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加藤正寛 | 遠回りから掴んだ「自分らしさ」

加藤正寛(Ristorante Venissa)2024 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2025.03.21

「人生に無駄はない」--それは、「RED U-35 2024」においてレッドエッグの称号を手にした加藤正寛氏が、大会を通して表現し続けたキーワードでもある。近年の効率性重視の風潮に異を唱えるかのようなその言葉には、彼が辿った紆余曲折を経ての想いが込められていた。

加藤氏が料理人のキャリアをスタートさせたのは27歳のとき。大学卒業後に会社員を4年間経験したあとの転身だった。両親にパスタ料理を振る舞うなど、幼いころから料理をつくることに喜びを見出し、料理人になることを夢見ていたものの、一度は一般企業に就職するべきだという両親の考えを受け入れ、大学の経営学部を卒業後、大手食品メーカーの営業職に就いた。

それなりに充実した日々を過ごしていた一方で、「週末には居酒屋で同僚と愚痴を語り合う典型的な会社員」である自分に物足りなさを感じてもいた。そんな状況を変えるべく、ベンチャー企業のインターンを経験。彼らの情熱に感化されたことが、改めて料理人の道を志すきっかけになったと言う。

「『失敗しても野垂れ死ぬことはない。何度でもやり直せる』という彼らの言葉にハッとして。一度きりの人生なのだから、自分もバッターボックスに立つしかない、そう決意しました」

一念発起して、神奈川・鎌倉のイタリア料理レストラン「IZA」などでイタリア料理の基礎を学び、2023年に海外へ。「世界のベストレストラン50」にランクインする「ヒシャ・フランコ」(スロベニア)を経て、ミシュラン1つ星の「ラ・クレデンザ」(イタリア)、そしてミシュラン1つ星、グリーンスターを獲得する「リストランテ ヴェニッサ」(イタリア)へ。世界のファインダイニングシーンをリードするレストランや、イタリア料理の本場を体感するなど料理人としての技量を高め、視野を広げるべく懸命に腕を磨き続けた加藤氏は、ふと自分は本当に成長できているのだろうかと不安を抱くこともあったという。「RED U-35 2024」へのエントリーは、そのことを確かめるためでもあった。

「海外ではヴィーガンやベジタリアンのゲストが多いこともあり、ファイナルで披露した料理では、天恵菇をメインに据え、鹿肉をうまみを支える脇役として使ったつもりでしたが、審査員の吉武さんからは『鹿肉の存在感がなかった』との指摘を受けました。プレゼンテーションを含め、伝えるべきコンセプトの表現方法など、新たな課題を見つけることもできました」

最高の結果のみならず、さまざまな収穫を得た加藤氏は、近い将来日本に帰国し、イタリアの郷土料理をベースにした自身のレストランを開く予定だ。また、そこではキッチンのコミュニケーションやサービスを英語で行うスタイルの実現をめざすと言う。

「『ヒシャ・フランコ』同様、先日研修してきたメキシコ料理をファインダイニングで表現する『KOL』(ロンドン)でも、世界各国から志の高い料理人が集うキッチンは実に活気に満ちていました。なかには日本に興味をもっている料理人もいます。しかしその多くは日本人では英語が通じないというイメージをもっており、日本で働くことを躊躇しているようでもありました。そんな経験から、英語を共通言語とするレストランが実現できれば、お客さまのみならず料理人も世界各地から呼べるはずだと考えたのです。彼らが日本の料理界にもたらすポジティブなフィードバックも期待できるし、逆に彼らには僕らの文化を正しく伝えることができるはずです」

海外での経験は、人手不足や労働量と給与のバランスなど、飲食業界のさまざまな課題を見つけ、その解決の糸口を見つけるためでもあった。その問題意識と課題解決のための提案料と行動力は、会社員時代の賜物なのだろう。

「営業は、お客さまの課題を見つけ、それをいかに解決するかが重要です。それもただ前例を踏襲するだけではなく、独自の新たな発想が必要になる場面も多々ありました。そうした習慣はメニュー開発にも生かされていると感じます。細かな数字の管理も同様です。『IZA』時代にはワインの仕入れや原価管理などを任せられていました。それも会社員としての経験があったからこそ。あの4年間が料理人として遠回りではなかったのだと今は考えています」

写真の料理は、イタリアの地で体感したこと、かつての師への想い、そしてこれまで自分を支えてくれた人びとへの感謝の念を胸にこれからも挑み続ける姿勢を表現したもの。その洗練された華やかな香りと味わいは、加藤氏の今後の活躍を予感させるものでもある。

「いつまでも終わりが見えないけど、常に理想を追い続けること--それこそが料理人という仕事なのだと思います」

そんな強い覚悟を胸に、加藤氏は今、理想の実現に向かって果敢にその歩みを進めている。

【料理】 表面を軽く焼いたラングスティーヌ(ヨーロッパアカエビ)に、イタリアでポピュラーな食前酒 スプリッツァーを生かした甘酸っぱいソースや、ローズティー(ピンクのバラの花言葉は「感謝」)から抽出したオイル、ローズティーのパウダーを合わせた「感謝」と題されたひと皿。「神奈川・鎌倉にあるイタリア料理レストラン『IZA』では、メニューづくりも担当していましたが、お世話になったオーナーシェフ 芝先康一氏が得意としていたエビ料理を避けていました。そこで今回は、あえてエビをメインにした料理を考えてみました」(加藤氏)。

text by Moji Company / photos by Mitsuya T-Max Sada

プロフィール

加藤正寛

「リストランテ ヴェニッサ」料理人
1990年、埼玉県生まれ。大学卒業後、食品メーカーの営業職に4年間勤務。退職後、鎌倉のイタリアンレストラン「IZA」などで修業後、海外へ。「ヒシャ・フランコ」(スロベニア)、「ラ・クレデンザ」(イタリア)を経て、2025年2月より現職。
「RED U-35 2024」においてグランプリ(RED EGG)受賞。

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