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CLUB RED presents Professional Workshop Vol.1 夢の講師陣に学ぶ次世代料理人塾 レポート

プロフェッショナルワークショップ 2016.09.28

「一流と二流との間にはほんのわずかな差しかありません。
しかし、この“微差”を生み出すには壮絶な“努力”と“経験”、そして“運”を要します。
この機会を糧に、みなさんが“一流”の料理人となることを願っています」。
RED U-35総合プロデューサーである小山薫堂氏の激励でCLUB RED主催の記念すべき初のワークショップはスタート。
CLUB REDの精鋭たちは、夢の講師陣による5つのセッションと、その後の懇親会を通じて、未知なる世界に触れる濃密な一日を過ごすことになった。

Session 1 10:00〜11:10
発酵調味料の理論と調理技術~発酵菌の存在意味を考える
Presented by CLUB RED
講師:村田 吉弘(日本料理 菊乃井 主人/CLUB REDサポーター)

記念すべき1回目のワークショップは、村田吉弘氏による講義でスタートした。
テーマは、今年のRED U-35の応募テーマでもある「発酵」だ。
狙いは「発酵」の仕組みから原理を抽出し応用すること。
そして、その思考法を知ることである。 「“発酵”とは、菌がもつ酵素によってタンパク質や炭水化物が分解され、うま味や甘み成分に変わることです。
では、菌の介在なしに発酵と同じような効果を得られないのか? ということで今回は、“菌”ではなく、“熱”によってメイラード反応を起こし、発酵によってつくられる調味料に非常に近いものを実験的につくってみたいと思います」と語る村田氏が披露したのは、日本料理には欠かせない「ダシ」「醤油」「味噌」の“ようなもの”である。
まずは、コンブやカツオを使わない「NEW 和ダシ」。
主な材料は、ドライトマトとドライモリーユ、そして鶏胸肉。
それぞれ、コンブ(グルタミン酸)とシイタケ(グアニル酸)、カツオ(イノシン酸)の代用である。これらを調理して「ダシ」のようなものが完成した。
続いては「鶏醤油」。主な材料は、先ほどの「NEW 和ダシ」に、ガストリックとバニラ、塩、そして鶏ももひき肉とはちみつを加えて調理。
「これで、酸味と苦味、塩味など醤油の要素はすべて入っています。
ただし麹菌特有の発酵臭はありません。むしろこの香気が邪魔になる料理には、こちらの方が使い勝手はいいかもしれません」。
参加者の手元には、普通の醤油と鶏醤油でつくられた「きんぴらごぼう」が配られた。
「どっちが、どっちかわかる?」と参加者を見渡す村田氏に対し、参加者は鼻を近づけたり、口に含むなどしてちがいを感じとろうとしていた。
注意して食べないとわからないほどの味だったようだ。
最後は、「鶏醤油」同様、発酵を経ない「いちじく味噌」である。
バナナやイチジク、鶏ミンチ、はちみつ、油をフードプロセッサーにかけ加熱すると、フライパンの内部はメイラード反応によってゆっくりと黒みを帯びていった。全体が真っ黒になったところで、「NEW和ダシ」と塩、バニラ、ガストリックを加え味を調整。
フードプロセッサーでペースト状にして、“味噌のようなもの”が完成した。この「いちじく味噌」を使用した豚汁には、たしかに麹菌特有の香りはない。
しかし、だからこそ麹の香りに馴染めない人でも食べられる「世界で使える味噌」なのではないかと村田氏は言う。
「味噌がなければ、味噌汁はつくれないのか? まずはそこから疑ってみてください。
そして、味噌や醤油はどうやってつくられるのか? そもそも発酵とは何か? 今回の講義では、これらの原理を理解することで、同じようなものがつくれることをご理解いただけたかと思います。大事なのは物事の根本を見つめなおし、考えること。料理とは、“理(ことわり)を料(はか)り定めること”なのです」。
世界を知る一流の日本料理人の言葉は、参加者たちの脳裏に深く刻まれたようだ。

Session 2 11:20〜13:30
南米料理の知識と調理法~日本の裏側にある国の食文化
Presented by ネスレ日本株式会社
講師:川﨑 素裕(株式会社アールキュービック 総支配人兼総料理長)

