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日本が誇る豊かな自然環境の “通訳者”として

山本征治(「日本料理 龍吟」オーナーシェフ)

INTERVIEW 2014.08.05

日本料理は、日本人が世界に発信することのできる“本物”のひとつである、という信念のもと、2003年、東京・六本木に「日本料理 龍吟」を開店。 「ミシュランガイド 東京・横浜・湘南2012」以来、3年連続でミシュラン三ツ星を獲得。2012年には中国・香港「天空龍吟」をオープン、さらに年内には、台湾・台北にも出店予定と、 日本料理の真髄を世界に広くアピールする山本征治氏に、未来の日本を担う料理人たちへのメッセージをいただいた。

 

“国技”ともいうべき日本料理を極め世界に発信する

 

——2013年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど世界の注目が集まる一方で、調理師専門学校等では日本料理を志す若者が1割にも満たないという話を聞きます。なぜ、このような状況になってしまったのでしょうか。

 

日本料理人は今や絶滅危惧種なんです。それは先人たちが日本料理を続けゆくことに秘められた魅力を、若者たちに上手に語り聞かせることができてなかったからでしょうね。夢をつかんだ人間たちが次にすることは自分の仕事の価値を守り、惜しまない発信を実行し、価値を共有してくれる人の心に向けて、あらゆる手法をもってメッセージを発信していくこと。
日本料理のその先に、やり甲斐が見えなければ若い方々は不安で、その世界には飛び込めない……。というか、価値がまったく伝わってないから若い方々から「日本料理なんて…」と舐められているのです。

 

——山本シェフが日本料理を志したのはなぜですか?

 

私がこの道を選んだのは19歳のとき。日本料理こそが日本人のもてる“本物”のひとつだと考えたからです。それは相撲や柔道、歌舞伎などと同じく、この国オリジナルの文化であり、世界に発信できる“本物”のひとつであり日本の“国技”です。フランス料理や中国料理の本物を知るには本場に学びに行かなければなりません。私はそれよりも日本人の一人として自分が生まれ育った国に“本物”がある料理を極め、世界に発信して行くのだと心に決めたのです。

 

——山本シェフは若いころの目標通り、現在「日本料理 龍吟」をはじめさまざまな活動を通じて日本料理の魅力を広く世界に発信していらっしゃいます。ご自身の料理で何を表現されているのですか?

 

料理屋には日々、美味しいものをどうしても食べたいという強い欲求を訴える方々が、それを満たすために、あらゆるところからやって来られます。そんな方々のために我々は、毎日白衣を着て、“日本料理”という“秘薬”を処方するのです。器の中には素材の季節感や質感、温度、香り、素材感など、すべての要素が最高の状態にブレンドされたものが詰まっています。
つまり、日本料理とは日本の尊さ、素晴らしさ、豊かさを料理を通じて伝えるものであり、形やレシピの継承だけではなく、身体に収まりゆく感覚や心を満たすことまでをも料理しているのです。これが日本料理の精神です。日本料理は目にも見えないものを御馳走に変えてお客様の心を満たす秘薬を作ることができる……。
私は海外で、私の料理の在り方は「Healing cuisine by Japan(日本に癒される料理)」と語ってきました。今やそれは私の海外での代名詞になっております。

 

——料理を“自分のもの”にしてはならないとはどういうことでしょうか?

 

そもそも“個性”、“オリジナリティ”、“唯一無二”という表現は、他人が語ってくれるものであり、料理人が自ら語るものではありません。日本料理は、そんな個人の都合よりも、遥かに大切に、お客様に届けたい尊いものがあります。それは“日本という国の豊かさ”です。食材のクオリティやバラエティの豊かさにおいて、この国に比類する国はそれほど多くはありません。豊かな自然環境に育まれた食材たちをいただくたびに自国が誇らしく思えてくるものばかり。我々は料理を通じてそのことを伝えていかなければなりません。日本国がもてる数ある中の “本物”のひとつであり、世界に誇るべき日本料理を日本人の誇りとして世界に発信し、その精神を伝えていこうじゃないか――。これが私から日本料理を志す若手料理人への最大のメッセージです。

 

——そのような考えに至ったきっかけとは?

