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川崎寛也「これからの料理人」

RED U-35 2022 応募者応援企画 Supporters column 第3弾|川崎寛也

COLUMN 2022.05.17

間も無くRED U-35 2022大会エントリーが始まります。募集するのは「新時代を切り拓く“食のクリエイター”」。
単に調理技術だけを評価するのではない「新しい存在意義を感じさせる人物」「食を通じて社会課題を解決に導くなどこれからを切り開く人物」の発掘を目指します。

そこで、今回は日々食の現場を見つめてご活躍されている9名のジャーナリスト、ライターの方々に“大会の応援団”として「これからの料理人」をテーマにしたコラムをそれぞれの視点で執筆していただきました。大会に応募予定の方も、そうでない方もぜひご覧ください。
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博士(農学)
特定非営利活動法人日本料理アカデミー理事
川﨑寛也

変化の激しい時代、何を目指して料理に取り組めば良いだろうか。

私の高祖父、曽祖父、祖父は西洋料理の料理人であった。明治20年(1887年)に根室で創業した「西洋亭」という西洋料亭で、イギリス経由で入ってきたフランス料理を出していた。残っていたメニューを見ると、ビーフステーキやガランティーヌなど、100年以上前の当時の日本人には馴染みがないと思われる料理ばかりだが、それでも人気があって顧客には根室の名士が多くいたようだ。

日本料理は100年前とどう変わっただろう。フランス料理はこの先も進化していくだろうか。今はSDGsが重視されているが、100年後は解決されているとしたら?時代によって求められることは大きく異なる。
必要なことは、本質を捉えることである。本質とは何かを考え続けよう。そうすればどんな時代が来ても、間違った対応にならない。

調理の進化

そもそも、調理とは、自然にある動植物を選び取り、人間が消化吸収できるように、物理的および化学的変化を与えることである。自然は多様だ。その多様な気候の違いや変化に対応するように、動物や植物は進化してきた。二百万年前に出現し、アフリカを出て、世界中に散らばった人類の栄養欲求は大きく変わらない。美味しさとは、栄養を得るために与えられた快感である。したがって、栄養欲求が変わらなければ何を美味しいと感じるかも、ある程度の範囲に収まっている。日本人がフランス料理を食べても美味しいと感じるのはそのためである。多様な自然から、選び取ったものを、栄養欲求が変わらない人間が美味しく食べられるように変化させる必要があるため、調理が多様になったといえる。

自然の多様性に対応し、発展してきた調理技術は、人間の栄養欲求を満たすという目的の食から離れ、過剰ともいえるほど発達しすぎた享楽的な料理を作るようにもなってきた。調理の進化は、高級レストランでは行きつくところまで行っており、最新の調理器具は大きく進化した。また、長い間に、好まれる食材や使いやすい食材に消費が集中してしまうことが、食材が獲れなくなっている原因の一つでもある。一極集中してしまうと、多様性が失われてしまう。

調理技術は、本来、それぞれの土地で連綿と受け継がれ、少しずつ発展してきた。科学もそうだが、先人達の成果の上に成り立っているのである。一方で近年は、北欧では、日本の発酵技術を参考に、彼らにとっては新たな発酵技術を発展させ、それが逆に日本に入ってきたりしている。日本の料理人からすると、味噌や醤油の原料は当たり前のように決まっているが、その概念を外して考え直すことができるのは、先入観がないからであろう。食べ物で最も重要なのは、安心安全である。昔は経験で決めてきたことを、今は科学的な根拠を持って安心安全が決められるために、効率よく進められる。

これからの料理人

料理は「アート(芸術)」であると言われることがある。モネの「睡蓮」は、スイレンという植物を描いてはいるが、モネが表現したいのは、「光とは何か?」という「問い」である。アートは、「問い」を提起することが目的であることが多い。一方、「デザイン」は、「物事の本質を見出して、ソリューション(解決策)を提案する」ことである。そして、「科学」とは、物事の成り立ちを本質的に見出す考え方や手法である。従って、科学はデザインにとって重要なツールである。科学とは、新しい調理器具を使ったり、アルギン酸を使ったり、ということではない。それは単に科学的技術を使っているだけである。

重要なのは「科学的な考え方」をできるようになるということだ。科学的な考え方とは、「なんとなく」行っていることを、いかに「因数分解」して、その理由を考え、より良いと思う方法に改善し、料理に戻すために再構築するか、である。たとえ、肉を焼く、というシンプルなことでも、何がどのように起こっているかを、因数分解して、考え直してみよう。その因数分解をどのレベルまで細かくできるか、が最終的な完成度を決める。

一方で、忘れてはならないのは、人間の進化が、この100年ほどで起こるとは思えないということである。栄養欲求に変化はなく、美味しいと思うものは変わらない。仔羊のロティは100年後も誰かが作っているだろうし食べていて欲しいではないか。誰がどんな材料から、どうやって、その料理を作るか、というだけの問題である。本質的には、人間は共食し、料理をする、という点は変わらない。自然に向き合い、尊重する料理人になろう。それが最初であり、すべてである。現代では、食文化はすぐに失われてしまう。意図的に保存しようとしないといけないのだ。自然の多様性を守るためには、食べるもの、作る料理を多様にするしかない。逆に、いま、クラシックと言われている料理や技術は、100年後もクラシックと言われて良いのだろうか。いま新しく考えられた料理は、100年後クラシックと言われる可能性を秘めている。そのつもりで新しい料理を考えてみよう。発展しながら残していく、というのはそういうことだ。

食の楽しみは、3つに集約される。食べる楽しみ、つくる楽しみ、知る楽しみである。これらの楽しみはお互いに結びついており、どれかをきっかけに料理を楽しみ、好きになっていく人が増える。料理人は、これらすべてのスペシャリストである。美味しい料理を提供して食べる楽しみを伝え、つくり方を教えてつくる楽しみを共有し、歴史やコツを教えて、知る楽しみを伝えてほしい。そうして少しずつ食の楽しみを理解する人を増やしていかないと、大変なことになりそうな気がしている。

◉ 川崎寛也 氏 最新 著書

「味・香り『こつ』の科学:おいしさを高める味と香りのQ&A (柴田書店)」
https://www.shibatashoten.co.jp/detail.php?cid=99&bid=02512100

[RED U-35 2022 挑戦者募集!]
・募集:新時代を切り拓く“食のクリエイター”を目指す「35歳以下の料理人」
・応募期間:6月1日(水)14:00〜6月22日(水)18:00(日本時間)
・応募テーマ:「旅」
→詳細は「RED U-35 2022」大会概要特設ページをご覧ください。
 https://www.redu35.jp/competition/
■ ORGANIZERS 主催:RED U-35実行委員会 株式会社ぐるなび
■ CO-ORGANIZER 共催:株式会社ジェーシービー
■ SUPPORTER:ヤマサ醤油株式会社

プロフィール

川崎寛也 (かわさき ひろや)

1975年兵庫県生まれ。実家は明治20年創業の西洋料亭「西洋亭」(現在は廃業)。2004年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。現在、味の素株式会社食品研究所エグゼクティブスペシャリスト。特定非営利活動法人日本料理アカデミー理事。専門は調理科学、食品科学、官能科学、味覚生理学。著書に「だしの研究」「料理のアイデアと考え方」(柴田書店)、「日本料理大全 だしとうま味、調味料」(シュハリ・イニシアティブ)、「味・香り『こつ』の科学:おいしさを高める味と香りのQ&A (柴田書店)」など。

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