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【レポート】 香港における日本米のプロモーション

レポート 2019.05.13

2018年12月10日(月)、香港で3名の CLUB RED シェフが現地飲食店関係者向けに日本米の講習会を行いました。

【今回ご協力いただいたシェフ】------------------------------------------------
●日本料理: 「菊乃井 無碍山房」 酒井研野(上記写真 左)
●中国料理: 「szechwan restaurant 陳」 井上和豊(上記写真 中)
●西洋料理: 「シエル エ ソル」 音羽創(上記写真 右)
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本企画は、一般社団法人 全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会(全米輸)による「香港への日本産米の輸出促進」を目的とした活動です。

※ 「一般社団法人 全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会」は、農林水産省農産企画課が推し進める「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト構想」の事務局を運営する団体です

日本の農林水産物・食品の輸出は2013年から4年連続で増加し、2016年の実績は7,502億円。2020年の輸出額は1兆円を目標としていましたが、2019年に計画が1年前倒しされています(平成28年8月閣議決定)。
中でも香港は日本産農林水産物・食品の最大輸出先であり、米の輸出先としても全体の3割超を占める最大の輸出先国です。
香港国内の米事情に目を移すと、香港で消費される米はすべて他国からの輸入品で、インディカ米が3分の2、ジャポニカ米が3分の1と言われています。自宅で料理をして食べる内食と、レストランなど外で食べる外食の割合は「2対8」と外食率が極めて高く、日本産米の販売先は小売とレストランで「1対9」だそうです。

こうした背景から、日本産米の輸出を増やすためには現地飲食店の取扱量を増やすことが不可欠と考え、香港で割合の多い中国料理店のシェフを対象に、日本産米の魅力を伝えるための取り組みを行いました。
「価格」競争から「価値」競争への転換。単に味やレシピを伝えるのではなく、両国の料理人がアイデアや考え方を共有することで、今後香港のシェフたちが様々な発想のもとで日本米を使いこなし、継続的に日本米を使った料理を提供してくれることを目指しました。

以下の3つのステップで進めました。

① 合同勉強会:2018年11月12日(月)
② 事前検討会:2018年12月3日(月)
③ 日本米プロフェッショナルセミナー in 香港:2018年12月10日(月)

【①合同勉強会/2018年11月12日(月)13:30~16:30】

講師となる3名の CLUB RED シェフが香港でのセミナーで効果的なメニュー展開をできるように、農林水産省、全米輸、香港で米を流通する木徳神糧株式会社などの関係者がキッチン設備のある施設に集まって勉強会を行いました。
合同勉強会は米や炊飯に関する学術的内容や、香港の米市場や現地の米料理などのビジネス的情報の共有のほか、産地や品種が異なる米の食味試験を行い、日本米の特徴を改めて体感しました。

香港の水は東京と同じく「中軟水」だそうです。そこで食味試験では、1つ品種の「軟水・中軟水・硬水」の炊き分けと、すべて中軟水で炊いた国内外の米11種類を食味しました。

一般に、ふっくらと炊き上げるなら「軟水」が適しており、「硬水」を使うと含有するミネラル分がお米に付着してお米の吸水を妨げるため、軟水で炊くよりも水分が少ない状態で炊き上がるそうです。日本の水は軟水~中軟水ですから、程よい粘りと甘みがある日本のお米(ジャポニカ種/短粒種)にはマッチしているのですね。

試験は

① 秋田県産 あきたこまち: コントロールとして、軟水・中軟水・硬水 で炊き分け
② 北海道産 きらら397: 中軟水
③ 青森県産 つがるロマン: 中軟水
④ 山形県産 はえぬき: 中軟水
⑤ 山形県産 つや姫: 中軟水
⑥ 長野県産 こしひかり: 中軟水
⑦ 滋賀県産 日本晴: 中軟水
⑧ 大分県産 ひとめぼれ: 中軟水
⑨ アメリカ産 ジャポニカ米: 中軟水
⑩ タイ産 ジャポニカ米: 中軟水
⑪ タイ産 長粒米: 中軟水

で炊飯し、試食しました。

日本米は品種や産地によって特有の粘りや甘みに多少の差はありますが、総じて美味しく、その繊細な差は白飯として食べる日本の文化では重要視されても、料理にすると品種の差は感じにくいという意見にまとまりました。また、香港でのセミナーの聴講者はプロの料理人であることから、品種をPRするのではなく、

●日本米の特長を活かした(日本米だからこそ作りやすい)料理アイデアの共有
●日本米は冷めても美味しいというPR

をすることをテーマに香港で実演するメニューを検討することにしました。

【②事前検討会/2018年12月3日(月)13:30~16:30】

本番1週間前、再度キッチン設備のある会場に関係者が集まり、3名の CLUB RED シェフたちが実際に調理をして、メニューの確認会を行いました。これは、リハーサルを兼ねて、本番で試食提供する料理の確認とともに、デモンストレーションでお話しする内容を整理するためのものです。
前回の合同勉強会での食味試験やディスカッションを経て、3名の CLUB RED シェフが提案した料理はこちらです。日本米の特長を表現するとともに、様々な調理法を提案することで、現地シェフたちのイマジネーションを促すことを目指しました。

