2012年、「Sola Paris」でミシュラン一つ星を獲得し、2018年に福岡・博多港に「Restaurant Sola」をオープンさせた吉武広樹氏が、「RED U-35」グランプリとして初の審査員に就任した。「地方でレストランを営む料理人が審査員を務めるうえで何を伝えられるか、大いに挑戦したい」と語る吉武氏が、どんな才能に注目するのか。その心境を聞いた。

——吉武さんがグランプリを獲得した2014年以降、料理人が担うべき社会的な役割や責任にさらなる注目が集まるようになりました。その間、吉武さんご自身に変化はありましたか？

料理界に飛び込んだころ、僕はただひたすら技術を磨くことだけを考えていました。しかし、現在料理人が考えるべきことは山ほどあります。環境問題やフードロス問題もそのひとつ。こうした社会的課題の解決に取り組むのは、料理人としてもはや当たり前のこと。ただ、料理人だけでできることには限界があります。ですから、業界の垣根を越えて知識や経験を共有し、解決策を模索していくしかありません。

僕は店から出る生ごみを堆肥にして、自前の家庭菜園で使っているのですが、この仕組みをもっと大きなサイクルに変えたいと思っているんです。たとえば、リサイクル業者や生産者と協力して、福岡の飲食店から出る生ごみを集めて巨大なコンポストで堆肥にし、農家さんに還元できないかなど、堆肥に詳しい生産者などに相談しながら、いろんな可能性を探っています。

——そういった業界横断的な考え方ができるか否かも、吉武さんの審査で重視するポイントのひとつになるのでしょうか？

そうですね。料理以外のことに興味をもち、さまざまな分野の人と関係を築ける人を評価していきたいです。そのためには、料理業界をはじめ、さまざまな業界に対してリスペクトをもっているか否かも重要。一方で、職人気質の料理人も必要だと思うので、もちろん料理技術もしっかり見たいですね。

※吉武氏が最近記憶に残った料理／「狐野さんも修行されたアルページュ（フランス・パリ）のシェフ、アランパッサール氏の料理。2000年に肉料理の提供をやめ、牛で畑を耕し、華やかなコンペティションの賞には目もくれず常に時代の先を進まれているシェフが、コロナ後の今、何を考えこの料理を作られたのか……。一風変わった料理だったので、すごく印象に残っています」@alain_passard

——ユニークなアイデアを表現するためには、確固たる料理技術も必須だということですね？

情報過多の時代において、唯一無二の料理で存在感をアピールするのは難しいかもしれません。ただ誰かの真似ごとなのか、その人自身のオリジナルの考えから導き出された料理なのかどうかは、見ればわかります。そこには確かな技術が絶対に必要です。しかし、テクニックの追求だけでは自己満足で終わってしまう可能性もある。技術の修練と、他業界のプロフェッショナルの意見を取り入れる柔軟性とのバランスも大切です。

——挑戦者たちと同じ20代から35歳までの期間、吉武さんはどんなことを考え、実践していましたか？

若いころは、先輩に何を言われようが、自分が絶対に正しいと信じて疑わず、がむしゃらに我が道を信じて突き進んできました。しかし20代後半からでしょうか。ようやく、先輩のアドバイスが意味するところを理解できるようになってくると、お客さまの目線に立てるようにもなりました。

また、10年のフランスで生活するなかで、年齢によって相手を見ることがなくなりました。そもそも相手に年齢を聞くということすらありませんでしたから。世代、あるいは業界の垣根を越えていろんな声に耳を傾ける必要があることに気がつけたのも良かったと思います。「RED U-35」挑戦がきっかけで、己の過信に気づいた部分もあります。

——最後に、挑戦者にメッセージをお願いします。

「RED U-35」の挑戦者は例年およそ500名。若手漫才師の日本一を決める「M-1 グランプリ」の応募総数は6000組を越えています。料理従事者は漫才師人口よりも多いはずにもかかわらず、です。チャレンジすることで得られるものは必ずある。出場しなければ何も変わりません。若き才能の挑戦を待っています。

*text by Moji Company