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黒川恭平|能登の自然を美味なる洋食に

黒川恭平(レストラン ブロッサム)2023 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2024.06.03

父が築き上げた洋食レストランというスタイルを受け継ぎつつ、能登の旬の食材を活かした季節感のある、フランス料理を学んだ自分らしい洋食を追及する黒川恭平氏。その渾身のひと皿は被災した故郷復興の希望として、その魅力を力強くアピールする。

穏やかな内海を望み、背後には自然豊かな山が控える--美しい風景と海山の幸に恵まれた石川県七尾市において一際賑わいを見せる和倉温泉。その日常が一変したのは2024年1月1日の午後のこと。同エリアの中心部に立つ「レストラン ブロッサム」のシェフ 黒川恭平氏は厨房にてオードブルの準備をしている最中だった。

「激しい揺れに動揺しながら外へ飛び出すと、目の前で地面が割れました。それと同時にかつてテレビで目にした震災の光景が脳裏に浮かび、生命の危機すら感じました」

幸い家族と自宅は無事だったものの、レストランの内壁は崩れ、厨房には食材や食器が散乱。道路や電気、水道など生活インフラが絶たれ、周辺エリアには倒壊した家屋もあり、避難所暮らしを余儀なくされた人もいた。そんな状況下で黒川氏が自店よりも何よりも優先したのは、避難所での炊き出しだった。

その後、3月末にようやく水道が復旧し、自ら立ち上げたクラウドファンディングのおかげもありレストランは無事再開。着実に復興が進んでいるかのようにも見えるが、周辺に立ち並ぶホテルのほとんどは休業中(5月中旬現在)だ。

「レストラン ブロッサム」が誕生したのは今から41年前。昼夜問わず忙しく厨房に立つ父親の姿を誇らしく感じながら育った黒川氏は、店のカウンターで常連客に勉強を見てもらったこともあったという。

「小学校に上がる前にはすでに、将来はコックさんになると言っていたそうで、とにかくお世話になった方々の喜ぶ顔が見たかったんです。父の跡を継いだ今もその想いに変わりはありません」

調理師専門学校でフランス料理を専攻した黒川氏は、京都のフレンチ懐石「祇園おくむら」での修業を経て、フランスの星付きレストラン「ラ トリュフィエール」へ。現地ではシャルキュトリーを学ぶなど、本場の文化を体得した氏は帰国後、さらなるスキルアップをめざし高田裕介氏率いる「ラシーム」(大阪・本町)へ。濃密な時間を過ごした氏は当初の目標どおり、2015年に北陸新幹線開業のタイミングで故郷に戻った。

「RED U-35」にはじめてエントリーしたのはちょうどそのころ。今や能登の美食を世界にアピールする同志であり、ライバルでもある「一本杉 川嶋」の川嶋 亨氏(「RED U-35 2018」ゴールドエッグ)、「ヴィラ・デラ・パーチェ」の平田 明珠氏(「RED U-35 2017」シルバーエッグ)らの活躍にも大きく触発されたという。

「大会へのチャレンジをとおして、食品ロスや環境問題などさまざまな社会課題をより強く意識するようにもなった」と語る黒川氏は、「RED U-35 2018」にてシルバーエッグを獲得。被災したのはラストチャンスとして挑んだ「RED U-35 2023」において着々と難関を突破した黒川氏が三次審査(2024年1月17日)を目前に控えたタイミングだった。

「途中で辞退すべきだろうか……。そんな迷いもありました。しかし、被災者のなかには、『RED U-35 2023』のゴールドエッグ獲得を僕以上に喜んでくれた方々も。逆に僕はそんな方々の声に幾度となく励まされました。そんな地域の方々、生産者の方々、そして家族……たくさんの人びとのおかげで自分はある。ファイナルでは、そんな故郷への想いと、大切な命をいただく料理人としての責任とやりがいを表現しました」

写真の料理がまさにそのひと皿。「レストラン ブロッサム」のスペシャリテでもある能登牛と能登豚がブレンドされたハンバーグに、薪火の香りをプラスしたものである。そこに添えられるのは、能登島産ジャガイモのグラタン、近隣の清らかな水場に自生するクレソン、茅野産のタケノコなど季節を表現する付け合わせ。ワイン、あるいは白いご飯とともにいただきたくなるその味わいは、フランス料理を学んだ黒川氏らしい、能登のテロワールをみごとに体現するもの。美しい自然によって育まれる豊かな食文化を次世代に繋ぐべく、黒川氏は故郷を照らす光を灯し続ける。

【料理】 能登牛と能登豚がブレンドされたハンバーグと、地産の旬の食材を生かした付け合わせは、能登のテロワールをひと皿で表現。粗めに挽いた能登牛の食感と、薪火の香りが絶妙なアクセントに。凝縮感のあるソースが、フランス料理をいただいたという満足感をも堪能させてくれる「伝統を未来の礎に」と題されたひと皿。

text by Moji Company / photos by Makoto Ito

プロフィール

黒川恭平

レストラン ブロッサム シェフ
1988年、石川県生まれ。専門学校卒業後、フレンチ懐石「祇園おくむら」(京都)や、フランスの星付きレストラン「ラ トリュフィエール」、「ラシーム」(大阪)で腕を磨く。北陸新幹線開通を機に、七尾市にある両親が営む「レストラン ブロッサム」を受け継ぐべく帰郷しシェフを務める。

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