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西山優介|土地に根差したガストロノミーを求めて

西山優介(respiracion)2023 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2024.06.04

日本の豊かな自然や伝統文化など、失われつつあるものへの想いをいかにして料理へと結実させるか--「RED U-35 2023」へのチャレンジをとおして料理の世界観が明確になったと語る西山優介氏。その発想力と表現手法が評価されみごと準グランプリを獲得。それは氏にとって己の進むべき道を見定めた瞬間でもあった。

「RED U-35 2023」の一次審査における「2030年のお子様ランチ〜未来をつくるこどもたちに贈る料理〜」というテーマに対し、野花や山菜、紅葉樹など、およそお子様ランチには似つかわしくない滋味あふれる素材を生かしたひと皿で、自身の自然との向き合い方、地球環境への眼差しを表現したのは西山優介氏である。ファイナルにおいてもそのスタイルを貫き、稗の雑炊を猪のコンソメスープでいただくメニューを提供するなど、独自の世界観と確かなテクニックが評価された氏は準グランプリを獲得。2024年秋にはさらなる見聞を広げるべくデンマークへの移住を予定するなど、夢の実現に向けて着実に歩を進めている。だが、それまでの道のりは葛藤の連続だった。

定食屋を営む両親の影響もあり料理の道へと進んだ西山氏は、調理師専門学校のフランス校を卒業後、奈良のフランス料理店「ラ・フォルム・ド・エテルニテ」へ。同店でフランス料理の基礎を学んだ氏は、その3年後の2020年にデンマークへ飛び立つ予定だったものの、新型コロナウイルスのパンデミックにより断念。京都市内のフランス料理店や洋菓子店でのアルバイト、実家の手伝いなどを経験した後、石川県金沢市のモダンスパニッシュレストラン「respiracion」へ。だが、当初は厨房よりもフロアに立つ時間のほうが多く、料理人としてもどかしい日々を過ごしていたという。

「同期の活躍を横目に、料理すらしていない自分に焦りを感じつつも、土中の微生物のはたらきや、森林を守り生かしていくにはどうすればいいのかなど自然環境への興味は増す一方でした。料理人としてのキャリアを考えたら、そんなことに注力するよりももっと料理に打ち込んだほうがいいのではないか……。もしかすると自分は料理以外の道に進むべきではないか、そんなことを考えたりもしました。でも、やっぱり料理が好きだったんです」

器や和紙、竹細工の作家、自伐型林業を実践する林業家ら料理人以外のプロフェッショナルとの交流をとおし、彼らが秘める、失われつつある伝統文化への想い、自然環境への眼差しに深い共感を覚えた氏は、料理人としてのあるべき姿を模索していった。

「彼らの声を料理をとおして広く社会に届けること。それこそが僕の料理人としての役割なのではないか--『RED U-35 2023』での収穫は、その想いを表現したことで評価をいただけたこと。『君はそのままでいいんだよ』と、背中を押してもらえたことが何より嬉しかったんです」

そんな西山氏に大きな影響を与えたのが、「respiracion」の改装期間(2023年8〜11月)に、1カ月ほど研修に赴いた山形県西川町にある山菜料理専門宿「出羽屋」での体験だった。人里離れた土地で遭遇した未知なる食材や調理技法、日本各地に根付く伝統の食文化の多彩さ、そして里山の暮らしのあり方などに触れたことで、自身の表現すべき世界が確かな輪郭をもちはじめたという。写真の胡桃豆腐を独自に解釈した料理は、郷土料理の新たな可能性を追求する西山氏を表現したものだ。

「今は自分が何を知らないのか、それをもっと知りたい。デンマークでは、環境意識の高い彼の地の料理人たちが何を考え、どんな生活を送っているのか、料理のみならず社会全体の空気を体感してみたいんです。近い将来の目標は、日本のどこか自然に囲まれた土地でオーベルジュを開くこと。朝目を覚ましたゲストの眼前には、美しい山並みが広がってる--そんな空間が理想です。人間の根源的欲求に訴えかける食には、とても大きな力があるはずです。自分はこれからも料理をとおして、さまざまな想いを伝えていきたい」。

明確なヴィジョンを語る西山氏は次はどんな場所から、どんなメッセージを届けてくれるのか--その動向から目が離せない。

【料理】 「出羽屋」での研修時に味わった胡桃豆腐を、能登大豆の出汁に京都産の白味噌を合わせてコンソメにしたスープでアレンジした「留白」と題されたひと皿。胡桃の上に乗せられた褐色のソースは、ローストした胡桃の殻を粉末状にしてエスプレッソの要領で抽出し、金沢特産のじろ飴を加えた蜜のようなもの。

text by Moji Company / photos by Makoto Ito

プロフィール

西山優介

respiracion 料理人
1995年、京都府生まれ。調理師専門学校卒業後、2016年にフランスにて研修。その後、「ラ・フォルム・ド・エテルニテ」(奈良)などで研鑽を積み、2021年にスペイン料理「respiracion」(石川・金沢)へ。2024年秋にはデンマークへの移住を予定している。

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