日本最大級の料理人コンペティション、RED U-35が目指す場所
RED U-35は新時代を切り拓く“食のクリエイター”を目指す35歳以下の料理人を対象としたコンペティション。今回は「RED U-35 2022」の審査員長、狐野扶実子さんと2021年の大会でグランプリ受賞の堀内浩平さんにお話を聞いた。
「『RED U-35』は、味覚を追求するだけの単なる料理コンペティションではありません。食の未来を考え、持続可能な社会の実現といった社会課題に向き合い、チャレンジし続けることを目指しているものなのです」と話すのは、今年の大会の審査員長で食プロデューサー・コンサルタントの狐野扶実子さんだ。
2013年に始まった「RED U-35」だが、コロナ禍で一変。2019年はグランプリ該当者なし、2020年はコロナ禍で大会中止となり、2021年にオンライン審査という形でようやく大会は復活した。しかし、コロナ禍は大会にとって悪いことばかりではなかったという。「人々の食の楽しみ方の選択肢が増え、それによって店舗を持たずに活動する料理人が多くなりました。結果、『RED U-35』に挑戦する人達も出張料理人やコンサルタントなどが増え、幅が広がりました」と狐野さんは言う。
さらに、コロナ禍で料理人たちの問題意識が高まり、フードロスやフェアトレード、働き方などSDGsへの意識も深まった。「実際、昨年のテーマは『未来のための一皿』だったのですが、環境問題を取り上げる参加者は多かったです」(狐野さん)。
※2021年大会の審査員長の德岡邦夫さんから、2022年大会の審査員長となる狐野扶実子さんへ、大会旗が手渡された
そうした状況下でグランプリ(RED EGG)を獲得したのが、堀内浩平さんだ。「20代の頃、吉武広樹さんの写真が載ったRED U-35のポスターを見て興味を持ちました。というのも、それまで料理コンクールというとホテルのシェフ達が参加するものだと思っていたので、それとはちょっと違う大会なのかな、と思ったんです。でも、僕なんかが参加できるような大会じゃないな、と思っていました」と堀内さんは苦笑する。
しかし、35歳になる2021年、堀内さんは「RED U-35」にチャレンジすることを決めた。
※日本鹿のロース肉を軽く熟成させて炭火で焼き、花形にくりぬいたビーツを飾った。ビーツはヘーゼルナッツオイルで加熱している。ソースはビーツと香味野菜でつくった赤いソースにサワークリームを合わせた。
「故郷の山梨県で兄と一緒に店を持つというのが、昔から僕の目標でした。それに向けて、いろいろと活動もしてきました。でも、シェフになって3年ほど経っていましたけれど、僕のことを知る人はほとんどいませんし、これでは山梨にお客様を呼ぶこともできないという悩みや不安も抱えていました。それで、RED U-35が自分が叶えたい夢に向かって一歩を踏み出すきっかけになればと思ったんです」
しかし、オンライン審査は料理の技術やセンスだけでなく、自分の考えを伝える力やまとめる力も、想像以上に必要だった。
「それについては、兄や妻と何度もディスカッションしました。テーマが壮大なので、それに引っ張られて自分の言葉ではなくなってしまうこともありました。未来といっても、それは今の自分たちの延長線上にあるもの。とにかく、自分の言葉で話すことを心がけました」と堀内さん。一方の狐野さんは、堀内さんがグランプリを獲得した理由を次のように語る。
「最終審査のテーマは『家庭でできる未来の一皿』。未来に肉や魚が食べられなくなると仮定し、プラントベースの食材を採用。美味しいと感じる希望とともに現在への問題提起にもなっている。しかも自分が作るのではなく、調理学校の生徒さんに画面越しに指示を出し作ってもらうという方法で完成させた。指示も的確で、リモートクッキングという形態をよく理解されていると感じました」
※RED U-35 2021 ONLINEの最終審査で堀内さんが提案した料理「希望の種」。今よりも食材の選択肢が限られるかもしれない未来のスーパーで手に入るであろう、プラントベースの食材や、未来を支えると期待されるキノコや、豆類などを使用した。
そんな堀内さんに続く2022年のグランプリは誰になるのか。「旅というワードには、旅行だけでなく、人生や人との出会い、食材への探究心などさまざまな意味が含まれます。食の未来を見据えた情熱が溢れる挑戦に期待しています」と狐野さん。
8月9日、「RED U-35 2022」は一次審査を通過した50人を発表。今年も熱い戦いが始まった。
text: Shoko Yamauchi
※本記事は雑誌料理王国2022年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2022年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
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狐野扶実子
パリの老舗「FAUCHON」のエグゼクティブシェフを経て、アラン・デュカス氏主宰の料理学校で非常勤講師を務める。著書「Lacuisine de Fumiko」が、グルマ世界料理本大賞でグランプリ受賞。2022年AMBASSADOR OF TASTE 日本代表。
堀内浩平
1986年山梨県生まれ。調理師専門学校を卒業後、都内のレストランとホテルを経て、渡仏。北フランスの2つ星レストラン「La Grenouillère」で腕を磨く。2018年に帰国し、東京・西麻布「Ichii」のシェフに就任。2021年、「RED U-35 2021ONLINE」でグランプリ(RED EGG)を受賞。2022年4月より独立準備に入る。