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「日本の名店が続々とアジア進出」その理由と背景

中村孝則 (コラムニスト)

COLUMN 2014.08.05

アジアの都市を舞台に、熾烈なレストラン進出戦が勃発しています。
好景気に沸くシンガポールや香港への名店の進出は周知の通りですが、今年の下半期の注目は、日本の2店舗を含む、5つの星付きレストランが出店を予定する台北でしょう。また、経済成長著しいマレーシアのクアラルンプールに、東京の鮨の名店が出店するという噂も。今後は、インドの各都市やミャンマーのヤンゴン、カンボジアのプノンペンなどが、次なる美食都市として各ジャンルの名店が触手を延ばしているのだとか。今回は、その現状と理由を探ってみたいと思います。

 

各国の名店たちのアジア進出は、シンガポールから始まったと言ってもいいでしょう。ご存知の通り、同国は観光産業を国家戦略に掲げ、観光立国として大きく発展を遂げています。特に、2つのカジノができた2010年以降に観光客がうなぎ上りに上昇し、世界から多くの美食レストランが参入してきました。日本からも「鮨かねさか」の海外支店「Shinji by Kanesaka」がラッフルズ ホテル シンガポールとセントレジス・シンガポールにオープンしています。

料理長、押野亘一郎氏率いるラッフルズ・ホテル店は、アジアベストレストラン50で2年連続ランクインしています。

 

 

この5月には創業46年の東京・勝どきの老舗「はし田」初の海外店がシンガポールに開店しました。海外進出は、同店の二代目となる橋田建二郎氏の念願でもあったそうですが、投資家からのオファーも重なり同国へのビジネスチャンスに勝機を見いだしたと言います。店内はカウンター20席に、プライベートカウンタールーム7席で構成され、昼のメニューは80〜160シンガポールドル(1シンガポールドルは約80円)の3つのコース、夜は250〜500シンガポールドルで提供しているそうです。ネタの多くは、週に4回、築地から空輸し、米やガリ、穴子のツメなどは日本店と同じものを使用。本店と同じクオリティを確保した同店は、人気も上々だといいます。

 

 

アジアにおける日本料理の筆頭は香港の「天空 龍吟」でしょうか。こちらは「日本料理 龍吟」の初海外支店として、2012年に香港のICCタワー101階にオープンしました。海外における日本料理の再現性という意味では、“料理の内容や精神性ともに最高峰のクオリティ”とプロたちからの評価も絶大です。今年のアジアベストレストラン50では、東京の本店とともにランクインを果たしています。

 

 

実は、「日本料理 龍吟」の2店舗目となる海外店舗が、今年の9月末から10月初旬に台湾・台北にオープン予定です。場所は中台で海外飲食店ブランドの代理展開を手掛ける赫士盟餐飲集団の本部ビル5階(中山区大直)。この2号店がオープンすれば、「東京・香港・台北というアジアの美食都市をトライアングルで結ぶことができる」と山本征治氏は出店の狙いを語ります。同店を含め、今年台北にはミシュランの星を持つ5つのレストランが出店する予定。青山の「NARISAWA」は塔悠路(松山区)に年末を目標に出店を計画中。日本以外のミシュラン星付きレストランでは、シンガポールの「Restaurant Andre」(7月開店予定、名称未定)、香港の飲茶店「添好運点心専門店(ティムホーワン)」(7月前後開店予定)、北京の清朝宮廷料理店「厲家菜(レイカサイ)」(7月前後開店予定)などが出店予定です。

 

 

このように、名店が続々とアジアの都市に進出する背景にはいくつかの要因が考えられます。高級レストランの需要を支えているのは、好景気による経済効果や期待値、官民一体となった積極的な誘致政策を基盤にした質の高い観光客だけでなく、ビジネスのグローバル化に伴う高収入で高感度のビジネスマンたちの増加です。加えて、“ガストロノミー・リテラシー”、あるいは“グルメ度”とでもいうべき、現地の人々の美食に対する知識や感性の底上げも無視できません。台湾はその顕著な例といえます。また、これらアジアの主要都市は、築地から食材を直送できる距離にあるため、料理の再現力という点でもメリットが大きいのです。そうした観点から、ベトナムのハノイやホーチミン・シティ、マレーシアのクアラルンプール、ミャンマーのヤンゴンやカンボジアのプノンペン、インドのニューデリーなども、将来的な美食都市としての期待値は大きいでしょう。

 

名店のアジア進出について、個人的な意見を申し上げれば、レストランガイドやランキングも少なからず影響していると思います。2013年から始まったアジアベストレストラン50は、アジア26カ国を対象にしており、世界各国の投票者たちが立ち寄りやすい香港やバンコク、シンガポールというハブ都市への出店は、票を確保しやすいというメリットもあります。また、ミシュラン社は来年にも『ミシュランガイド台湾』の発行を計画しているとの憶測が流れています。同社は星の認定条件のひとつに「1年以上の営業実績」を挙げていますから、今年の台湾への出店ラッシュは、発行に備え条件をクリアするために早めにオープンしておきたいという意図もあるのでは? などと穿った見方ができなくもありません。あくまで、個人的な想像にすぎませんが……。

 

もっとも、日本を代表する名店のアジア進出は、経済的な投資ということだけでなく、日本の食文化を世界に紹介する絶好の機会でもありますし、レストランのクオリティの高さや芸術性を通じて、日本のファンを増やすことにも繋がるでしょう。その意味で、彼らの活動を国を挙げて応援すべきだと思います。

プロフィール

中村孝則 (コラムニスト)

ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。2007年にシャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)を受勲。2010年からは『Hr.StyleNorway』として、ノルウェーの親善大使の役割も担う。現在、世界ベストレストラン50の日本評議員代表。剣道錬士7段。大日本茶道学会茶道教授。近著に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社刊)がある。

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