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木本陽子|アイデンティティを美食に昇華

木本陽子(RESTAURANT HYÈNE)2022 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2023.02.13

東京・表参道の路地裏に佇むレストラン「RESTAURANT HYÈNE」がオープンしたのは、2021年11月のこと。エグゼクティブ・シェフを務める木本陽子氏が「RED U-35 2022」の1次審査で披露した「2年熟成メークインのフォンダンショコラ仕立て」は、同店のオープン直前に閃いたメニューである。それは、日本と韓国双方にルーツをもち、フランス料理と韓国宮廷料理を学んだ木本氏の、アイデンティティとクリエイティビティが込められた渾身のひと皿だった。

「RED U-35 2022」のテーマである“旅”に、木本氏は特別な想いを抱いていた。海外出張の多い母に連れられ、スウェーデンやオーストラリア、米国・ハワイ、フランスなど多くの国々を巡った少女の夢はパイロット、あるいは料理人になることだった。

「子ども心にここで暮らしたいと思ったのがフランスだったんです。フランス料理の料理人になれば、この地に住めるのではないか-料理人を志したのは、そんな子どもじみた発想がきっかけでした」

高校在学中のアルバイト先である、地元(東京・三鷹)のレストラン「エサンス」(シェフは「ジョエル・ロブション」などで修業を積んだ内藤史朗氏)で料理の世界に魅せられ、専門学校卒業後は「ラトリエ ドゥ ジョエル ロブション」へ。料理のベースは、同店での修行時代に築かれたものだと木本氏は言う。

その後、自らのルーツに立ち返るべく、韓国・ソウルの韓国宮廷料理レストラン「ハンミリ」の門を叩くことに。そこは、景福宮(朝鮮王朝時代の王宮)の目の前。かつて宮廷で食されていたであろうクラシカルな料理を、現代風にアレンジしたものを交えながらコース仕立てで提供する老舗料理店だった。

「母の手料理のほとんどが韓国料理でしたから、私の味覚は韓国人寄り。それにもかかわらずキムチすらつくれないままでいいのだろうか。そんな漠然とした想いが、次第に大きくなっていきました。この先のキャリアを考えてのことではなく、ルーツである韓国の伝統的でおいしい料理をつくれるようになりたい、その一心でした」

韓国への料理留学後、フリーの料理人として韓国料理教室を開くなど、さまざまな経験を積んだ木本氏が厨房に立つことになったのが「RESTAURANT HYÈNE」である。「韓国料理と日本料理、そしてフランス料理-自分が培ってきたすべての要素を融合・凝縮させれば、まちがいなくおいしいものができるだろう」ーそんな確信があったと語る木本氏にとって、そこは己が信じる美味を追求する舞台であると同時に、料理人としての働き方を模索する場でもあった。

「私自身20代前半には、休みなくバリバリ働いてスターシェフとして活躍することを夢見ていた時期もありました。ただ、料理人を志す若者が減り続ける業界の現状を考えれば、誰かがもう少しはたらきやすい環境を用意しなければならないとも思います。私は近い将来、ここでシェフを続けながら子どもを産み、育てたいと考えていて、料理人の“8時間労働”を叶えられたら、それも不可能ではないと思っているんです。レストランのオープンに際し掲げた“週休2日と1日8時間労働の実現”という目標は未達成ではありますが、試行錯誤の結果、今ようやくその道筋が見えてきた気がしています」

そんな模索の日々をスタートさせた木本氏が、「グランプリを獲得すること以外に意味はない」と、並々ならぬ覚悟で挑んだ「RED U-35 2022」における最大の収穫は、「決勝の舞台でともに戦った5人に出会えたこと」だった。

「6人の力を集結させることで、自分一人では到達できなかったであろう答えを導き出せたという経験はとても貴重でした。何より、ほぼ同年代の料理人が集ったファイナルでは、理想のシェフ像を絶賛模索中の彼らのもがきを共有できたことが刺激になりましたし、嬉しくもありました。なんだ、みんな同じ悩みを抱えていたんだなって(笑)」

スタイルは異なれど、理想の未来をめざし前進する同志を得た木本氏は近い将来、女性として、純粋に料理を愛するひとりの料理人として、自身をモデルケースに、新たなシェフ像を提示してくれるはずだ。

【料理】 RED U-35 2022でも披露した「二年熟成メークインのフォンダンショコラ仕立て」は、「RESTAURANT HYÈNE」のスペシャリテのひとつ。韓国の伝統的なおやつであるホバクシルトック(かぼちゃ、米粉、もち米粉を混ぜて蒸したもの)から想を得たと言う。「母がつくってくれたホバクシルトックが小さいころから大好きでした。このひと皿は、私のルーツと記憶、そして経験が込められた料理です」(木本氏)。

text by Moji Company / photos by Takanori Sasaki

プロフィール

木本 陽子

「RESTAURANT HYÈNE」エグゼクティブ・シェフ
1991年、東京都生まれ。辻調理専門学校を卒業後、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」(東京)で研鑽を積み、「ハンミリ」(韓国・ソウル)へ。帰国後は、料理教室を立ち上げるなど、フリーの料理人として活動。2021年11月より現職。

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