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故郷に光を灯す“里浜ガストロノミー”

井上稔浩(pesceco オーナーシェフ)2019 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2020.05.13

どんなに辺境の地であっても、世界各地から人が訪れるデスティネーション・レストランがある。長崎・島原にある「pesceco」もそのひとつだろう。「RED U-35 2019」でゴールドエッグを獲得した井上稔浩氏は、いかにしてこの特別なレストランをつくりあげたのか。苦難の末にたどり着いた“里浜ガストロノミー”の真髄に迫った。

「鮮魚店を営む父の魚を扱う料理人になる」

そんな夢を胸に井上稔浩氏は、大阪の調理師専門学校に入学するも、卒業後に就職した大阪の寿司店をわずか1カ月で退職。その後は、居酒屋やカフェなどで料理人のアルバイトを掛け持ちしながら、お金が貯まれば外国を放浪する気ままな生活を続けていた。そんな彼が故郷に戻ったのは23歳のとき。父が開いた居酒屋を手伝うためだった。

「父はふらふらしている息子に仕事を与えようとしたのでしょう」と井上氏。父が扱う海産物をメインに、田舎では味わえない都会風の料理をカジュアルなスタイルで提供していた居酒屋は地元で評判の店に。しかし、地元の生産者と、彼らがこだわる食材を深く知るにつれて、氏の料理人としての意識は少しずつ変化していった。

「島原の優れた生産者が選ぶ上質の食材は、その価格の高さもあり、ほとんどが都会のレストランに供給され、地元で消費されることはありませんでした。その流れを少しでも変えるために、料理人として自分にできることは何だろう。そんなことを模索する日々が続きました」

新たな理想を具現化するべく井上氏がヒントを求めて訪れたのは、宮城県仙台市の郊外にあったイタリア料理店「AL FIORE」だった。

「ここでしか味わえない料理の感動的な美味しさは、当時の僕がまさに探し求めていたもの。AL FIOREのオーナーシェフである目黒浩敬氏のように、地元の生産者とのつながりを大切にしながら、地産食材の新たな魅力を引き出し、全国に発信できる料理人になろうと決意しました」

ほどなく店のメニューを一新するも、「島原でしか味わえない料理」は地元では受け入れられず、徐々にお客は離れていった。そうした変化を支持する声も少なくなかったが、「うまくいっているものをなぜ変えるのか」と周囲は戸惑うばかりだったという。

悩んだ末に独立を決意した井上氏は、2014年に自分の理想を追求するためのレストランとして「pesceco」をオープン。島原の商店街のはずれに佇むわずか8坪のカジュアルなイタリアンスタイルのレストランは、試行錯誤を重ねながらも井上氏のこだわりを着実に反映させていった。料理人として新たなスタートをきった井上氏は、自身の存在をアピールすべく参加した「RED U-35 2016」にて、初挑戦ながらシルバーエッグを獲得し、県内外にその名を知らしめることになった。

2018年にはさらなる高みを目指し、現在の地である海辺の一軒家に移転。それは年々漁獲量が減り、かつての活気を失いつつあった浜辺に再び光を灯すためでもあった。海と山が近く、食材の宝庫である島原の魅力にフォーカスする「里浜ガストロノミー」を掲げた新生「pesceco」は、『ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎 2019 特別版』において一つ星を獲得し、全国区のレストランに。そんな波に乗るようにして挑んだのが「RED U-35 2019」だった。

「4度目の挑戦となる2019年大会にかける想いは特別なものがありました。普段どおりのことを表現できれば、自ずと結果もついてくるだろう、そう考えていたのですが、狙っていたグランプリには届かず。過信した自分の未熟さ、弱さ。振り返れば後悔ばかりで、大会後しばらくは立ち直れませんでした」

それでも、大会を通して改めて自己と対峙することで確信できたことがある。それは、ファイナルステージで自身が語った「島原の新たな魅力を引き出し一皿に完結させることこそがやるべき仕事」という言葉に偽りはないということ。その信念を象徴するのが、「夢見るアワビ」と題された一品(写真)である。じっくりと育てられた陸上養殖アワビに胆のペースト、同じく特産のジャガイモを載せ、あたりに自生するハマダイコンの花と、庭で摘んだカタバミを添えたコンテンポラリーな料理は、浜辺に暮らしながら世界とつながろうとする井上氏ならではのもの。浜辺に光を灯し続けるためにも、井上氏は己の信じた道を歩み続けるにちがいない。

*Author|RED U-35編集部(MOJI COMPANY)

プロフィール

井上稔浩(pesceco オーナーシェフ)

1986年、長崎県生まれ。大阪の調理師専門学校を卒業後、寿司店などを経て、2008年に父親とともに居酒屋をオープン。2014年にオーナーシェフとして開いた「pesceco」は、2018年に移転後、『ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎 2019 特別版』で一つ星を獲得。

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