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井川直子「これからの料理人」

RED U-35 2022 応募者応援企画 Supporters column 第4弾|井川直子

COLUMN 2022.05.20

間も無くRED U-35 2022大会エントリーが始まります。募集するのは「新時代を切り拓く“食のクリエイター”」。
単に調理技術だけを評価するのではない「新しい存在意義を感じさせる人物」「食を通じて社会課題を解決に導くなどこれからを切り開く人物」の発掘を目指します。

そこで、今回は日々食の現場を見つめてご活躍されている9名のジャーナリスト、ライターの方々に“大会の応援団”として「これからの料理人」をテーマにしたコラムをそれぞれの視点で執筆していただきました。大会に応募予定の方も、そうでない方もぜひご覧ください。
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文筆家
井川 直子

「何のためにこの仕事をしているのか?」

2年あまりも続いてしまったコロナ禍。仕事が減り、強制的に暮らしが変わりゆくなかで、きっと多くの人がこの言葉を自分自身に投げかけただろうと思います。

いわゆる「不要不急」と呼ばれた仕事をしている人は、とくに切実だったかもしれません。

ステージに立てない音楽家、映画が撮れなくなった映画監督、試合に臨めないアスリート。そして、営業時間短縮などでまともにレストランを開けられなかった料理人や、お酒の提供ができなかった酒場の店主たちも。

これまで満席だった客席が静まり返り、鳴り続ける電話はキャンセルばかりで、予約帳の名前をどんどん消していく。そんな状況では、「自分は世の中に必要とされていないのかもしれない」と疑いたくもなります。

だったら、何のためにこの仕事をしているのだろう?

私はコロナ禍、さまざまなシェフや店主を取材しましたが、不思議なことに、彼らの答えは初めから決まっていたかのように、結局はここに辿り着くのです。

「人を、喜ばせたい」

手にしていたたくさんのものを失ってなお、最後に残る〝芯〟のようなものがこの言葉でした。綺麗ごとでしょうか? でも、飲食の現場に立つ人たちは現実に瞬発力を持って行動し、次々と形にしていくのです。

たとえば2020年の冬。第三波によってクリスマスシーズンの稼ぎ時を失ったシェフたちは、自分の店も大変な時、医療従事者のためにお弁当を作っていました。医療崩壊が叫ばれ、最前線に立つ医師や看護師たちは、クリスマスメニューにふと顔がほころんだそうです。

飲食の仕事ってそういうことなのか、と感じました。

栄養だけでなく、おいしいだけでなく、料理を通して人の心を動かすことができる。嬉しい、ほっとする、しびれる、沁みる、泣ける、懐かしくなる――どうしようもなく心が動くのは、人が、人らしく生きている証拠です。

考えてみればあたりまえなのですが、料理人は、自分以外の誰かのために料理を作ります。たった一人で自己完結する作品ではなく、「誰か」が存在する時点ですでに、その仕事は社会につながっています。

人の心を動かす人は、社会を動かすこともできる、ということ。

もしも飲食店が止まってしまったら、食材の生産者やワインの輸入業者も立ち行かなくなる。コロナ禍でそう気づいたシェフたちは、飲食店を中心軸に回っている流通を止めないために、自分たちで野菜やお酒を売り始めました。または、それらを使った惣菜屋もオープンしています。

苦しい時に助けてくれた地元商店街の人への恩返しと、スタッフの福利厚生のために開店したコーヒースタンド。非常時だからこそ、地元の人たちが寄り添い合える居場所を、とつくったバールや惣菜店。コロナ禍に始めたテイクアウトによって、「世の中には、おいしいものが好きでも店に来られない事情のある人がなんて多いんだろう」と初めて知った料理人は、レストランの外側の世界に向けて、今もテイクアウトを継続したり。

飲食店が、飲食店の枠を超え、喜びを波紋のように広げていく在り方が生まれています。

もちろん経営のためでもあるでしょうが、「こういう店があったら楽しい」とか「もっとハッピーになれるよね」といった動機でつくられる店には、リスクヘッジなる言葉では片づけられない、あの「芯のようなもの」を感じるのです。

最後に、学芸大学「リ・カーリカ」ほか数店舗を経営する堤亮輔シェフの言葉を引用します。訊いたのは2020年10月、第三波が迫りくる直前でした。

『目に見えないところで、多くの人が心身にダメージを受けている。
それで、「幸せじゃないと、人は死んでしまう」と感じたんです。
もちろん幸せなんて人によって違いますけど、それでも「食」は幸せの一つになれると思う。
最終的に、僕は何がしたいのか。
食で、世のなかの幸せ指数を増やしたいんだってことがわかりました。』

今、料理人が見つめる先にあるのは、目の前のお客だけではありません。
スタッフも、スタッフの家族も、取引先も、そして自分自身も幸福な在り方と、お客の喜びが重なる未来です。
コロナ禍を経験して、「これまで」の枠が外れた今だからこそ、新しい場所が拓けるかもしれません。
次の世界をつくっていく、次の人たちとの出会いを楽しみにしています。

[RED U-35 2022 挑戦者募集!]
・募集:新時代を切り拓く“食のクリエイター”を目指す「35歳以下の料理人」
・応募期間:6月1日(水)14:00〜6月22日(水)18:00(日本時間)
・応募テーマ:「旅」
→詳細は「RED U-35 2022」大会概要特設ページをご覧ください。
 https://www.redu35.jp/competition/
■ ORGANIZERS 主催:RED U-35実行委員会 株式会社ぐるなび
■ CO-ORGANIZER 共催:株式会社ジェーシービー
■ SUPPORTER:ヤマサ醤油株式会社

プロフィール

井川直子(いかわ・なおこ)

文筆業。料理人や醸造家など食・酒にまつわる人と時代をテーマに、ノンフィクション、エッセイを執筆。著書に『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』(文藝春秋)、『変わらない店 僕らが尊敬する昭和 東京編』(河出書房新社)、『昭和の店に惹かれる理由』『シェフを「つづける」ということ』(ともにミシマ社)ほか。雑誌、新聞等でも連載中。

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