続くSession2は、場所を実習室に移しての講義となった。
テーマはペルー料理をはじめ世界の美食家も注目を集める南米料理である。
講師を務める川﨑素裕(もとひろ)氏は、ホテルニュージャパン勤務を経て首相官邸調理部に抜擢され、約5年間、内閣総理大臣が司る晩餐会等の料理を担当。
その後、在ペルー日本大使館でシェフを務め、以来南米はじめ北米、中米など32カ国での調理経験を持つ料理人だ。
実習1品目は、ペルーの代表的料理である「セビーチェ」。
4人一組に分かれた参加者は、ほとんどが初対面同士にもかかわらず、普段とは勝手がちがう料理に戸惑いながらも、あうんの呼吸で料理を開始。
見る間にヒラメやイカ、つぶ貝などの具材を手際よく仕込んでいった。
続いての料理は、メキシコの「タコス」。今回は川﨑氏の好みだという揚げるタイプ。
おそらくははじめてつくるであろうタコスに、レシピと、モニターに映し出される川﨑氏の手元を見比べながら、調理を進める参加者たち。
フライパンでひき肉を炒め、レッドペッパーやチリパウダーを加えると、あたりには南米の香りとでもいうべき、スパイシーな香りが漂いはじめた。
調理終了後は、ランチを兼ねて自らがつくった「セビーチェ」と「タコス」を試食。
簡単ながら美味しい料理に、納得の表情を浮かべる参加者も。
食後には、32カ国で生活をした川﨑氏ならではの興味深い話が聞けた。
たとえば、ペルーの石灰を多分に含む飲み水で体に異変が起きたことや、カストロ政権下のキューバにおける物不足事情など、パラグアイやコロンビア、ボリビア、ベネズエラなど、氏の料理人遍歴同様、話は世界を駆け巡った。
「実際に生活することで、観光で訪れただけではわからない、その国の真実の姿が見えてきます。
料理の修業というと、フランスとイタリアに行かれる方が多いと思いますが、ヨーロッパだけではなく、いろんな国を訪れて、知見を広めてほしいと思います」。
最後の質疑応答では、「最も印象深い国は?」との質問に対して川﨑氏が「印象深いのは北米の富裕層が集まるコスタリカ。住むなら治安も良く物価も安いポルトガルでしょうか」と即答するなど、氏の海外経験の豊富さを物語る場面もあった。

Session 3 13:40〜14:50
美食の街で学んだこと~函館の料理人たちと共に今!
Presented by 株式会社J-オイルミルズ
講師:深谷 宏治(世界料理学会 in HAKODATE 実行委員会 代表/レストラン・バスク オーナーシェフ)

Session 3では、“美食の街”スペイン・バスクで学び、本物のスペイン料理を日本に根付かせた功労者の一人である深谷宏治氏が、その情熱的な料理人人生を披露してくれた。
深谷氏は東京理科大学機械工学科を卒業後、思い悩んだ挙句、料理人の道を志し洋食レストランへ。
しかし、自分の料理観には合わず、“本物の料理”を知るために単身渡欧。最初に降り立ったフランスでは、片っ端からレストラン裏口のドアを叩いて歩くも、答えはすべて「ノー」。
万策尽きた深谷氏が最後に偶然辿り着いたのは、スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンだった。
今や誰もが知る“美食の街”である。
「そこで出会ったのが、“現代スペイン料理の父”とも称されるルイス・イリサール氏です。
厨房では、生きたウサギやカモなどの素材がそのまま持ち込まれ、料理人は一頭丸ごとさばき、皮も血も内臓もすべて無駄なく調理するんです。
僕が求めていたのは、これだ! と思いました。
自然の恵みである生物を、無駄なく美味しく調理すること。
それこそが料理人の仕事ではないかと」。
さらに深谷氏は、自身も感銘を受けたサン・セバスチャンの「最高美食会議」をヒントに、2009年より国内外の注目の料理人が集う「世界料理学会 in HAKODATE」を開催。
“料理人による、料理人のための、料理学会”というスタイルが、訪れる料理人の共感を呼び、今では毎年100名ほどの料理人が参加する学会に成長。
今年9月に開催された第6回大会は、世界のフーディーが注目するタイのガガン・アナン氏をはじめ、多彩な料理人がスピーカーとして登壇するなど、成功を収めたばかりである。
「自分が理想とする料理を追い求め、その結果、料理学会を函館で開催することができました。
大切なのは継続。そして社会に還元することです」。
己の信じる料理を極め、その力を活用することで、社会に還元する道を模索する。
深谷氏の情熱的な生き方の一端に触れた参加者の多くは、「日本の料理界を盛り上げていきたいと思った」「これからの料理人人生の参考になった」と、料理人としての決意を新たにしたようだ。