 

私はこれまで世界中で開催されているさまざまな料理学会に招待され、発表を繰り広げてきました。初めてプレゼンテーションをしたのは今から9年前のこと。その体験は大変ショッキングなものでした。日本料理は、盗んで覚えろ、秘伝なんだから、などといった言葉で語られがちです。そんななか、海外では新しいレシピや調理法などその研究結果は惜しげもなくすべて公開され、共有するべきであると発表されていたのです。そんな共通認識をもった料理人たちの姿はまるで、新たな治療法や特効薬など自身の技術や研究結果を学会で発表し、共有することで世界の医療の発展に貢献せんとする医学者たちの姿に重なってみえたのです。プロフェッショナルとしての意識の違いに、正直負けたとさえ思いました。これから自分はどのように料理に取り組むべきなのか……、やはり強烈な個性やオリジナリティ、クリエイティビティをアピールしていくべきなのだろうか……。正直、そんなことを考えたこともありました。しかし、それでは食べ手を置き去りにした自分の進化を優先させているに過ぎない。私には日本人全員が誇るべき日本の自然環境がある。それを担ぐ人間になろう。自然界の“通訳者”としての技術を磨いていくことの方が崇高な考えであると信じているのです。

 

—— “通訳”ですか。

 

そう。我々は世界に誇るべき日本の食材たちの“言葉”を、お客様に伝える“通訳者”に過ぎません。そこに料理人個人の都合など介在していない料理の方が、お客様の胃にすっとおさまるものです。それが料理人としての清さ溢れるすごい技術です。ですから、「さすが山本シェフ!」だとか、「龍吟さんの料理はおいしいね」などと言われているようでは、自分はまだダメだと思いますね。それよりも「やっぱり日本って素晴らしいな」、「日本の夏は最高だ」と、自分の料理を通じて、そう言われてはじめて意図したことが叶うわけです。スタッフたちにも、素材に語らせるとは何なのかを教えることが重要だと考えています。それが最も尊いことなんです。まず第一に料理とは理(ことわり)を料る(はかる)ことであり、白衣を着て作業をすることとは違うということを理解する必要がありますよね。

 

——“己を捨てる”とは?

 

人間の存在など自然界では点のようなものです。己を捨て、自分が担ぐべきものだけを考えること。では何を担ぐのか? それはもちろん自然環境の豊かさです。龍吟の門を叩く若者にはこう言います。「僕にあこがれてきた? 僕を担いだって日本料理の前では何の役にも立たないよ。それよりも、本気で日本を愛しているか? そうであれば料理は必ずできるようになる。そこから本当に大事なことをみせてあげる」と。自分が尊いと思うものを伝えていきたいと本気で願うこと。そうした覚悟がなければ、努力が100%報われるかどうかわからない世界でやっていくことは難しいかもしれません。「認めてもらいたい」、「評価してもらいたい」といった心構えでは、素材を大事にできないし、何よりお客様を大事にすることもできず、どこかで限界を感じるときが来るでしょう。そうではなく己を捨て、日本の食材のすごい力を信じて100%の仕事をすること。そうすれば日本の自然環境が味方をしてくれるはずです。

プロフィール

山本征治(「日本料理 龍吟」オーナーシェフ)

1970年、香川県生まれ。2003年東京・六本木に「日本料理 龍吟」を開店。「ミシュランガイド 東京・横浜・湘南2012」以来、3年連続でミシュラン三ツ星を獲得。「ザ・ワールド50 ベスト・レストラン 2014」では日本料理で最高の33位、同アジア版では第5位に選ばれている。世界各国から研修生を2005年から積極的に受け入れている。

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