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堀内浩平|家族と描くローカル・ガストロノミーの未来

堀内 浩平(Ichii シェフ)2021 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2022.02.09

一次審査から最終審査まで、すべてをオンラインで審査する異例の大会となったRED U-35 2021 ONLINE。みごと、レッドエッグの栄冠に輝いたのは、大会前まで知る人ぞ知る存在だった堀内浩平氏。「僕には知名度も実績もなかった」と語る氏が優勝できたのはなぜなのか? 大躍進の影には、妻と兄の献身的なサポートがあった。

富士山の麓に位置する山梨県富士吉田市で生まれ育った堀内浩平氏は、幼少より食に興味を抱き、小学生のころには漠然と料理人になることを夢見ていたという。その夢を実現できた背景には、9つ上の兄の存在があった。

「僕が高校生のときです。大学を卒業後、一度就職してから調理師専門学校で学びソムリエになった兄が当時働いていた東京のフレンチ・レストランに家族を招待してくれたことがありました。はじめて食べたフランス料理のおいしさはもちろん、両親の結婚記念日が近いことを兄から聞いていたシェフが用意してくれたサプライズのケーキに感動してしまって……。料理のみならず、素敵な時間と空間を提供するレストランで働きたいと決意した瞬間です」

こうしてフランス料理の道に進むことを決めた堀内氏は、調理師専門学校を卒業後、レストランやホテルで研鑽を積んだ。

「ただ、ホテル勤務のころ、レストラン勤務時に比べて自由な時間が増えたものの、肝心の仕事がおもしろいとは思えず、どうすればいいのか悩んでいました。そんなとき、フランスで修行している調理師専門学校の同期の話に触発され、僕もこのままではいけない、どうにかこの状況を打破しなければと焦りを感じていました」

転機となったのは、26歳のとき。テレビ番組でローカル・ガストロノミーのさきがけともいえる「L'évo(レヴォ)」の谷口英司氏の存在を知った堀内氏は、大自然に囲まれた富山の秘境で、地元食材でつくる谷口氏の前衛的な料理に、大いに魅了されたと言う。

「谷口氏の料理に刺激を受け、僕も故郷山梨を舞台に地元食材でオリジナリティのある料理をつくりたいという夢ができました。そんな話を、当時ニュージーランドで働いていた兄にしてみたところ、彼は“近い将来、一緒に山梨でレストランをやろう”と言ってくれたんです。即答でしたね」

兄と開業するという明確な目標を得た堀内氏は直後に渡仏。北フランスの自然豊かな環境に佇む2つ星レストラン「La Grenouillère(ラ・グルヌイエール)」で、素材の組み合わせと盛り付けで魅せるスタイルを学び帰国した2018年、はじめてRED U-35に挑戦した。

「帰国したばかりで、ちょうど働き口を探していたころでした。時間に余裕があったこともあり、軽い気持ちでエントリーしてみました。エントリーシートに添付した写真は、実家にある食材でつくった料理を、100円ショップで購入した皿に盛り付けて撮ったものだったり。今、思い返すとなめていましたね(笑)。しかも、PRシートの内容は自由だというので、うまいわけでもない富士山の水彩画を提出したんです。当然、書類審査であっさり落選。妻にめちゃくちゃ怒られました(笑)」

RED U-35の結果は振るわなかったものの、堀内氏はその後、現在の職場である「Ichii(イチイ)」のシェフに就任。“Yamanashi Gastronomy”をかかげ、本格的に山梨食材を使った料理に取り組みはじめた。

「ところが3年が経過しても、お客さまには喜んでいただいておりましたが、僕の知名度が上がることはなく……。このまま独立開業しても、僕の名前で山梨までお客さまをお呼びすることはできないんじゃないか。何か明確な実績がほしい。そんな想いでRED U-35への出場を決めたこともあり、グランプリ獲得は、今後の大きな足がかりになると思っています」

