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失敗してもいい。挑戦することに価値がある。

桜井博志 (旭酒造株式会社 代表取締役社長)

INTERVIEW 2016.05.24

「獺祭(だっさい)」といえば、日本国内のみならず、海外でも人気の日本酒だ。その獺祭を造るのが、山口県の旭酒造。高品質な日本酒の原料として人気の高い山田錦を使い、その米をさらに半分以上磨き上げる純米大吟醸の製法でしか醸造しないという日本でも類を見ない蔵元だ。酒質の向上のため、常に革新を続けるその姿勢は、「RED U-35」の挑戦者にも通じるもの。そんな旭酒造の代表取締役社長である桜井博志氏に、新たな料理の地平を切り開こうと日々奮闘する「RED U-35」のチャレンジャーたちへのアドバイスやエールをいただいた。

 

——「RED U-35」の意義はどんなところにあるとお考えですか?

 

旭酒造は山口県で「獺祭」という日本酒を造る蔵元です。醸造する日本酒がすべて純米大吟醸であることと、積極的に海外展開を行っている点が、ほかの酒蔵さんとちがう部分かもしれません。今回「RED U-35」の主旨をお聞きして、若い料理人の皆さんには意義のあるコンペティションだと感じました。参加される料理人の皆さんは、プレッシャーがかかって大変だと思いますが、ご自身の成長のためには欠かせないことでしょう。競い合い、比較されることなくして、成長はありません。常に自分たちを変化させ、洗練させていかないと、料理も日本酒も進化していかないですからね。

 

——日本の酒造家から見て、日本の料理がさらに進化していくためには、何が必要だと思われますか?

 

やはり圧倒的な“おいしさ”です。日本人だからとか、日本の酒だから、あるいは伝統があるからすごい、ということではなく、純粋に“おいしいもの”を造らなければならい。現在の世界は、フレンチもイタリアンも和食も同じ土俵で戦っているわけです。お客さんにとっては、ジャンルのちがいなんてどうでもいいこと。お金を支払う価値があると認めてもらえるものでないと、世界では戦えません。そもそも、優れているものでなければ、価値がないじゃないですか。

 

——圧倒的なおいしさを出すためには何が必要ですか?

 

弊社は昨年度の醸造量が1万6千石、今年は2万6千石となる予定です。純米大吟醸を造る蔵としてはダントツのナンバーワンになり、利益的に有利にはなります。そして、上がった収益は、すべて酒米などの原料に投資します。原価にお金をかけなければ、いいものはできないんです。真心だけでおいしくなるなんていう甘い話ではない。お金をかけても必ずしもいいお日本酒ができる保証はないのに、投資もせずにおいしいものができるという理屈はないんです。日本酒の質を上げるために醸造の効率を上げ、上昇した収益を従業員の所得、原材料、米の精米歩合などに投資する。そのためには、経営者は時に厳しい判断を下す必要があります。

 

——世界で戦う上で必要なこととは?

 

フレンチのジョエル・ロブションさんを見ていて思ったのですが、世界で勝負するためには“専制君主”でなければならないということです。皆で協力すれば、ある程度のレベルの味までは到達することができます。しかし、料理でも日本酒でも、それ以上に突き抜けて圧倒的においしいもの、すぐれたものにするためには、自分が目指す味に対するビジョンを明確に示し、強いリーダーシップを発揮することが必要なのではないでしょうか。今、私たちが参入しようとしているのは、味や品質のクオリティに、お金を惜しまない方々のマーケットです。たとえば、獺祭を扱っていただいているパリの「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション・エトワール」で食事をし、獺祭を飲むと、ふたりで1000€は超えますよね。こうした方々は、日本やフランスといった国籍関係なく、似たような価値観、味覚をもっているように思います。繰り返しになりますが、世界でも日本でも、圧倒的なおいしいものをつくりさえすれば、そのよさを理解してもらえるのではないでしょうか。

 

――日本酒や日本料理にはどのような可能性があるとお考えですか?

 

独自の文化やアイデンティティをもった日本は、世界のさまざまなジャンルに影響を与えてきましまた。その点において、日本文化のもつ可能性は大きい。もちろん、日本のものはすべていいのかというとそうではない。常に洗練させる必要がある。しかし、根本的に持っているものは価値があり意味があるものだと思います。たとえば日本料理でいうと、食材の見極め方であったり、選んだ食材の最高の部分だけを提供するといった特質です。酒米の5割以上を削ってしまう日本酒の大吟醸にも通じる部分がありますね。最良のものを求めるためには、努力を惜しまない日本人の気質は、大きな武器になるでしょう。

 

——RED U-35に参加する料理人へメッセージをお願いします。

 

私たちは本当においしい日本酒を追求する“志”が必要だと考え、日本酒を造ってきました。“おいしいもの”さえつくっていれば、お客さんはお店に通ってくれるはずです。ただし、独りよがりではダメ。その見極めは、お客さんの評価です。評価が低ければ、そこには何か原因があるはずなんです。人はいつも自分が選択した道が正しいと思いたいものですが、ときには己を批判的に見ることも必要です。極端な話、失敗してもいいんです。挑戦なくして、新しいものは生まれません。私はこれからも素晴らしい料理と合わせていただける日本酒を造っていきたい。だからこそ、これからの若い料理人の皆さんには、そういう料理を見せてもらいたいと思います。楽しみにしています。

プロフィール

桜井博志 (旭酒造株式会社 代表取締役社長)

1950年山口県生まれ。1973年に松山商科大学を卒業後、76年に実家である旭酒造に入社。一時、酒造りの方向性や経営をめぐって先代の父親と対立し退社。84年に父の逝去受けて家業に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建を計る。四季醸造や遠心分離機の導入など革新的な日本酒造りを進め、現在では積極的に海外にも進出している。

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