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イタリア料理界の新星がレッドエッグを獲得

RED U-35 2024 大会総括レポート

REPORT 2024.11.29

10回目にして初となる女性グランプリを輩出し、料理界の未来を提示した「RED U-35 2023」。次なる10年の幕開けとなる大会では、どんなストーリーが語られるのか。そんな期待のもとに開催された「RED U-35 2024」を制したのは加藤正寛氏(「La Credenza」料理人)。イタリア料理界から大会初となるレッドエッグが誕生した。

食品メーカーの営業職を4年間務めるも、夢を諦めきれず料理人の道へと進んだ加藤氏は、日本国内のレストランでキャリアをスタートさせ2023年に渡欧。その後スロベニア「Hiša Franko」を経て現在はイタリアの「La Credenza」で研鑽を積む料理人である。「自分だけの物語を伝えることができた」--約半年間の戦いをそう振り返る氏が、みごとに栄冠を手にした「RED U-35 2024」。2024年5月の応募受付開始からおよそ半年にわたる若き料理人の奮闘を追いながら、大会をレポートする。

多様な個性が共存する豊かな社会に向けて

「RED U-35 2024」の応募テーマである「自分らしさ」について、審査員長の狐野扶実子氏は挑戦者に対し次のようなメッセージを伝えている。

「食のニーズが多様化するなか、作り手が『自分らしさ』や『個性』を活かして提供する料理や食体験の価値がますます高まってきている。それは、『自分らしさ』のある料理が誰かの『おいしさ』に合致するからだ。あなたの料理、そして食体験をとおして、どのようなメッセージを伝えるのか。あなたが思い描くこれからの料理界や社会の将来像を、ひと皿で表現してほしい」。

固有のバックグラウンドや経験、そして社会課題意識を独自のクリエーションに昇華させる--そんな新たな才能を見出さんとするこの難題に挑んだのは、国内外合わせて478名の料理人である。

映像審査による二次審査を経て、三次審査に進んだ20名のシルバーエッグは、「深刻化する気候変動と食糧問題。わたしたち料理人にできること、すべきこととは?」という課題に対し答えを導き出すグループディスカッションと、審査員との面談に挑戦。その結果、際立つ個を明確にアピールした下記の5名がファイナルステージへの切符を手にした。

・加藤 正寛(34歳) イタリア料理 「La Credenza」 イタリア 料理人
・中川 寛大(30歳) 日本料理 「cenci」 京都府 料理人
・中村 侑矢(29歳) 日本料理 「INA restaurant」 奈良県 オーナーシェフ
・町田 亮治(34歳) 日本料理 「赤坂 菊乃井」 東京都 副料理長 ※独立準備中
・丸山 祥広(33歳) 日本料理 「瑠璃庵 Ruri-AN」 熊本県 料理長
※敬称略/五十音順
※年齢はゴールドエッグ発表日(2024年10月3日時点)

個の輝きをひと皿に

2024年11月5日(火)朝。ゴールドエッグの5名が姿を現したのは、決勝の舞台となった虎ノ門ヒルズ ガーデンハウスにある「Social Kitchen TORANOMON・unis」。到着後の彼らはすぐさま食材のチェックや書き留めたメモを確認するなど、最終審査に向けて黙々と準備を進めていた。

審査員を務めたのは、審査員長の狐野扶実子氏(食プロデューサー・コンサルタント)を筆頭に、佐々木浩氏(祇園さゝ木 主人)、君島佐和子氏(フードジャーナリスト)、辻󠄀芳樹氏(辻󠄀調理師専門学校校長、辻󠄀調グループ代表)、野村友里氏(eatrip 主宰/料理人)、吉武広樹氏(Restaurant Sola オーナーシェフ)。さらに、2021年大会以来の審査員就任となった脇屋友詞氏(Wakiya一笑美茶樓 オーナーシェフ)、日本国内におけるガーデンガストロノミーの先駆者として世界的な評価も高い小林寛司氏(villa aida オーナーシェフ)の2名が審査員団に加わった。

最終審査は、挑戦者がテーマに即して用意したワンプレート料理を審査員が実食するという前大会同様の形式で行われた。料理人はカウンター席に陣取る審査員団の目前で料理を仕上げ、錚々たる面々がその一挙手一投足から料理人の力量を推し量る--普段の厨房以上に緊張を強いられる場面でいかに己の独自性をアピールし、客人をもてなすことができるのか。料理人としての総合的な表現力が問われる「RED U-35」らしい最後の関門だ。

「私たちの質問に怯むことなく、自分を信じて私たちを説得するような言葉を発信してほしい」。レッドエッグという高みを目指し身構える挑戦者に対し、リラックスと奮起を促す狐野扶実子氏の激励とともに、「RED U-35 2024」の最終審査はスタートした。

舞台を彩る渾身のプレゼンテーション

ファイナリストの5名が挑む最後の舞台は、白を基調としたオープンキッチンを半円状にカウンター席が囲むシェフズテーブルである。そんな劇場型のキッチンで披露される演出にも注目が集まった。

