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大野尚斗|旅の先に見つけた理想の舞台

大野尚斗(Syn)2022 Finalist インタビュー

INTERVIEW 2023.02.24

「自分の名を世界に広く知らしめるためには、もっともっとアグレッシブにならなければならない-そう思い直す大きなきっかけになりました」

「RED U-35 2022」においてグランプリを逃した悔しさを滲ませながらも新たな決意を語るのは、ゴールドエッグを獲得した大野尚斗氏だ。決勝の舞台では、特別な熟成を施した牛肉の食べ比べと、ラオスの郷土料理であるラープをふた皿構成で表現するなど、豊富な海外経験を背景とした多彩なアイデアと独自の世界観、そして誰よりも貪欲な姿勢で存在感を示していた料理人である。

自らの料理スタイルを“Cuisine Voyages”(旅することで生まれた料理)と称し、地元福岡で自店のオープン(2023年6月オープン予定)を控えていた氏にとって、「旅」をテーマとした「RED U-35 2022」は、その存在をアピールする格好のチャンスだった。

「僕以上に旅をしてきた料理人もいないはず」と語る大野氏の、理想の料理を追求する世界42カ国にも及ぶ旅の起点となったのは、中学2年生のときにテレビで見た八朔饅頭を求めて青春18切符で一人旅をしたこと。そして食べ歩きの起点となったのは、ニューヨークの料理学校在学中に1人で訪れた「カンテサンス」と「未在」だった。

「この2つの店での体験は何もかもが衝撃的。そこは、どうせ一度しかない人生ならば、このガストロノミーの世界でトップをめざそうと覚悟を決めた場所でした。料理をする喜びを知った『The NoMad』(米国・ニューヨーク)や、学校を卒業後に就職した『Alinea(アリニア)』(同シカゴ)での毎日22時間を超える修行の日々も厳しくも楽しく、人生の大きな転機のひとつになったと思います」

その後も、己のセンスを頼りに世界中を食べ歩き、ここぞというレストランでは研修も。2019年中に閉店することが決まっていたスウェーデンの「Fäviken(ファヴィケン)」では、「ディナーの予約が取れなかったから働くことにした」など、大野氏の大胆なひらめきと行動力に関するエピソードには事欠かない。

「ペルー・リマの『セントラル』(2022年版「世界のベストレストラン50」では2位にランクイン)で働きたかったので、何度もメールを送っていたのですが一向に返信がありませんでした。日々世界中から何百通ものメールが来ているはずですから当然ですよね。あるときインスタグラムをチェックしていると、シェフのヴィルヒリオ・マルティネスがオンラインになっていたのに気づき、すぐにダイレクトメッセージを送ったんです。そうしたら数秒後にOKの返事をもらえたという嬉しい出来事も」

「2022年だけでも400軒ほどのレストランを食べ歩いた」と言う大野氏は、美食を求め旅を続けてきた理由をこう語る。

「ひとつは、ただシンプルに食べることが好きだから。料理の道を選んだのも、そこが原点です。それに、唯一無二の料理を生み出すためには、まず世界にどんな料理が存在するのかを知る必要があると思うから。最高の料理があったとして、もしそれを知らなければ、超えることすらできないはず。僕の強みのひとつは、超えるべき確たる指標をもっていること、といえるでしょう」

世界各地を巡り、その土地の文化と風土を肌で感じながら、ガストロノミーの頂点をめざし愚直に研鑽を積んできた大野氏は今、その集大成ともいうべきレストラン「Syn(シン)」を地元福岡にオープンさせようとしている。

「自分一人の力では、僕が理想とする世界を完成させることはできません。それは生産者さんや器の作家さん、設計士さん、そしてお客さまとレストランのチーム含めて、関わるすべての人とともにつくりあげるもの。シンクロやシンフォニーを連想させる店名には、そんな想いをこめました」

「RED U-35 2022」において大野氏が披露した独創的な料理とパフォーマンスは、氏が満を辞してオープンさせたレストラン「Syn」への期待を抱かせたはず。完成したばかりの新たな舞台において、大野氏はさらなる飛躍を遂げるだろう。

【料理】「Butter-Aged Jersey Beef」と題された料理の食材は、パンデミックによるロックダウンでやむなくペルーから帰国した大野氏が、日本各地を旅する中で出会った「はながジャージー牛」--愛媛県ゆうぼくの里で育てられたジャージー牛にバターを纏わせ熟成させたもの。熟成担当者との密なコミュニケーションにより理想の状態に仕上げられた牛肉は、骨つきの塊のまま炭火で3時間、骨伝導により火が入れられる。世界を旅した大野氏の経験とエッセンスそして、人との繋がりを大切に、ともに成長し続けるレストランでありたいという想いが込められたひと皿である。

text by Moji Company / photos by Takato Shinohara

プロフィール

大野 尚斗

「Syn」オーナーシェフ
1989年、福岡県生まれ。高校卒業後、地元のフランス料理店を経て渡米、「The Culinary Institute of America」ニューヨーク本校を卒業。ニューヨーク「The NoMad」、シカゴのミシュラン三つ星「Alinea」に勤務、部門シェフとシェフパティシエを担当。フランス「Regis et Jacques Marcon」、オランダ「De Librije」ほか国内外の有名店で研修。帰国後、東京・代官山「レクテ」のスーシェフ。そして都内会員制レストランのシェフを経て、2019年にスウェーデン「Fäviken」、2020年にペルー「Central」で研修。2023年6月、地元福岡にオーナーシェフとして「Syn」をオープン。

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