左から、菊乃井 無碍山房 酒井研野氏、 szechwan restaurant 陳 井上和豊氏、シエル エ ソル 音羽創氏

まずは酒井さんの「美味しいご飯の炊き方」をデモンストレーション。臭みのないふっくらしたご飯に炊き上げるために、最初の水はすばやく捨てること、精米技術が発達しているのでゴシゴシせずにやさしく洗って粒を壊さないこと、火を入れる前に十分に浸水させること、炊き上がったらすばやくふっくらとほぐすこと、など炊飯1つに「なるほど~」と納得するポイントをたくさん教えてくださいました。

そして各シェフの調理デモンストレーションはリハーサルも兼ねて時間を計測しながらの実演。香港シェフたちが興味を示すと思われる調理のポイントやトークの言葉を確認しました。

日本料理の酒井さんは、「おにぎりは愛情を込めて握ること」といかにも酒井さんらしいトークで始まり、鯖棒寿司とともに冷めても美味しい日本米ならではの料理と解説。また、かき揚げ丼に関しては、日本米はふっくらしているのに汁を吸収してべたつかず、具材に負けない味わいで仕上げられるのは日本米の特長だと話しました。

中国料理の井上さんは、中国料理店が大半を占める香港で、どうしたら興味持って聞いてくれるか考え抜いた末の3品を披露。しっとり喉越し良く仕上げる中国料理の定番「炒飯」、日本米特有の粘りを利用し、やわらかく糊状に炊いたご飯を薄く延ばして乾燥させ、揚げて煎餅状に仕上げる「おこげ」を提案しました。
更に、農林水産省のリクエストを受けて「おかゆ」を検討。単なるおかゆでは元々おかゆ文化の香港では興味を持たれないだろうと考えた井上さんは、日本の甘酒から発想し、発酵調味料を用いた「飲むおかゆ」を提案しました。さすがにこのようなアイデアが出てくるとは思いもしなかったので、会場は感嘆の声に包まれました。

最後に西洋料理担当の音羽さん。米を頻繁に使わない西洋料理でも日本米の粘りを上手に生かせる料理として、リゾットを提案。また、日本米の結着性を利用し、リゾットを成型して焼き上げる「焼きリゾット」も合わせて解説しました。成型して焼くという発想で、お皿の上を美しく盛り付けるのは西洋料理ならではの美しさがありました。
最後にお米を使ったフランスの伝統的なデザート「リオレ」を提案。日本人は米を甘くして食べたり、ご飯に牛乳を混ぜたりすることにあまりなじみがありませんが、シンプルでやさしいデザートの味に、参加者は一様にほっこり安らぎました。

一連のリハーサルを終え、一部のトークを修正し、このメニューで本番も挑もうと関係者全員の意識が一致しました。

【③日本米プロフェッショナルセミナー/2018年12月10日(月)13:30~16:30】

本番当日、香港のキッチンスペース「German Pool Happy Kitchen」に聴講者40名、来賓16名をお招きして「日本米プロフェッショナルセミナー」を実施しました。

左から、 農林水産省 荒田耕士朗氏、在香港日本国総領事館 廣田司氏、日本米食味鑑定士 Alvin Hui氏、木徳神糧株式会社 松本裕之氏

司会者の開会の挨拶の後、農林水産省 政策統括官付 農産企画課 米穀貿易企画室 荒田耕士朗企画官より主催者挨拶、在香港日本国総領事館 廣田司主席領事より来賓のご挨拶をいただき、続いて日本米食味鑑定士の資格を持つAlvin Hui氏による基調講演とへと進みました。

Alvin氏は香港人でありながら日本米に精通し、自ら経営する「Sensory ZERO」というカフェで日本米を使ったうなぎ丼などを提供し、日本米を使った料理が売上の約半分を占めるという香港の日本米第一人者です。香港での自身の経験や活動のケーススタディを交え、「高い!」という印象の日本米が、実は価格とクオリティ、料理の販売価格のバランスから、香港市場でも十分に機能し飲食店にとってもメリットがあるとお話してくださいました。

続いて、木徳神糧株式会社 常任顧問 松本裕之氏による特別講演。世界と日本の米の稲作、精米技術、生産・消費動向から、「なぜ日本米が美味しいのか」を説きました。日本米のPRポイントは、①安心・安全であること、②高品質の米が安定供給できること、③均一の品質を保証できること、だそうです。これらは日本人には当たり前に感じるかもしれませんが、日本人の繊細な感覚が生み出した品質は世界に誇るべきトップクオリティなんだなぁと心にしみた瞬間でした。

そして、CLUB REDシェフたちの実演セミナーは酒井研野さんの「炊飯ワークショップ」から始まります。

《A》 炊飯ワークショップ(担当: 酒井研野)

炊飯ワークショップでは、実際に炊飯して美味しいご飯の炊き方をレクチャー。リハーサル通り、お米の計量、洗米、水切り、浸水、炊き上げ、蒸らし、また米の状態での保存方法まで、通訳を入れて決め細やかに解説しました。

