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窪田修輔|逆境をバネに生み出す新たな価値

窪田修輔(Omakase@Stevens)2022 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2023.02.10

「挑戦するからには絶対に頂点を獲るという強い決意と、自分のスタイルや価値観を、大会が求める料理人像にいかにフィットさせるかという課題をもって挑みました。準グランプリという結果には満足していませんし、本当に悔しかったのですが、自分がこれまで培ってきたこと、多様な文化が共存するこの国で感じたことを反映させたプレゼンテーションに、一定の評価をいただけたことは嬉しく思っています」

「RED U-35 2022」では惜しくもグランプリRED EGGを逃したものの、多彩な経験を活かしたクリエーションと、すぐれたリーダーシップで異彩を放っていた窪田修輔氏は、そう戦いを振り返る。

「シンシア」オーナーシェフ 石井真介氏の薫陶を受け、同店のスーシェフとして腕を振るった氏がシンガポールにわたり、「Omakase@Stevens」のシェフに就任したのは2020年のこと。窪田氏が「RED U-35 2022」に挑んだのは、名店で磨いたテクニックとセンス、そして日本人というアイデンティティを武器に、世界有数の美食都市において確固たる地位を築きつつあった、そんなタイミングだった。

一次審査で披露したカエル肉をメイン食材として構築したものや、決勝の舞台での「ここで生まれた、価値と勝ち」と題されたひと皿(ブラックバスにプラナカン料理に想を得たニョニャソースを合わせたもの)は、氏のシンガポールでの経験、そして社会への問題意識が反映されたものだった。

「こちらに来てからよく考えるのは、モノの価値はどのように決められるのか?ということ。シンガポールでは安価でありふれた食材でも、それを知らない日本の人には価値あるものとして映るケースも多々あります。大会では、見る角度を変えることで生まれる新たな価値を料理として表現したつもり。忙しい最中ではありましたが、コンセプトを料理として表現するべくあれこれ考える過程も結構楽しくて、有意義な時間だったと思います」

シンガポールに渡る前、「シンシア」を辞した窪田氏は当初、故郷で自分の店を開くという夢の実現に備えるべく、自然豊かな土地をめざし、オーストラリアに行くつもりだった。縁あってその真逆とも言える環境に身を置くことになったが、そこで得たものは将来を見据えたうえでも、かけがえのないものになったと言う。

「この店では日本の食材をメインに使用していますが、その鮮度は日本と同じというわけにはいきません。その差を埋めるべく試行錯誤するなかで発見したのが、食材に恵まれないこの国らしいテクニックの数々です。うまみを感じさせるスパイスの使い方や香りの付け方など、取り入れるべきアイデアが実に豊富。さらに、食材へのアプローチが多彩なフランス料理を学んだ僕自身の経験も生きていることを実感しています。こちらに来てよかったことは、逆境が強みにもなることを知ったこと。そして、食材に恵まれた日本の魅力を改めて認識できたこと、ですね」

中国やマレー、そしてヨーロッパなど、多様な価値観が混在するこの国で、異なる価値観を受け入れながら、いかにして己の理想を実現させるか-そんな模索の日々によって培われた氏の経験は、必ずや次なる野望の糧となるはずだ。しかし、現在氏が注力するのは、ミシュランの星獲得など、この国で目に見える成果を出すこと。先に進むのはそれからだと考えている。

「現在30歳。40歳になるまでには、軸足を日本に移し自分のお店を開きたいと思っています。それが故郷の長野なのか、別の土地になるのかわかりませんが、いずれにせよ、リサーチや地元の人びととの関係づくりにはそれなりの時間がかかるはずですから。たとえば世界的にも高く評価される今の『Cuisine régionale L'évo』があるのも、オーナーシェフである谷口英司氏が、地元へのリスペクトを忘れることなく、揺るぎない信念を地道に貫きとおした結果。どんな世界でもトップにいるのは、そんな方々ばかりです。そこに少しでも近づくべく、僕もまずは足元を見つめながら、将来のヴィジョンをさらに明確なものにしていきたいと思っています」

料理人を志した理由を「とにかくものづくりが好きだったから」と語る窪田氏は、自分が生み出す料理によって誰かを幸せにできる今の仕事を天職だとも思っている。そのクリエーションが、さらに多くの人を魅了し、より豊かな社会の原動力になる日は、そう遠くないはずだ。


【料理】 フランス料理と和食の要素を融合させた毛蟹を使用したひと品。ヨーグルトでピクルスにしたキュウリとリンゴ。カニの身とカニ酢、カリフラワーのピュレに出汁のゼリームースを添えて。

text by Moji Company / photos by LUXPHO

プロフィール

窪田 修輔

「Omakase@Stevens」エグゼクティブ・シェフ
1992年、長野県生まれ。辻調理専門学校を卒業後、フランス・シャンパーニュの「Les Crayere」や「L'atelier d'Edmond」で修業の後、帰国。「Restaurant Chantrerells」(東京・代々木上原)、「Bonne table」(東京・日本橋)、「パーラー江古田」(東京・江古田)などを経て、東京・北参道『Sincere』でスーシェフを務める。2020年より現職。

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