審査員が見守る緊迫した空気のなか、最終審査のトップバッターは、熊本県の和食居酒屋「瑠璃庵 Ruri-AN」で料理長を務める丸山祥広氏である。

自然との共存をモットーにする丸山氏が披露したのは、自身が拠点を置く熊本県の郷土料理である辛子蓮根をモチーフにした「クマモトドッグ」。蓮根やハーブなど主たる食材は、想いを共有する同年代の生産者たちが育てたものだという。

「日々自然を間近に感じられる環境に暮らすことで生まれた料理には、郷土や尊い自然への想いを込めたつもり」。そう語る丸山氏の渾身のひと皿には熊本出身の小山薫堂氏も高い興味を示すなど、新たな熊本名物誕生に期待を寄せる場面も見られた。

「会場がとても良い香りに包まれた。それはどんな効果を期待したものか」という狐野扶実子氏の質問に、丸山氏は「リラックスと食欲増進の効果のあるレモンマートルというハーブを使用した。最終審査の最初の料理を爽やかに食べていただきたいと考えた」と回答。また、「お客さまに楽しい時間を捧げることが“自分らしさ”」とアピールする丸山氏の、朗らかな性格が顔をのぞかせるコミュニケーションは場を和ませていた。

2番手は、日本料理店「祇園さゝ木」でキャリアをスタートさせ、現在は京都を代表するイタリア料理レストラン「cenci」で研鑽を積む中川寛大氏(専門は日本料理)。

そんな中川氏が決勝の舞台で披露したのは、滋賀県琵琶湖産のホンモロコを生かしたひと皿。ホンモロコは、かつて絶滅が危惧されたものの、漁業者らの取り組みにより近年は天然ものが増えている淡水魚である。しかし、この魚を知る料理人が減ってしまったため、伝統の食文化が失われつつあるという。

「我々のような世代が水産資源の問題を学び発信することの価値を信じアピールしていきたい。そんな場をつくることが目標」。「Futuro〜繋ぐ〜」というひと皿には、ジャンルにとらわれない中川氏の自由な発想が生かされていた。

「ホンモロコにリコッタチーズを合わせたのはなぜか。その繊細な風味が生かされていないように思う」というかつての師でもある佐々木浩氏からの指摘には、「スパークリングワインとの相性を考え、しっかりとした油脂感と、そこにうまみを補填するという意味で乳脂肪を加えた」と回答。審査員の言葉に真摯に耳を傾けつつ、自身の考えを澱みなく答える姿が印象的だった。「日本の食文化を維持するためにも、料理人として水産資源問題にどのように対応していくべきか。Chefs for the blueなどを通して学びを深め、正しい情報を発信していきたい」と、さらなる目標を語った。

3番手の中村侑矢氏は、2024年9月にオープンしたばかりの奈良県・宇陀市にある日本料理店「INA restaurant」のオーナーシェフ。京都の名店で日本料理を学んだ後、スウェーデンの「Frantzén」、スロベニアの「Hiša Franko」、ペルーの「CENTRAL」など、世界のガストロノミー界を牽引するレストランで研鑽を積んだ国際経験豊富な料理人である。

3度目の挑戦でついにファイナルに辿り着いた中村氏が「自分らしさ」を表現したひと皿は、大和肉鶏や大和当帰、宇陀金ごぼうなど奈良の魅力がいっぱいの「大和蒸し」である。

「これは奈良の歴史と自然に育まれた食材、そしてこれまでの多彩な経験を生かした私の追求する日本料理。忘れられつつある奈良の伝統野菜や地元食材の新たな魅力を再発見し、料理をとおして広く伝えていきたい」というひと皿について、香りを楽しませるために大和当帰を固めて椀型にするというアイデアに審査員も興味津々。餡がたっぷりかけられた大和肉鶏は、審査員の身も心も温めたはずだ。

君島佐和子氏の「日本料理の特質とは?」という問いには、「上質な食材を育む水の素晴らしさを活かすことが、日本における日本料理の魅力」と即答。奈良の歴史が香るコスモポリタンなひと皿は、日本料理の新たな可能性を感じさせた。

続く4番手として、2022年大会でゴールドエッグを獲得した町田亮治氏が登場した。グランプリの獲得を誰よりも熱望していたはずの町田氏が、見事な包丁さばきとともに披露したのは、「繋ぐ愛 未来へ」と題された淡路島仮屋浜産の鱧、茄子、そして万病除けになるとされる亥の子餅を用いた椀物である。

「鱧は、冬に向けて脂を蓄えるこの時期が実は最もおいしい。日本料理やお茶など、途絶えさせてはならない伝統文化を後世に伝えていくこと。また、限りある命をいただく大切さを表現したかった」と、固い決意を語る町田氏の実直な人柄が感じられるひと皿に対して、「椀物にしてはぬるいのではないか」という提供温度に対する疑問を寄せられ、悔しそうな表情を浮かべながら「注意していたつもりだったが、香りにこだわりすぎたところもある」と反省の弁を述べる一幕も。

