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「RED U-35」が目指すもの 女性シェフの活躍が創る未来|料理王国2022年12月号

料理王国2022年12月号

COLUMN 2022.11.11

「RED U-35」が目指すもの 女性シェフの活躍が創る未来

RED U-35 (RYORININ's EMERGING DREAM U-35) 2022がいよいよ最終審査を迎える今秋。新たに審査員に加わったフードデイレクター・野村友里さんと、初参加でブロンズエッグに選出された木本陽子さんにお話を伺った。

単なる料理コンペティションとは異なり、食の未来を考え、社会の課題に向き合い、挑戦し続けることを大きな目標とする「RED U-35」。その目指すところは幅広く、奥も深い。そのなかで、今号スポットを当てるのは、女性シェフだ。近年は国内外で活躍する女性シェフも多くなり、「RED U-35」にエントリーする女性料理人も増えてきた。今回、ブロンズエッグに選出された木本陽子さんも、その一人だ。「RED U-35」に挑戦しようと思った理由を、木本さんはこのように語る。

「一人だけでは声が挙げにくいので、同じところを目指して一緒に頑張っていける仲間やチームができたらいいな、と思ったのが一番の理由ですね。そのためには、自分のことを知ってもらわなければいけない。『RED U-35』に参加したのは、自分を知ってもらうためのひとつの手段でもありました」

そして挑んだ1次審査。今回は「旅」をテーマにした作文と料理が課題だった。

「もともと負けず嫌いな性格なので、『勝ちたい』という野心がもっと前面に出るかな、と思ったのですが、意外と心は平和で、今の自分のレベルはどのくらいなのかを知る実力試験を受けているような感じでした」(木本さん)

※木本さんが一次審査に提出した「二年熟成メークインのフォンダンショコラ」。

一方の審査をする側の野村友里さんはというと、なかなかのハードワークだったらしい。

「応募者全員の作文と料理写真を見て審査をするのですけれど、その数なんと478名。久々に受験勉強のように、睡眠時間を削って夜中まで読み込みました。最初は紙面だけを見て何が分かるのかと思っていたのですが、紙面だけだからこそ伝わるものもあるんですよね。それが分かったから、ちゃちゃっと読んで済ませるようなことはできませんでした」

もともとコンペティションのようなものには興味がなく、審査員も自分には縁のないものだと思っていた、と野村さん。

「でも、審査員長の狐野扶実子さんに声をかけていただき、いろんな人に相談するなかで、私のような考え方の人間がこの場にいることにも意味があるのではないかと思い、審査員を引き受けることにしました」(野村さん)

今回ブロンズエッグに選ばれた50人のうち、木本さんを含む4人が女性だ。精神的にも肉体的にも厳しい料理人の世界で、女性が続けていくのは難しいといわれてきた。しかしそれは、日本でも変わりつつある。

「とはいえ、女性の料理人が少ないというのは事実です。頭も経験も体力も充実する30代に、結婚や出産のために女性は仕事を休まなければいけないことが多いからだと思います。でも、それは悪いことではないと私は思っています。そこから得るモノも大きいからです」と野村さんは言う。ただ、そういったことも、チームを作って動くことができれば、ブランクは短くてすむはず、と野村さん。

※野村さん手がけるグロサリーショップ「eatrip soil」。「soil」は土という意味で、「足元を見直したい」という想いから名付けたそうだ。店内には、野村さんやスタッフがセレクトした全国の食材やキッチンアイテムが並ぶ。なかには「eatrip soil」オリジナルのグラノーラも。

「一人では限界もあるし、だからといって際だった一人がいないとチームを作ってもうまく回らないこともあります。ですから『RED U-35』のような場に参加し、男女関係なく、同じ思いを共有できる人を見つけることはとても大事だと思います」とアドバイスしつつ、木本さんは笑いながら言葉を続ける。「現代の女性料理人としてやってみたいことは、自分のわがままを全部叶えることです」。結婚もしたいし、子どもも産みたいし、料理人も続けたい。だからこそ、よいチームを作りたいし、チームを大切にしたい、と言う。

「料理人の8時間労働も夢じゃないと思っていて、よい方法はないか常に考えています」と言う木本さんの言葉に、野村さんも賛同。

「料理人の労働時間が8時間だったら、子育てもできそうですよね。今は料理人の世界も変わってきていますし、そういうロールモデルができれば目標にする人も出てきますよね。私も、男女関係なく、働きやすい職場を作ることをずっと考えてきました」と野村さんが話す一方で、木本さんもこう続ける。

「私がいるとスタッフが帰りにくいと思うので、帰れるときはさっさと帰るようにしています。そのあたりは女性のほうがサバサバしているように思います」

基本的に、女性のほうが現実的。そんな女性たちがシェフになって厨房をまとめることで、 新たな慣習が生まれるかも知れない。未来の厨房が、ちょっと楽しみになってきた。


※「eatrip soil」に続くテラスには、レストランで使う野菜や果物を栽培する畑とコンポストを設置。循環を実践する場所となっている。豊かな緑に包まれたテラスは、野村さんの新たな活動拠点にもなっている。

text: Shoko Yamauchi
photo: Yukako Hiramatsu
※本記事は雑誌料理王国2022年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2022年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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プロフィール

野村友里
eatrip主宰・料理人。ケータリングフードの演出や雑誌での連載やラジオ出演に留まらず、イベント企画・プロデュース・キュレーションなど食の可能性を多岐に渡り表現。「restaurant eatrip」を、2019年11月に「eatrip soil」をオープン。料理を通じて食のもつ力、豊かさ、美味しさを伝えられたら、と活動を続ける。

木本陽子
1991年、日本人の父と韓国人の母のもと、東京に生まれる。辻調理専門学校を卒業後、六本木「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に勤務。自らのルーツでもある韓国へ料理留学。その後自ら料理教室を立ち上げるなど精力的に活動を行い、2021年秋、レストラン「イェン」のエグゼクティブシェフに就任。

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