Session 4 15:00~16:10
和食の味を彩る麹菌の過去・未来〜日本人と共に在る微生物の真の姿を探る
Presented by ヤマサ醤油株式会社
講師:丸山 潤一(東京大学大学院 農学生命科学研究科 助教)

麹菌は日本固有の「国菌」であることをご存知だろうか? バイオテクノロジーという言葉など影も形もなかった古の昔から、日本人はこの麹菌の特性を経験的に理解し、利用してきた。その結果として生まれたのが、米を原料にした日本酒である。そして、料理人にとっては欠かせない、味噌、醤油、味醂といった調味料。まさに、麹菌こそ日本の食文化の影の主役といえるだろう。
そんな麹菌を、専門の応用微生物学の観点から研究するのが丸山潤一氏。和食をテーマにしたドキュメンタリー映画『千年の一滴』の制作にも協力した最先端の麹菌研究者だ。丸山氏は「麹菌のことを科学的に理解し、改良することができれば、今まで以上に人間にとって有用で、食文化に貢献できる麹菌を生みだすことも可能だ」と力説する。「近年、飛躍的に発展したDNA解析やゲノム解析の技術により、カビの一種である麹菌の祖先が分かってきました。なんと、麹菌の祖先である菌は、アフラトキシンという毒性のある成分を生産する菌だったのです」。日本酒が生まれたきっかけは、カビ(麹菌)が生えた蒸し米を入れた土器を放置していたところ、何らかの理由で水が入り、どぶろくに近いものができたのではないか、という説がある。本来、カビは食品を“腐敗”させてしまう菌だ。しかし、一方で麹菌のように食品を“発酵”させ、日本酒などをつくる菌もいる。丸山氏によると「日本人は古くから人間にとって有用な成分を生みだす麹菌を経験的に選択し、“家畜化”し、利用してきた」のだという。
麹菌が生みだす有用な成分とは、米や大豆を原料にした糖分やうま味成分のグルタミン酸などのこと。それぞれ、米は日本酒や味醂の原料となり、大豆は味噌や醤油の原料として使われる。さらに、麹菌は、ビタミンB1、B2、B6、パテトン酸、ビオチンなどの成分も生成する。江戸時代には、夏バテ防止として甘酒が売られていたが、これは夏に不足しがちなビタミン類を補給するため。麹菌こそ、日本人の健康を守ってきた菌であるといえるだろう。
現在、丸山氏は「種類の異なる麹菌の交配することで、麹菌の性質を変え、人間に役に立つ麹菌を生みだすことを模索している」という。「今後、麹菌の性質を変える技術が確立できれば、新たな食品や調味料--たとえば、新たな香りをもつ吟醸酒用の麹菌や、ビタミン高生産の麹菌など--の開発も可能になります。料理人の方々には、こうした新たな調味料を使って魅力的な料理をつくっていただくことを通して、麹菌の発展に協力してほしい」という丸山氏の呼びかけで、講義は終了した。

Session 5 16:20〜17:30
農業の科学的取り組みと最先端技術~日本の食文化発展と国際的課題
Presented by キユーピー株式会社
講師:亀岡 孝治(三重大学大学院 生物資源研究科 教授)

