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ホントに美味しくなった!?英国で“美食革命”の隠し味

中村孝則 (コラムニスト)

COLUMN 2014.09.10

林望さんの『イギリスはおいしい』(文春文庫)が出版されたのは1991年のこと。イギリスでの長期滞在経験をもとにした著者のデビュー作となったこのエッセイは、英国の食文化を独自の視点と軽妙なタッチで綴り、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しました。内容はもちろんのこと、なんといっても冴えていたのは、この逆説的なタイトルでしょう。というのも、海外旅行が大ブームだったバルブ末期のころ、英国の食事の不味さは相も変わらず、ある種の定説として語られていたからです。あれから四半世紀。はたして、英国の料理は、逆説でも何でもなく、文字通りの美味しさを誇るような時代が到来したようです。

 

きっかけの一つは、2006年のこと。世界のベスト・レストラン50で、英国の「ザ・ファット・ダック(The Fat Duck)」が初の世界一に輝いたのです。美食ランキングにおいて英国のレストランがフランスやイタリアを抑えて1位になったというニュースは、少なからず世界に衝撃を与えました。「英国はおいしいのか!」と。ちなみに2006年は、同ランキングでは「ザ・ファット・ダック」を含めて10位以内に英国のレストランが4店もランクインし、英国がガストロノミー大国として、仲間入りをした記念の年になりました。

 

僕は、この時期が英国における“美食革命”の始まりだと睨んでいます。しかもその革命は、国家戦略によるものだった、と。現在、駐日英国大使館が展開しているキャンペーンはその象徴といえるでしょう。その内容は、なんと英国の食の美味しさを全面に押し出したものなのです。タイトルもずばり『A TASTE OF BRITAIN—ためしてみて、美味しいイギリス』。英国大使館では、洒落た小冊子や専用のオフィシャル・ウェブサイトをつくり、英国の“美味しさ”を多面的にアピールしています。

 

 

ご存知の通り、2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック大会が大成功を収めました。この英国のポジティブなイメージを長く印象づけるために、当時キャメロン首相が目をつけたのが、“美食”によるグローバルな国家戦略でした。同キャンペーンも、こうして2013年の夏から英国政府主導で始動した戦略の一環。駐日英国大使館と大阪の総領事館が、民間部門のパートナー企業と協力し、ユニークなフード&ドリンクの活動として展開しています。

 

実は、事前に実施された市場調査では、日本の消費者の多くが未だに英国の食に対する明確なイメージを持っていないこと、すでに時代遅れになっている情報しか入手できていないこと、また、そもそも英国の食べ物や飲み物を体験したことがない人が多いことなどが明らかになったそうです。
しかし実際の英国には、前述の世界ベストレストラン50の例からもわかるように、ミシュランの星付きレストランが150軒もありますし、世界的なスターシェフも次々に誕生しています。そこで彼らは、同国内で起こっている美食革命は、英国のイメージをアップさせる絶好の機会であると睨んだわけです。

 

具体的な活動としては、先のウェブサイトをはじめ、日本最大のレシピサイト、クックパッドにオフィシャルの「英国大使館のキッチン」を設けレシピを公開したり、フェイスブックのファンページで情報発信したり、大使館でさまざまな食のイベントを開催するなど、多彩な展開をみせています。その一方で、日本のスーパーマーケットやレストランでも、英国のフード&ドリンクに触れる機会を増やすべく、企業との関係強化も図っています。こうした官民一体となった戦略も、重要なポイントでしょう。日本も大いに参考にしていただきたいものです。

 

 

さて、英国の美食革命で見逃してはならないのが、新世代によるガストロノミー・パブの登場です。ご存知の通り、パブは英国における伝統的な社交場であり、パブ飯——フィッシュ・アンド・チップスやハギスといった料理は“国民食”でもあります。そんななかで近年話題になっているのが、リーズナブルな価格で質の高い料理やお酒を出すパブの出現です。その象徴が、ロンドン郊外、バッキンガムシャー(Buckinghamshire)のパブ、「ザ・ハンド&フラワーズ(The Hand & Flowers)」です。噂は以前から聞いていましたが、先日ようやく訪ねることができました。写真のとおり、見た目は古いジョージアン調の伝統的なパブの様式です。店内も、バックバーにはシングルモルトウイスキーの瓶が並んでいたり、ビールのサーバーがあったりと伝統的なパブのようです。ところが、その奥にはさらに別の入口があり、本格的なレストランスペースになっているのです。ここはなんと、ホテルまで併設されたガストロノミー・パブなのです。

 

 

現オーナーシェフのトム・ケリッジさんが2005年に設立した同店は、なんと、パブとしては初となるミシュラン2つ星に輝いています。トムさんはBBC料理番組にも出演する有名シェフでもあります。ベスト・レストラン50の候補店のひとつにも挙げられていますが、そのクリエーションの高さは舌を巻くばかり。英国伝統のパブ飯を、世界基準の美食レベルにまで引き上げたクリエーションは愉しくも美味しい。プロの方は必見のヒントやネタも満載。英国の美食革命の勢いや面白さを感じられるお店だといえます。本当はナイショにしておきたいのですが……。宿も素敵なので泊まりがけで行くことをおすすめしておきます。ではまた!

プロフィール

中村孝則 (コラムニスト)

ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。2007年にシャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)を受勲。2010年からは『Hr.StyleNorway』として、ノルウェーの親善大使の役割も担う。現在、世界ベストレストラン50の日本評議員代表。剣道錬士7段。大日本茶道学会茶道教授。近著に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社刊)がある。

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