年、「旬香亭グリルデ・メルカド」料理長。07年、南麻布に「山田チカラ」をオープン、現在に至る。カタルーニャ地方を中心に約6年間滞在したスペインでは、世界中の料理人やグルメから注目を集め続ける「エル・ブリ」のフェラン・アドリアに1年半余り師事。山田氏の斬新で独創的な料理のスタイルはここで培われた。フェラン・アドリア氏、そして、山田氏が師と仰ぐ「旬香亭」のシェフ齋藤元志郎氏。この二人の偉大なシェフから吸収した料理哲学をベースに、唯一無比のメニューを生みだし続ける。

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