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清藤洸希|新たな文化を生む空間を求めて

清藤洸希(枯朽)2023 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2024.05.30

間借りレストランでの営業を重ねながらSNSを駆使した巧みなアピールや、日本をはじめインドやネパールなど世界各地の文化を縦横無尽にミックスしながらもフランス料理に着地させる独創的な料理によって多くのファンを獲得(Xのフォロワー数は約3万人。「枯朽」アカウントでは1万人超)。2022年には東京・押上に「枯朽」をオープンさせた清藤洸希氏のさらなる野望とは……。


東京下町のランドマークである東京スカイツリーから徒歩約10分。下町風情の残る住宅街の一角に、店名を告げる看板もなく白壁にただ小さな入り口があるだけのシンプルがゆえに一際目を引くファサードのレストランがある。「入り口は茶室の躙口をイメージしたもの」と語る「枯朽」オーナーシェフ 清藤洸希氏は、個性派ぞろいの「RED U-35 2023」ファイナリストの5名のなかでも、一際異彩を放っていた料理人である。

オープンキッチンを囲むカウンター側面の棚には、ワイングラスや各種スパイスのガラスボトルのほかに、骨董ものの薬箱のような和箪笥や壺、茶器など、年代や国籍の特定不能なものが雑然とディスプレイされている。それこそが「枯朽」らしさだと清藤氏は言う。

「この場所は、雑多な文化が交差して新たな価値が生まれる、ひとつの国のようなもの。それは生まれ育った家庭が転勤族だったこともあり、故郷と呼べるものがないことが影響しているのかもしれません。フランス料理をベースに、僕が好きなインドやネパール、タイやベトナムなど各国料理の要素をミックスしつつ新たな文化を創出すること。それが枯朽らしさだと思っています」。

郷土愛のようなものがないことにコンプレックスを感じることもあったというが、その根無草的な性分をアイデンティティに、自分の料理スタイルを追求してきた清藤氏。天恵菇(てんけいこ)という椎茸、ノルマンディー地方のカマンベール、中国・雲南省産の浅煎りコーヒー豆を使った写真のひと皿が示すように、「枯朽」の名のもとに提示されるその独創的なスタイルは、カリブとニューオーリンズ、そして沖縄のサウンドをつなげ、すべての文化には異文化混合の歴史があることを音楽として表現した細野晴臣氏--清藤氏が尊敬する人物のひとりでもある--が1970年代に表現した世界観を彷彿させる。

自らを「ややオタク気質」と語る清藤氏を魅了したのは、フランス料理の豊かな歴史によって醸成された奥深さだった。専門学校時代には、フランス料理に関する古典を読み漁り、不明な点があれば逐一講師に尋ねる生徒だった。そんな清藤氏が「RED U-35」にはじめて挑戦したのは、大阪のミシュラン星つきレストランにてフランス料理の基礎を学んでいた駆け出しのころ。しかし、その後あることをきっかけに同コンペティションへのエントリーをやめていたという。

「当時『La Cime』に在籍していた藤尾康浩(現『middle』オーナーシェフ)さんが優勝した『サンペレグリノ ヤングシェフ2018』の国内代表決定戦ファイナルに出場したときのこと。料理の完成度やコンペティションに取り組む姿勢など、とにかくそのレベルの高さに衝撃を受けました。その姿を間近に見たことで、未熟なまま背伸びして参加してもあまり意味がないかもしれないと思うように。もちろん、参加することに意味はあります。ただ、そこに意味を見出す経験は1度でいい。それよりも料理の完成度を高めることに時間を費やしたい、と」。

それからさまざまな経験を積み、オーナーシェフとして自分の料理を追求する今なら、自分が築き上げた世界観を説得力のある言葉と料理で表現することができるはずだ--そんな確信のもとに挑んだ「RED U-35 2023」では、グランプリ獲得を逃したものの、同じ時間を共有した仲間との出会い、そして自分が知るべき世界の広さを実感できたとなど、将来への大きな糧を得ることができたと言う。

「理想はこのレストランを起点に、料理のみならず多彩な分野の新たな文化を生み出し世界に発信すること。そのためには世界の文化をさらに肌で感じる必要がありますし、レストランの認知度のさらなる向上や規模の拡大などやらなければならないことは山ほどあります」

「課題は山積みです」と語る氏の顔に迷いの色はない。近い将来実現されるであろう理想の舞台では、未知なるひと皿が供されるはずだ。

【料理】 「天恵菇とカマンベール・ド・ノルマンディーの皿ワンタンと雲南コーヒーとラベンダーの香り」と題されたこのひと皿は、スパイス、コーヒー、茶、ハーブを駆使した「枯朽」 らしいミクスチャーな感覚を残しつつ、よりシンプルでミニマムな表現を追求したもの。

text by Moji Company / photos by Hidetaka Yamada

プロフィール

清藤洸希

枯朽 オーナーシェフ
1994年、鹿児島県生まれ。大阪の調理師専門学校を卒業後、大阪市内のミシュラン1つ星のフランス料理店で、フランス料理の基礎を学ぶ。その後、東京のビストロで料理長兼店長を務めた。2022年8月に東京・押上に「枯朽」をオープン。

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