優勝が決まった瞬間、ふーっと大きなため息をついて天を仰いだ堀内氏。大会で最も印象的なシーンだった。

「妻と兄のサポートなくして、今回の最上の結果はあり得ませんでした。とくに三次審査のプレゼンテーションについては、この3人で何度もディスカッションを重ねました。自分の考えを、よりわかりやすく広く伝わる言葉に変換することができたのも、僕のよき理解者である2人のおかげです。また、決勝のリモートクッキング審査前には、兄の職場の調理経験の浅いアルバイトの方にサポートいただきながら、入念なリハーサルもすることができました。準備万端という状態で臨みましたので、本番後に後悔することはありませんでした。素材の組み合わせと立体的な盛り付けで魅せる、自分らしい料理を表現できた手応えがありましたので、これを超える料理を他の選手がつくるのなら、それは仕方ないかな、と」

レッドエッグを獲得しても、とくに大きな心境の変化はないと堀内氏は語る。変わったのは、むしろ周囲なのではないか。

「RED U-35で優勝したシェフの腕を見極めようと、真剣に料理と向き合ってくださるお客さまが増えたと感じます。料理業界において知名度も人脈もなかった僕が注目していただけるようになったことが最大の変化。今後は、このチャンスをどう生かしていくかが課題ですね」

夢の実現まで、もう一歩。堀内氏は目下、山梨に自生するハーブやキノコ類などの食材の知識を増やすなど、“Yamanashi Gastronomy”の進化に邁進している最中だ。もちろん兄の力も頼りにしている。

「ソムリエの兄となら、ドリンクのペアリングをさらに充実させられるはず。それも楽しみのひとつですね。勉強ができて、人当たりがよくて、欠点が思い当たらない彼は尊敬する兄。その印象は今も変わりません。僕よりもエンターテイナーですし、社交性もある。僕が知るなかでは、最も信頼のおけるサービスマンでもあります」

大会をとおして優勝賞金はレストランの開業資金に充てるとアピールしてきた堀内氏は現在、日々の営業をこなしながら、2023年3月の開業を目標に、物件探しなど、夢の実現に向けて具体的に動きはじめている。

「兄とは、もし、レストランがうまく軌道に乗れば、将来的には宿泊もできるオーベルジュにしたいね、とも話しています」と堀内氏。家族で思い描く夢はふくらむばかりだ。さらなる飛躍から目が離せない。

【料理1】「摘み草のお店 つちころび」(甲州市)の海老芋をピューレにして皿に敷き、その上に削ったカシューナッツをまぶす。炭火で焼いた「中村農場」(北杜市)のホロホロ鶏のむね肉ともも肉に合わせたのは、グリーンオリーブとレモンのコンフィとエシャレットの調味料。堀内氏らしい立体的な飾りはスライスした海老芋をソテーしたもの。ホロホロ鶏の弾力ある食感と旨味をグリーンオリーブとレモンの爽やかな風味で引き立てたひと皿。

【料理2】「明野ジビエ」(北杜市)で仕入れた雄の日本鹿のロース肉を軽く熟成させ、炭火で。ビーツと香味野菜で作った赤いソースにサワークリームを合わせるアイデアは、ロシア料理のボルシチをイメージ。花形にくり抜いたビーツをヘーゼルナッツオイルで加熱して、飾りにしている。鹿肉の野生味とサワークリームの自然な酸味が相性抜群。赤身とビーツの色合いのグラデーションが美しい。

text by Moji Company / photos by Jiro Hirayama

プロフィール

堀内 浩平(Ichii シェフ)

1986年、山梨県富士吉田市生まれ。調理師専門学校を卒業後、都内のレストランとホテルを経て、渡仏。北フランスの人里離れた場所に位置する2つ星レストラン「La Grenouillère」で腕を磨く。2018年に帰国し、「Ichii」のシェフに就任。現在に至る。2021年、RED U-35 2021 ONLINEにてグランプリ(RED EGG)を受賞。

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