続いて、酒井研野さん、井上和豊さん、音羽創さんの順で調理のデモンストレーションを行います。

《B》 調理デモンストレーション:日本料理(担当:酒井研野)

酒井さんの担当は「おにぎり(炊く・握る)」「鯖棒寿司(炊く・酢で絞める)」「かき揚げ丼(炊く・絡める)」です。

●おにぎり●
冷めてもおいしい日本米のおにぎりは日本人のソールフード。粘りのある日本米だからこそ、強く握らずともご飯がまとまり、ふんわり仕上げることができると解説しました。日本ではおにぎり専門店が某有名レストラン格付け本に掲載されましたが、冷たいご飯を食べる習慣のない香港でも、近年、日本のおにぎり店が空前のブームになっているそうです。

●鯖棒寿司●
日本米の粘り気ゆえに作ることができる鯖の棒寿司は、粘りのない外国産の長粒米ではなかなか作ることができません。酢をお米に絡めることで糠臭さをなくし、海鮮の素材ともマッチするといいます。日本人が古来から受け継いできた知恵なのですね。

●かき揚げ丼●
ふっくらとまとまる日本米のご飯は、上に乗せる具材やそのたれとも良く絡み合う上に、具材に負けない存在感から丼ものにもってこいだと解説。試食提供した料理は小さなかき揚げ丼でしたが、甘辛いたれが良く絡み、非常に美味しかったです。

《C》 調理デモンストレーション:中国料理(担当:井上和豊)

井上さんの担当は「炒飯(炊く・炒める)」「海鮮おこげ(蒸す・揚げる)」「飲むおかゆ(煮る)」です。

●炒飯●
まずは定番の炒飯から。日本では中国料理店に行くと普通に食べられる炒飯ですが、香港ではそれほどポピュラーではないと井上さんは言います。長粒米の炒飯は噛み続けた際の甘みや旨みに深みがない一方で、日本米の炒飯は卵のコーティングでパラパラ感を実現しながら、しっとり喉越し良く飽きのこない仕上がりになると丁寧に説明しました。

●海鮮おこげ●
日本米を蒸して糊状にし、薄く伸ばして乾燥させたものを揚げて煎餅状にしたおこげ。日本米ならではの粘りが可能にする料理です。それゆえ、実は中国や香港ではほとんど食べられていないのだとか。日本米は味や香りを吸収しやすいので、干しえび等を合わせると風味豊かに仕上がるという利点もしっかりアピールしました。

●飲むおかゆ●
おかゆ文化の香港で、おかゆのデモンストレーションをやってほしいという農林水産省のリクエストに、井上さんは考えに考えました!日本では「飲む点滴」といわれ古くから健康によいとされる「甘酒」にヒントを得て、中国料理の「チューニャン(酒醸)」という発酵調味料を使った「飲むおかゆ」を発案。医食同源の考え方を基礎とする香港人にも浸透しやすいと考えたそうです。またグルテンフリーでアレルギーにも対応できるほか、日本米の甘みで砂糖を使わなくてもほんのり甘い口当たりの良さも印象的でした。

《D》 調理デモンストレーション:西洋料理(担当:音羽創)

音羽さんの担当は「リゾット(炒める・炊く)」「焼きリゾット(焼く)」「リオレ(煮る)」です。

●リゾット●
米料理が少ない西洋料理の中で、リゾットは定番中の定番です。今回は桜海老を使って味を付けましたが、日本米は味がしみこみやすく、甘みや味の深みがアクセントとなって、芯を残しながらも米本来の美味しさが味わえる一品だと説明しました。

●焼きリゾット●
一度で二度楽しめる技法としてもう1品、焼きリゾットを提案しました。焼きリゾットは、炊いたリゾットを成型し、更に焼いて香ばしく焼き目を付けます。日本米の粘り気がないと作るのが難しい一品でした。

●リオレ●
リオレは古くから食べられているフランスの家庭料理のデザート。よって、もちろん海外では外国産の米で砂糖を入れて創られています。ですが、今回の日本米を使用することで、日本米本来の甘みが最大限に発揮され、より奥深くやさしいデザートになると説明しました。

 

調理デモンストレーションの後は試食時間を兼ねて地元業者と聴講者の交流会も行いました。

今回の日本米プロフェッショナルセミナー終了後のアンケートでは、基調講演、ワークショップ(米の研ぎ方)、デモンストレーション共に「大変参考になった」が61.5%と最も高く、次の「参考になった」と合わせると80%を超える評価で、現地のシェフたちにとって非常に興味深い講習会になったと言えます。

CLUB REDで海外のお仕事は初めてでしたが、3名のシェフたちが本当にすばらしい仕事をしてくださったおかげで、成功に導けたと思います。

12月の繁忙期の中、スピード感を持ってお仕事にあたってくれた酒井さん、井上さん、音羽さん、当日もまるで3分間クッキングの10連発で、きっとお疲れになったでしょう。本当にありがとうございました。お疲れ様でした!

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