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糸井章太|料理人の原点にある幼少期の幸福体験

糸井 章太(メゾン・ド・タカ 芦屋 料理人)2018 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2019.04.24

「RED U-35」史上、最年少の26歳で見事、レッドエッグの称号を手にした糸井章太氏。料理技術はもちろん、与えられた課題に対して、何が求められているのかを理解し、それを印象的な手法で表現する演出能力が高く評価された。その能力はいかにして培われたものなのか。インタビューから見えてきたのは、人の助言に耳を傾ける「謙虚さ」と、人の幸せに寄り添う「想像力」だった。

糸井章太氏は、家族や親戚などが集まって、大勢でテーブルを囲み食事を楽しむ家庭で育った。それは糸井少年にとって至福の時間だったという。この体験こそが、料理人、糸井氏の原点だ。

「おいしいものを食べて、みんなが幸せになれる。そういう場が好きだったから、料理人になったのだと思います」。

和食や中華よりも馴染みのなかったフレンチの世界へ飛び込んだ糸井氏は、アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」での研修時に、知人の紹介で現在の師、髙山英紀氏(「メゾン・ド・ジル 芦屋」当時)と出会った。そのころ、髙山氏は「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」の日本予選に出場中で、大会中サポートをしてくれる若手の助手を探していたのである。これが縁で糸井氏は、髙山氏の店に就職。その後、ブルゴーニュのミシュラン1つ星「レストラン・グルーズ」で研鑽を積み、現在は髙山氏の「メゾン・ド・タカ 芦屋」で料理人として活躍している。

髙山氏は「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で輝かしい成績を収めてきた人物だ。そんな師のもとで腕を磨く糸井氏が、若手料理人の登竜門ともいえる「RED U-35」への出場を決めたのは、自然な流れだった。

「髙山が『ボキューズ・ドール』に挑戦し続ける姿を間近で見てきましたから、その影響は大きいと思います。僕も何かに挑戦したかったんです」。

糸井氏は「ボキューズ・ドール」を肌で感じた経験を生かし、「RED U-35」で2つのことを実践した。ひとつは、後悔することのないよう準備を万全にすること。そして行き詰まったら、迷わず人に相談すること、である。

料理課題では、試作した料理を仲間に見てもらい、意見を求めた。最終審査のお弁当を試作する際には、近くの日本料理店の店主に、どうすれば「魅せる弁当」になるかを相談した。

「まわりにたくさん相談できる人がいるのは、僕の強みのひとつ。自分の料理を批判されれば、落ち込むこともあります。でも今回は、それをバネにして頑張ることができました。納得のいくまで何度もブラッシュアップを重ねたことが、結果的に成長につながったのだと思います」。

こうした謙虚な姿勢だけでなく、他者への思いやりも、糸井氏は忘れない。「未来の料理人に伝えたいこと」というテーマで行われた最終審査の公開授業では、BGMを流しながら生徒にスープをふるまい、審査員たちを驚かせた。

「メディアのカメラがたくさんあるのはわかっていましたから、生徒たちは絶対に緊張するだろうなと思い、リラックスできる音楽を流すことにしました。それに僕が調理師専門学校の生徒だったとき、授業で楽しかったのは、試食だったんですよ(笑)。それを思い出して、マッシュルームのコンソメをふるまうことにしたんです」。

糸井氏が、ここまで相手を想いリラックスした空間を演出できたのは、家族で食卓を囲んだ幼少期の幸福体験があったからだろう。だからこそ、糸井氏は授業でも「人は、相手が幸せを感じると、自分も幸せを感じるもの。料理で人を幸せにできる料理人の仕事は、だから素晴らしい。自分が幸せになるために、料理人として頑張ってください」とエールを送ったのだ。

この感動的な授業で、生徒と審査員の心を掴んだ糸井氏は、レッドエッグの栄冠を手にしたが、それでもなお、謙虚な姿勢は変わらない。

「将来的なビジョンはあまり話さないようにしています。大切なことは、目の前の仕事にしっかりと取り組むこと。2014年に髙山に出会って以来、毎日の営業から『ボキューズ・ドール』まで、本当にさまざまなことを経験させてもらっています。これからも感謝の気持ちを忘れずに、いつか『ボキューズ・ドール』の日本代表となれるよう、“自分の料理”を探求していきます」。

謙虚な姿勢を崩すことのない糸井氏が、これから先の日本のレストラン業界を担っていくならば、その未来は明るいはずだ。糸井氏のさらなる飛躍に期待したい。

*Author|RED U-35編集部(MOJI COMPANY)

プロフィール

糸井章太(メゾン・ド・タカ 芦屋 料理人)

1992年、京都府生まれ。調理師専門学校を卒業後、系列校のあるフランスに留学。アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」で研修を受け、帰国。「メゾン・ド・ジル 芦屋」、ブルゴーニュの1つ星「レストラン・グルーズ」を経て、2017年より現職。

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