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佐々木ひろこ「これからの料理人」

RED U-35 2022 応募者応援企画 Supporters column 第7弾|佐々木ひろこ

COLUMN 2022.05.24

間も無くRED U-35 2022大会エントリーが始まります。募集するのは「新時代を切り拓く“食のクリエイター”」。
単に調理技術だけを評価するのではない「新しい存在意義を感じさせる人物」「食を通じて社会課題を解決に導くなどこれからを切り開く人物」の発掘を目指します。

そこで、今回は日々食の現場を見つめてご活躍されている9名のジャーナリスト、ライターの方々に“大会の応援団”として「これからの料理人」をテーマにしたコラムをそれぞれの視点で執筆していただきました。大会に応募予定の方も、そうでない方もぜひご覧ください。
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一般社団法人Chefs for the Blue代表理事
佐々木ひろこ

ある時はレストランの厨房でソースが泡立つ様子を息を詰めて見守り、料理人が前菜を盛り付ける鮮やかな手付きにため息をつく。ある時は秋の田んぼで黄金色に揺れる稲穂に胸を踊らせ、定置網漁船では網に跳ねる魚の躍動感に歓声を上げながら、生産者の日々の営みに感嘆する――

私はこれまで20年以上、食のジャーナリストとして料理人や生産者を追い、数え切れない数のプロのキッチンをはじめ、さまざまな食の現場を歩いてきました。また30以上の国々を旅し、時に暮らし、学び働きながら、世界の料理界の流れを近くに遠くに見つめてきました。この年月を振り返って今思うのは、このたった数十年のあいだに食を取り巻く環境が大きく変わり、料理人の志向や求められる行動も変化してきたということです。

たとえば選びぬかれた品質の希少な食材を使い、理想の料理を極めるという、料理人にとって長いあいだ当たり前の“型”であり絶対的な“正義”だった美食のスタイルは、今ではもはや皆が目指すゴールではありません。食材の目利き力と調達ネットワーク力、そして技術力を日々鍛錬し、料理人がひたすらにおいしい料理、他にはない味わいを作り出すことだけに邁進すればよかった、ある意味“幸せな”時代はとっくに終わりを告げています。

その背景には、さまざまな社会の動きがありました。料理や料理人の独自性を重んじる価値観がクローズアップされた経緯もあるでしょうし、食文化の成熟と志向の多様化もひとつでしょう。また、日本国内に関しては長年にわたる経済停滞が作用しているかもしれません。しかし特に近年目立って大きな影響を与えたのは、地球環境の悪化やそれによる食材の変化、さらにはそんな生産現場の現状に対する料理人の危機感とサステナブルな生産・消費体制への渇望だと考えます。

大規模な農地開発や乱獲が、生態系の深刻な破壊や水産資源の枯渇を引き起こしてきたこと。化学合成肥料や農薬、除草剤や抗生物質といった化学物質の過剰な使用が、土壌の劣化や海の汚染を生んできたこと。気候変動の主要因とされる温室効果ガスの一定割合は、畜産業や水産業など一次産業から排出されていること。食を生み出すために、その土台である地球の健康が損なわれ続けているという大きな矛盾のさなか、料理人が食材生産の背景を探り掘り下げていく過程で、味や希少性だけでなく食材のどの側面に価値を置くかという観点が顕在化してきたのでしょう。

さて私は5年前から、東京の約30人のシェフたちとともに、日本の水産資源を保全し食文化を未来につなぐことを目指して啓発活動に取り組んでいます(※2021年に京都チームもローンチ)。当初は「まずは知ることから」を合言葉に、研究者や水産関係者を招いての勉強会のみだったのですが、「『知る』行動の先に進まなければ意味がない。社会に対してアクションを起こすべきだ」というチームのシェフたちの強い思いに突き動かされ、以降頻繁にトークセッションやダイニングイベントを開催するようになりました。現在は企業や地方自治体、メディア等と協業し、さまざまなアプローチで海の持続性を守る活動につなげています。

実はこの活動を通じ、私自身あらためて痛感したのが料理人の持つポテンシャルの大きさでした。海をはじめ生産地が消費者から遠く、物理的・精神的距離がずいぶん大きくなった今、何層にも連なる複雑な食のバリューチェーンの端と端――生産者と消費者――をダイレクトに通じ、料理を介して思いをつなぐことができる料理人は稀有な存在です。生産者や食べ手に対してはもちろん、メディアを媒介にメッセージを社会に届けることができる点も特筆に値します。未利用資源の活用やプラントベースの可能性拡大など、具体的な食のアクションやツール開発の先頭に立てることもあるでしょう。水産の問題に限らず、料理人には食の社会課題解決を通じこれからを切り開く力がある――あらためて、そう強く信じています。

オリヴィエ・ロランジェ(仏/敬称略・以下同じ)、ダン・バーバー(米)、ガストン・アクリオ(ペルー)、マッシモ・ボットゥーラ(伊)、、、、世界を見渡してみれば、この20年のあいだに数多くのシェフたちが食の社会課題を解決するため率先して行動を起こしてきました。日本でも、里山のサステナビリティをテーマに長く活動している「ナリサワ」の成澤由浩、有機農家をはじめ生産者とのゆるぎない関係性を築いてきた「レフェルヴェソンス」の生江史伸、経産牛をレストランの食材として活用する流れを作った「フロリレージュ」の川手寛康をはじめ、さまざまなシェフたちが確かなマイルストーンを築いています。ぜひ先輩達の足跡を確かめてください。課題についての正しい知識をたくわえてください。そして私たちChefs for the Blueの頼もしい仲間たちの活動もご覧いただき、海の課題理解も進めてくださるとありがたく思います。

サステナビリティは決してファッショナブルな営業ツールではなく、レストランをはじめ食にまつわる産業がこの先もずっと存続するための根源的なニーズです。「食から社会を変える」という確かな意志と知識を持ち、これからの食の世界を切り開く、若い料理人の方々の登場を心から期待しています。

[RED U-35 2022 挑戦者募集!]
・募集:新時代を切り拓く“食のクリエイター”を目指す「35歳以下の料理人」
・応募期間:6月1日(水)14:00〜6月22日(水)18:00(日本時間)
・応募テーマ:「旅」
→詳細は「RED U-35 2022」大会概要特設ページをご覧ください。
 https://www.redu35.jp/competition/
■ ORGANIZERS 主催:RED U-35実行委員会 株式会社ぐるなび
■ CO-ORGANIZER 共催:株式会社ジェーシービー
■ SUPPORTER:ヤマサ醤油株式会社

プロフィール

佐々木ひろこ(ささき・ひろこ)

食やサステナビリティ等をテーマに国内外の取材・執筆を続けるフードジャーナリスト。また東京・京都のトップシェフ達とともに持続的な海を目指す啓発活動に取り組み、水産資源を維持し食文化を未来につなぐことをミッションに様々なプロジェクトを推進中。一般社団法人Chefs for the Blue代表理事。水産庁・水産政策審議会(企画部会/資源管理分科会)特別委員。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」コアメンバー。

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