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君島佐和子「これからの料理人」

RED U-35 2022 応募者応援企画 Supporters column 第1弾|君島佐和子

COLUMN 2022.05.16

間も無くRED U-35 2022大会エントリーが始まります。募集するのは「新時代を切り拓く“食のクリエイター”」。
単に調理技術だけを評価するのではない「新しい存在意義を感じさせる人物」「食を通じて社会課題を解決に導くなどこれからを切り開く人物」の発掘を目指します。

そこで、今回は日々食の現場を見つめてご活躍されている9名のジャーナリスト、ライターの方々に“大会の応援団”として「これからの料理人」をテーマにしたコラムをそれぞれの視点で執筆していただきました。大会に応募予定の方も、そうでない方もぜひご覧ください。
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フードジャーナリスト/RED U-35 2022審査員
君島佐和子

これからの料理人とは。

これから」を考える前に「これまで」を振り返っておきたい。

「これまで」と「これから」を強く意識し始めたのは2010年頃だっただろうか。それまでの取材経験の延長では太刀打ちできないシェフたちの台頭に気になって、集中的にインタビューを試みたのが2011年の夏。「レフェルヴェソンス」生江史伸(敬称略・以下同)、「HAJIME」米田肇、「カ・セント」福本伸也、「Fujiya1935」藤原哲也、「アコルドゥ」川島宙、「メツゲライクスダ」楠田裕彦の6人だった。ミシェル・ブラスやアンドーニ・ルイス・アドゥリスなどの薫陶を受けた彼らは、料理ジャンルといった既存の枠組みから飛び出していたように思う。

2010年代前半は、「オルガン」紺野真、「アヒルストア」齊藤輝彦、「BEARD」原川慎一郎など、調理師学校出身ではない料理人がヴァン・ナチュールの浸透と呼応するかのように時流を生み出していった。自然派が大量生産・大量消費へのアンチテーゼであるように、インディペンデントであることやセルフビルドを大切にする彼らの姿勢は、店のスタイルが日常的であるだけに、食べ手の生活思想に与える影響は大きかった。

2010年代も終わり近くになると、営業日や時間、メニューを固定しない、場合によっては店も持たない料理人やパティシエが登場してくる。それはコロナ禍によっていっそう促進されることとなる。

この10年は同時に、料理人をはじめ、食に携わる人々が源流をさかのぼっていった時期でもある。伝統ではない。源流である。伝統は人間の営みの蓄積と確立であり、受け継がれる形になったもの。そうではなく、積み上がる前の原理原則、由来の根源、摂理を求める志向とでも言えばいいだろうか。たとえば、良い肉を求めて、生産者を訪ね、飼育法を尋ね、生態を学び、環境を体感し、牧草へと意識は及び、ついには土壌に関心を寄せる。そうして手中の肉の質と扱いを理解する。あるいは、稲や麦を栽培し、山へ入って野草や果実を収穫し、加工法や保存法を探る。つまり、最も基本的な「食べる」ということ、食べ方の原理原則を体感的に習得していく、そんな姿勢が顕著になってきたのである。

で、「これから」である。

2年前から立命館大学食マネジメント学部で「食とジャーナリズム」の講義を担当しているが、学生たちの声から感じ取れるのは「社会課題ありき」の思考回路だ。大学での学びも就職も社会課題との向き合いのためといった感覚が潜む。考えてみれば、2000年以降に生まれた彼らは、小学生でリーマンショックと東日本大震災を経験し、成人を迎えるタイミングでコロナ禍に陥り、今、ウクライナ侵攻を目の当たりにしている。豪雨災害、プラスチックゴミ、食品ロス、水産資源の枯渇など、聞こえてくるのは先行き不安になる話題ばかり。自分の行為が社会にどんな作用を及ぼすのか、意識させられない日はないだろう。

これらの社会課題に、料理人たちが探求を深めた食べ方の原理原則が示唆を与える。災害時の食、石油由来の資材に頼らない暮らし方、食材の使い切り術、未利用魚の活用法、料理人が社会に提示できることは少なくない。

先日、『ドライブ・マイ・カー』を観た。この映画は演劇祭の配役オーディションや稽古場のシーンを軸に話が展開していく。演目はチェーホフの『ワーニャ伯父さん』。様々な国の役者が自国語で台詞を語り、手話を言語とする俳優は手話で演じる。いくつもの言語が舞台を飛び交う多言語上演のスタイルにはっとした。「確かに、私たちは今、そういう時代を生きている……」。

グローバル化の進行と多様性の尊重は表裏一体だ。多様な国籍、民族、言語を尊重するならば、なるほど、ひとつの言語で上演せずともよいかもしれない。スマホという通訳ツールも存在する時代なのだ。異なる言語のやりとりから生まれる響きやリズムが新たな思考をもたらすという側面もあろう。常識や規範はこうして問い直され、更新されていく。

多言語上演によって明らかになるのは、演者のアイデンティティである。日本語で台詞を語る俳優は自分が日本人であることを、韓国語で語る役者は韓国人であることを、手話で語る者は手話という言語に拠って立つ人間であることを意識せざるを得ない。

私たちが向かっているのは、そんな社会だ。これまで以上に「自分は何者か? 今、自分はどこに立っているのか?」が問われてくる。もはやキャリアもスタイルもジャンルも関係ない。大切なのは、食の源流をたどり、自己を見つめるということだ。

[RED U-35 2022 挑戦者募集!]
・募集:新時代を切り拓く“食のクリエイター”を目指す「35歳以下の料理人」
・応募期間:6月1日(水)14:00〜6月22日(水)18:00(日本時間)
・応募テーマ:「旅」
→詳細は「RED U-35 2022」大会概要特設ページをご覧ください。
 https://www.redu35.jp/competition/
■ ORGANIZERS 主催:RED U-35実行委員会 株式会社ぐるなび
■ CO-ORGANIZER 共催:株式会社ジェーシービー
■ SUPPORTER:ヤマサ醤油株式会社

プロフィール

君島佐和子 (きみじま・さわこ)
フードジャーナリスト。2005年に料理通信社を立ち上げ、2006年、国内外の食の最前線の情報を独自の視点で提示するクリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て2017年7月からは編集主幹を務めた(2020年末で休刊)。辻静雄食文化賞専門技術者賞選考委員。立命館大学食マネジメント学部で「食とジャーナリズム」の講義を担当。『AXIS』にコラムを連載、著書に『外食2.0』(朝日出版社)。

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