実家が和歌山県のミカン農家であるという亀岡孝治氏の専攻は、生物情報工学。
現在は三重大学大学院で、農業の情報化を推進する取り組みをしている。
亀岡氏によれば、「産業革命以降、爆発的に増加した人口を支えた20世紀の農業は大成功だった」のだという。
しかし、機械化され化学薬品が多用された農業は、環境破壊や農薬汚染、資源とエネルギーの浪費といった問題を引き起こしてしまった。
なかでも、農作物の育成に深く関わる土壌微生物への影響は甚大で、「江戸時代に育っていた微生物は、農薬と化学肥料のためにすべて死滅したともいわれている」のだという。
その反省に立ち、「21世紀の農業は、社会問題を起こすことなく、環境にも優しく、経済的にも潤う、持続可能性(サステナビリティ)のある農業を行う必要がある」と亀岡氏は強調する。
21世紀は産業革命以上の人口爆発が予測されており、大規模な飢餓を引き起こさないためにも、今まで以上に効率的な農業が必要とされているのだ。
そこで、脚光をあびているのが、情報通信技術などを駆使した“農業ICT(情報通信技術)”である。農業ICTとは、大気や土壌の温度、水分量など、作物の育成に必要な情報をさまざまなセンサーで把握し、総合的なデータを通信技術によって収集、活用する農業のこと。
「ICTを使った農業を行うためには、科学的な栽培技術、自然環境の計測技術、植物の健康診断技術などが必要とされます。
さらに、情報を保管するためのクラウドサーバーや、情報を高度に解析するための人工知能などの開発も欠かせません」。
実際に亀岡氏は、三重県のみかん畑で、気象情報と土壌水分分布を採取する4機のセンサー付無線端末を設置し、衛星やインターネットを通じて情報を把握しながら、最適な灌水のタイミングを決定できるシステム運営のサポートをしているという。
科学的に農業を理解し、効率化することで、農薬の散布を最小限にするなど環境への負荷を減らすこと。
そして、消費者に好まれる付加価値の高い作物を生産することで、地方の農家が経済的に豊かになる。
そうすれば、荒廃しつつある地方の社会や文化も活力を取り戻すだろう--。
亀岡氏の取り組みは、国力の基盤である農業、そして日本の食文化の未来に大きく関わってくるものなのだ。
「今後の農業は従来のような生産者から消費者へという一方通行ではなく、消費者が食べたいものを生産者に求め、生産者がそれに応えるという、双方向の関係が必要とされます。こうした関係性のなかで、農産物を調理するプロである料理人の役割は大きい」と亀岡氏は訴えた。
意識の高い料理人が生産者へのアプローチを続けることで、農業や食の未来も変わり得るのである。


 

すべての講義を終えた参加者たちは、懇親会が行われるサンシャインビルの「Ginger’s Beach Sunshine」へと移動。
Session 1の講師を務めた菊乃井 主人の村田吉弘氏の乾杯の挨拶のあと、メンバー同士で交流を深めるとともに、講師陣にも熱心に質問を繰り返していた。
CLUB REDメンバーは「難しい講義でしたが、こうした会をもっと行ってほしい」、「この人数だけではもったいない。
WEBなどを通じてもっと多くの人に見てもらってもいいのではないか」といった感想を語っていた。
会の途中では、CLUB REDメンバーや協賛企業も参加した全5問の問題が出題される料理人クイズなどの催しも。 8つのチームに分かれた参加者は、出汁や醤油の味を利く選手権などに挑戦。 優勝チームにはCLUB REDのTシャツなどの記念品が贈呈された。

今回のProfessional Workshop・懇親会は、CLUB REDを応援する協賛企業の強力なバックアップのもと開催された。
2時間目をサポートしたネスレ日本は、「リフレッシュになれば」と、授業と授業の合間にコーヒーを提供。バラエティに富んだ講義が続くなか、参加者の集中力を持続させるのに一役買った。
Jオイルミルズは、3時間目の講義をサポート。20代の頃に「世界一の美食の街」として知られるスペインのサン・セバスチャンで修行した深谷宏治氏が、油の産地でもあるスペインの魅力を語った。
4限目に行われた麹菌の過去と未来を語る講義をサポートしたヤマサ醤油は、懇親会の際、親睦を深める為に実施された料理人クイズに「鮮度の一滴」を提供。ヤマサ醤油がどの醤油かを当てる「醤油利き分け対決」が催され、ヤマサ醤油の担当者も参戦。会場は大いに盛り上がった。
最後の講義をサポートしたキユーピーは、懇親会の際、ぐるなびと共に推進する野菜の魅力を発信する活動、「MOTTO VEGEプロジェクト」に賛同した料理人の撮影会も行われた。
夢の講師陣に学んだ未来のスターシェフからは、今後のCLUB REDに対しての期待や要望が多く寄せられ、実りの多いイベントとなりました。

野菜の魅力を発信する活動、「MOTTO VEGEプロジェクト」に賛同した料理人の撮影会も行われました。

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