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平野紗季子「これからの料理人」

RED U-35 2022 応募者応援企画 Supporters column 第6弾|平野紗季子

COLUMN 2022.05.24

間も無くRED U-35 2022大会エントリーが始まります。募集するのは「新時代を切り拓く“食のクリエイター”」。
単に調理技術だけを評価するのではない「新しい存在意義を感じさせる人物」「食を通じて社会課題を解決に導くなどこれからを切り開く人物」の発掘を目指します。

そこで、今回は日々食の現場を見つめてご活躍されている9名のジャーナリスト、ライターの方々に“大会の応援団”として「これからの料理人」をテーマにしたコラムをそれぞれの視点で執筆していただきました。大会に応募予定の方も、そうでない方もぜひご覧ください。
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フードエッセイスト/フードディレクター
平野紗季子

「自然と人を結ぶ仲介者として」

数年前、デンマークの[noma]ヘッドシェフ、レネ・レゼピ氏と対話する機会があった。これまでのこと、栄光や苦悩、いかにして世界一のレストランを作り上げたか。冒険譚のような彼の話を夢中になって聞きながら、ふとこんな質問をした。「今のあなたの敵はなんですか?」。すると彼は、間髪入れずにこう答えた。「Climate change.(気候変動)」。食は農業であり、漁業であり、自然と向き合うことであり、それは地球そのものであり、料理人が気候変動という社会課題にタックルするのはあまりにも当然のことだ、と。

自然の声に耳を傾け、同時に、人間の欲望を満たす。料理人は日々の仕事を通して、自然と人の結び目に立っている。そう感じることがままある。都市に暮らし、消費と生産が切り離された世界では、己の豊かで便利な日常がいかに見えない外部への負担の上に成り立っているのか見過ごすことは容易いが、かのような料理人、そして、彼らの料理を媒介にして出会う人々(それは例えば、未来に種を蒔くように土を耕す農家であったり、100年単位の時間軸で仕事をする醸造家であったりする)との関わりが、「人間も、自然を含む大きな循環の一部である」というごく当たり前の、けれど実感をそこないやすい事実に立ち返る機会を与えてくれる。これ以上地球に負荷をかけられない時代にあって、彼らの行動や言葉、感性や知恵から学ぶことはとても大きい。彼らが食という軸を通して掴み取ってきた稀有な眼差しによって、私は世界と関わり直すことができるのだ。

畑を耕しながらレストランを営む料理人がいる。彼らの料理からは、農と食のつながりを痛感できる。

その土地の記憶や文化の痕跡を皿に宿す料理人がいる。歴史の隅に転がる石も、埃を払い今に置き直すことで、未来が生まれていく。

誰かが容易く踏み折ってしまう野草を、かけがえのない一皿へと昇華させる料理人がいる。無価値とされてきたものに新たな価値を見出す。

それは、資源の枯渇が叫ばれる社会において必然的ともいえる料理人の創造性ではないだろうか。思いがけない食材の組み合わせや美しいビジュアルの構築だけが料理のクリエイティビティを計るものではない。

岩手県の[とおの屋 要]の店主・佐々木要太郎さんは、料理人であり、どぶろくの醸造家であり、その原料である米を育てる農家であり、驚くべき”一人6次産業マン”である。彼は、無農薬・無肥料の米づくりを10数年に渡り行なっているが、その根幹には「健全な土を取り戻したい」という思いがある。おいしい米を作るため、ではない。良い土のために、できることをする。

しかし、そうして自然を再生させるべく出来上がった米やどぶろくは、不思議なほど魅力的な味わいを持つ。夏の光に照らされた田んぼで頂いた塩おにぎりは、人に媚びない清潔な甘さが広がって、私は言葉を失った。彼にとって、おいしさは目的ではなく、手段なのだろう。おいしいから続けられる。おいしいから分かち合える。おいしさは目的地のように見えるが、むしろそこから何かが始まっていく。おいしさという人類の抗いがたい喜びを通して、何を伝えようか、何を変えてみせようか。そんな思索を感じる料理に、私はひどく胸を打たれる。

今や料理人がノーベル平和賞にさえノミネートされる時代だ※。料理人が、食材をおいしく衛生的に調理する技術者であるだけでなく、社会をよりよい方向へ変えうる変革者であることはいうまでもない。世界中の流通と繋がり自然資源を膨大に利用する食の影響力は計り知れない。よりよい社会のために、食を通して何ができるのか。この時代における美しい食のあり方を絶えず探求し、まるで優しき獣のように自然と文明を行き来する料理人の背中を、私は微力ながらも押す存在でありたい。

※ 2019年のノーベル平和賞に料理人で活動家のホセ・アンドレス氏がノミネートされた。彼は被災地や戦禍の人々に温かい食事を提供する非営利組織「ワールド・セントラル・キッチン」の創設者。直近ではウクライナとポーランドの国境付近などでウクライナからの避難民への炊き出しを行っている。

[RED U-35 2022 挑戦者募集!]
・募集:新時代を切り拓く“食のクリエイター”を目指す「35歳以下の料理人」
・応募期間:6月1日(水)14:00〜6月22日(水)18:00(日本時間)
・応募テーマ:「旅」
→詳細は「RED U-35 2022」大会概要特設ページをご覧ください。
 https://www.redu35.jp/competition/
■ ORGANIZERS 主催:RED U-35実行委員会 株式会社ぐるなび
■ CO-ORGANIZER 共催:株式会社ジェーシービー
■ SUPPORTER:ヤマサ醤油株式会社

プロフィール

平野紗季子(ひらの・さきこ)

フードエッセイスト/フードディレクター
小学生から食日記をつけ続け、慶應義塾大学在学中に日々の食生活を綴ったブログが話題となり文筆活動をスタート。雑誌・文芸誌等で多数連載を持つほか、ラジオ/podcast番組「味な副音声」(J-WAVE)のパーソナリティや、NHK「きみと食べたい」のレギュラー出演、菓子ブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」の代表を務めるなど、食を中心とした活動は多岐にわたる。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)、『味な店 完全版』(マガジンハウス)など。

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