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山本結以|己の殻を破りさらなる高みへ

山本結以(ESqUISSE)2023 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2024.05.22

完成度の高い料理と確固たる哲学、そして抜群のパフォーマンスによってみごと「RED U-35 2023」レッドエッグの称号を手にした山本結以氏は、男性のみならず女性料理人も活躍できる料理界をめざす「日本女性飲食業協会」の立ち上げを目標のひとつに掲げるなど、未来を変えんとする強い意志を感じさせる料理人でもある。そんな彼女の原動力とルーツに迫った。

「もしリオネル(「ESqUISSE」エグゼクティブ・シェフ リオネル・ベカ氏)に出会っていなければ、私がここに立つことはなかったでしょう。merci beaucoup!」――「RED U-35 2023」のグランプリに輝いた山本結以氏が受賞セレモニーの舞台で語ったこの言葉は、進むべき道を示してくれた師への率直な感謝の想いにあふれていた。

小学校に上がる前にはすでに母親の目を盗みクッキーを焼いていたという早熟な少女をフランス料理へと導いたのは、生来の旺盛な好奇心とフランスを代表する女性シェフの存在だった。

「専門学校ではじめてフランス料理の授業を受けたとき、目にするものすべてが新鮮で輝いて見えたんです。フランスの3つ星を獲得した唯一の女性シェフであるアンヌ・ソフィー・ピックの存在を知ったのもちょうどそのころ。彼女の堂々たる佇まいとかっこよさに惹かれ、ますますフランス料理の世界にのめり込んでいきました」

調理師専門学校を首席で卒業した氏は、研修先のブルゴーニュにある3つ星レストランに魅せられ、いつしか自らも3つ星シェフを志すように。

「いつかは結婚して子どもを産むだろうと思っていたこともあり、プライベートとの両立を叶えるスタイルのビストロなどを頭に描いていたこともありました。しかし、研修先での経験はもっともっと未知なる世界を見てみたいという好奇心を刺激してくれたのです。また、従来の環境に自分を適応させるのではなく、逆に女性料理人が存分に活躍できるよう環境を変えていくためにはどうすればいいのだろう……、そんなことを考えはじめたのもそのころでした」

2016年に帰国後、渡辺雄一郎氏率いる浅草の「ナベノイズム」に5年間勤めた後、2021年に「ESqUISSE」へ。新天地に加わり1年が過ぎたころ、エグゼクティブ シェフのリオネル・ベカ氏から、「ユイ、『RED U-35』には出ないの?」と声をかけられたという。しかし、そのときはまだ“「ESqUISSE」の山本結以”と胸を張って名乗る自信がなかったためエントリーを辞退。「挑戦するのは一度きり」と決めていた山本氏が同店のスーシェフとして満を辞して挑んだのが「RED U-35 2023」だった。

「挑戦の日々において常に意識したのは、リオネルがよく口にする『食材の声に耳を傾けなさい』という言葉です。はじめはその意味するところをうまく理解できなかったのですが、『RED U-35』の課題に取り組み、自分のつくりたいもの、料理をとおして表現したいことを追求する過程で、そのことに気づけたような気がします」

「春の息吹」と題された写真の料理--潮干狩りで獲ったハマグリやアサリ、祖父母が採ってくれたタケノコなど、幼いころの美味なる記憶を形成する食材を生かしたひと皿--に、山本氏は自身の成長を感じたと言う。

「幼いころの記憶と、自然を敬いながら料理をしていきたいというこれからの自分を表現したこのひと皿は、実は1年前に『あなたのテロワールを表現しなさい』というリオネルが与えてくれた課題に応えてつくったもの。当時の自分はこれ以上手を加える必要はないと思えるほどの手応えを感じていました。しかし、今回改めて同じ料理をつくってみたところ、まったく異なるものに仕上がっていたのは嬉しい驚き。食材に向き合う態度、考え方が変化した証でしょう。これからも日々成長していけることを実感させてくれました」

「とても現実的で頑固な性格」--自らをそう分析する山本氏は、師のアドバイスや、食材の声に真摯に耳を傾けながらそんな自分の殻をひとつずつじっくりと打ち破り、「RED U-35 2023」においては最高の結果を残してみせた。だが彼女にとってそれは通過点のひとつにすぎない。

「大会では自分にはこんな表現ができるんだ、こんなコミュニケーションもできるんだという嬉しい発見がたくさんあって、そんな自分を少しだけ好きになれた気がします。この経験はきっと将来の大きな糧になるはず。これからも夢の実現のために一歩ずつ着実に成長していきたいと思います」

日々成長を遂げる山本氏の夢はいつの日かそう遠く未来に必ずや実現されるだろう--力強くも穏やかな洗練された彼女の料理と言葉は、そう信じるにたる確信に貫かれていた。


【料理】 旬のハマグリとタケノコに木の芽と粒マスタードのクリームを添え、ハマグリの出汁、バター、発酵したフロマージュ・ブラン、酒粕を加えたソースで、「フランス料理のニュアンスを加えながら、どこか懐かしいようなちょっとホッとする味わいに仕上げてみた」と山本氏が語るように、日本の豊かな食材の魅力を感じさせる「春の息吹」と題されたひと皿。

text by Moji Company / photos by Kenichi Sasaki

プロフィール

山本 結以

ESqUISSE シェフ
1994年、愛知県生まれ。調理師専門学校在学中、2015年〜16年にフランス「Maison Lameloise」(ブルゴーニュ地方)、「Azimut」(サヴォワ)にて研修。その後、「Nabeno-Ism」(東京・浅草)にてスーシェフを務め、2021年に「ESqUISSE」(東京・銀座)へ。2024年より同レストランのシェフを務める。

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