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「0から1を生み出す力」が、料理人の価値を暗示する

成澤由浩(レストラン「NARISAWA」オーナーシェフ)

INTERVIEW 2013.11.06

「The Sustainable Restaurant Award」において、世界No.1に選ばれた『NARISAWA』のオーナーシェフである成澤由浩氏。 「サスティナビリティーとガストロノミーの融合」というテーマで、自然保護に関わる料理を発表し、世界へ影響を与える氏に、未来の料理人たちへのメッセージを伺った。

 

人々の幸せと食卓 海外修行と独立の背景

 

——成澤シェフは、今回のRED U-35の対象者である若手の頃、どのようなことをされていましたか。

 

まず19歳のときにヨーロッパへ行き、そこから約8年間、海外で料理の修業をしていました。海外へ飛び出した理由は、私が料理人になるきっかけからつながるのですが、実は実家が飲食店を営んでいたのです。そこで、子供のころから人々が幸せそうに食卓を囲んでいる姿を目にしながら育ちました。そして気が付けば、そんな人々が幸せそうな時間と空間をつくる仕事に憧れ、それであればと、本場を体験するために渡航を決意しました。そして26歳の終わりに帰国し、そこから自身で経営する最初のお店、『La Napoule(ラ ナプール)』をオープンしました。

 

——26歳という若さでの開業、独立ですが、当時のお話を少しお聞かせください。

 

開業や独立といったことは、私にとっては凄く自然なことでした。なぜかと言うと、これは今でも信条にしていることですが、「誰とも違う自分のスタイルを表現する」という点です。ヨーロッパで学んだ経験もありましたし、海外に行く以前に、日本の誰かの下で学んだわけではなかったので、日本では自分の店を持つことが一番当たり前の選択肢でした。
そして開業当初は、向こうで勉強した食材に精通していたことと、その素材の品質の高さへの信頼から、ヨーロッパの素材を用いた料理を提供していました。しかし、魚や肉を含めた国内の食材やその生産者と触れ合ううちに、日本における素材の素晴らしさに気付き、それらを使って料理を作りたいと思う気持ちへと変わっていったのです。

 

「土のスープ」誕生 原点を見つめる意識

 

——当初ヨーロッパの食材へのこだわりというのは意外だったのですが、現在にいたる背景やそのきっかけは何だったのでしょうか。

 

日本で店を構えて働く中で、日本の素材を使って料理を作りたいという気持ちは、年々強くなっていきました。また日本人として、そうしなければいけないのではとも・・・。そうして迎えた2001年、「土のスープ」誕生が、私の中での転機になりました。
それ以前も地方を巡り、たくさんの生産者の方とお会いしてきました。当時も、無農薬の安全な野菜作りをする生産者のもとを訪ねていたのですが、ある真冬の日、訪ねた先で辺り一面「土」しかない畑を目にしました。その風景を俯瞰して、「この人は、土を育てていたんだ。こんなに素晴らしい野菜をつくり出す土、ならばこの土も食べられるのではないか?」と考え、「どんな素材も安心、安全であるためには、土が健康でなければならない」と感じたのです。そこで根幹となる、「原点を大事にする」という考え方が芽生えました。そして、そこから生み出されたものが、「土のスープ」。原点の大切さを訴えるため、実際に土を食べられる料理を、世に送り出しました。

 

——他にも「水」「炭」など、今までにない切り口で、新たな料理を提唱してこられましたね。

 

2001年以降、さまざまなテーマを取り扱う中で、私の関心は土や畑から少し奥に入って“里山”というものへ導かれました。そこから古き良き日本の伝統に関心を持ち始め、さらに日本の素材や食文化にこだわることで、料理の手法も変化していったのです。食材によっては凝った技術を用いるよりも、調味料にこだわってシンプルに仕上げたり、日本の技術を用いることで、より素材が活きることがあります。また、日本の「出汁」文化を突き詰めていき、クリアなスープというもの求めたときには、中国料理の技術が長けていると知りました。そのような経験から、ジャンルにこだわらず、日本の素材を活かし、食文化を表現するためには、どうするかというところに行きついたのです。
2009年の終わりごろからは、里山に入り、日本の荒れ果てた森の状況というのを知り、「森」をテーマにした料理を発信しています。我々料理人は、素材を通じて常に自然と密接に関係しているわけですから、そういった環境を考えた料理を作っていきたいと、今は考えています。

 

真実の食材選びが、未来を変える

 

——それではここで、シェフが考える料理人という仕事について聞かせていただけますか。

 

自分自身、そしてスタッフに言い聞かせていることは、「人を喜ばせる仕事だから、美味しいものを作らなくてはならない。そのためには、真実の食材の取り扱いが必要である」ということです。「真実の食材を取り扱う」というのは、ただ安全で環境にいい素材選びというだけではなく、素材の育った環境や、生産者の生活、未来への影響まで考え、100年、200年先も、人々がテーブルを囲んで幸せな時間と空間を共有できるような行動を、食材選びの中にも落とし込んでいくことです。
現代は大量生産、大量消費による、作業と価格の効率化がメインの時代となっています。だからと言って、目先の価格やコストを重視しながら、料理人が届けるべき「安心、安全」を疎かにするのではなく、常に未来のことに目を向ける。真実の食材は、単純に比較すると少し高くつきますが、それはとても自然なことです。それでも、その選択がこの国の生産者と環境の未来を変えていくのならば、喜んで貢献をしていきたい。そこまで考えて仕事ができれば、最高だと思います。

 

「0から1を生み出す力」only oneを目指すこと

 

——それでは最後に、若手の料理人へ向けたメッセージをお願いします。

 

日本の料理人というのは、非常に勤勉で、特に表現のうえでの技術的な部分は上手だと思います。ただ、今後世界の中で活躍したいならば、絶対的に弱いと感じる部分があります。それは「0から1を生み出す力」、いわゆる、新たな価値の創造です。なぜ、「NARISAWA」がアジアNo.1のレストランと言われるようになったか。それは、誰かの模倣ではない、世界中でここにしかないものを発信し続けてきたからに、他なりません。決して簡単なことではないですが、世界の中で抜きんでていくためには、人と同じであることを目指すのではなく、only oneを目指すこと。それが世界へ影響を与える新たな価値の創造につながってきます。そのために必要なことは、何事も深く考えること。そして、料理に使う素材が、生きている状態を知ることです。我々はその食材の命を奪って食べているわけですから、その感覚を今一度取り戻し、自分が口にしているものの背景を考えてもらいたい。そうすることで、必ず見えるものがあるはずです。

プロフィール

成澤由浩(レストラン「NARISAWA」オーナーシェフ)

1969年愛知県生まれ。東京・南青山「NARISAWA」オーナーシェフ。19歳からの8年間をヨーロッパの著名なシェフのもとで過ごし、帰国と同時にオーナーシェフとして神奈川県小田原市に「La Napoule(ラ ナプール)」をオープン。2003年には、店名を「Les Créations de NARISAWA(レ クレアシヨン ド ナリサワ)」と改め、東京・南青山に移転。2011年、店名を「NARISAWA」に改名。「サスティナビリティーとガストロノミーの融合」というテーマで、世界でもいち早く、自然保護に関わる料理を発表。素材を生み出す背景を守る気持ちから、料理を通じて、環境問題を世界へ訴え続けている。 2013年には、「The Asias 50 Best Restaurant」アジアNo.1、「The World 50 Best Restaurant」20位、ベスト オブ アジア、「The Sustainable Restaurant Award」世界No.1を獲得し、今後も世界へと新たなスタイルを提唱していく。

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