しかし「和食の未来について、どのように思って支えていくと考えているか?」という辻󠄀芳樹氏の問いには、「日本が世界にアピールできるのは“食”しかない。自分にはその根幹を担う日本料理を守っていく覚悟がある」という、日本料理に対する町田氏の熱い想いは審査員の心をとらえたはずだ。

最後に登場したのは、イタリアのミシュラン1つ星レストラン「La Credenza」に所属する加藤正寛氏。ゴールドエッグのなかで唯一のイタリア料理の料理人だ。

「審査の順番が最後なので、満足感がありつつも重すぎない料理を用意した」と語る氏が調理したのは、四国産の椎茸 天恵菇(てんけいこ)と、猟師が仕留める瞬間まで立ち会ったという新鮮な鹿肉。「人生に無駄はない」と題された勝負の料理は、自身と同じく脱サラして椎茸栽培をはじめた生産者の姿勢に共感したことから生まれたものだ。

「人生に無駄はないということ、そしていただいた命を無駄にしたくない、その想いを営業職時代に過ごした思い出の地である四国の食材で表現した」というひと皿は、己の進むべき道を信じ、夢を諦めなかった加藤氏の渾身のワンスプーン料理である。氏の合図により審査員たちは一斉にスプーンを口にすると、加藤氏が食感や味わいの変化を実況風に解説。「人間の集中力は15分が限界。僕自身が味わって感じたことをこうして説明することで、じっくりと料理に集中していただけると考えた」とその狙いを語った。

「鹿肉を味わってほしい料理なのかどうかが、はっきりと伝わってこなかった」という吉武広樹氏の指摘には、「椎茸6:鹿肉4というバランスで構成したつもり。多彩な食材のそろうイタリアでの経験を活かしながら食材のさまざまな食材の組み合わせやバランスを試していきたい」と、日本でレストランを開きたいという夢の実現を見据えた言葉で応えてみせた。

ファイナリスト5名中4名が日本料理の料理人という異例の展開を見せた最終審査は、大きな混乱もなく無事終了。挑戦者の控え室では戦いを終えた料理人たちが互いの健闘を讃え合う一方、熱戦が繰り広げられた審査ルームでは、審査員による審議がはじまっていた。審議開始後ほどなく、レッドエッグ候補が複数名に絞られたかのように思われたものの、「料理界の明日を担うレッドエッグにふさわしい料理人像とは」、あるいは「従来のジャンルの枠組みを超える勇気とアイデアをもつ料理人そ応援するべきではないか」--「RED U-35」の存在意義を改めて問う意見が交わされるなど議論は白熱。結論は、授賞セレモニーが行われる会場(東京・南青山のRecord Bar & Live Hall BAROOM)での審議に持ち越されることに。グランプリと準グランプリが決定されたときにはすでに、セレモニーの開始予定時刻が直前に迫っていた。

独自の道を切り拓いて得た幸せ

同日午後7時50分。フラメンコギターデュオ 徳永兄弟の華麗なテクニックによって奏でられた千住明氏作曲の「RED U-35」テーマ曲“CHALLENGERS”とともに、授賞セレモニーは華々しく幕を開けた。

「つい先ほどまで審議が続くほどの接戦だった」という小山薫堂氏の冒頭の挨拶は、今大会が僅差の勝負だったことを物語っていた。期待と不安が入り混じる表情を浮かべながら、その言葉に耳を傾けるゴールドエッグ5名に会場の視線が集まるなか、いよいよ「RED U-35 2024」グランプリ“レッドエッグ”の発表の瞬間が訪れた。スポットライトの光の先に照らされたのは、加藤正寛氏である。

驚きを隠せない緊張の面持ちで立ち上がった加藤氏は静かにステージ中央へ。審査員長の狐野扶実子氏からレッドエッグのエンブレムを首にかけられ、ようやく実感が湧いたのだろう。正面を向いた氏の表情には安堵と喜びの笑みが浮かんでいた。

「さまざまな課題を見つけることができた最終審査を終え、次に向けて頑張ろうと気持ちを切り替えたところだったので、正直驚いている。グランプリ獲得は、自分だけの経験と物語を伝えることができた結果」と率直な思いを言葉にした加藤氏は、「所属レストランには、『トップを獲れなかったら、日本にいる期間の給料を全額負担せよ』と言われていた。なんとか最高の結果を出すことができて、給料を返さずに済んでよかった」と続け、会場を和ませる余裕を見せていた。

狐野扶実子氏は 「最終審査では、みなさんがすばらしい個性をアピールしていた。そのなかでも、『自分らしさ』を存分にアピールしていたのが加藤さんだった」と講評を述べた。

一方、準グランプリに輝いたのは、中村侑矢氏。ブロンズエッグ、シルバーエッグ、そしてゴールドエッグと着実にステップアップし、悲願の優勝を目指したものの、わずかに届かなかった。「レッドエッグ獲得のために準備をしてきたので悔しさもあるが、やり残したことはない。ここで得た経験を糧に、今後はもっと広い世界で活躍できる料理人を目指して精進したい」と述べ、次回大会への意欲も見せていた。

また、料理人としての領域を超えた活躍や食の発展へ貢献することを期待して贈られる滝久雄賞には、辻岡靖明氏(35歳/専門 創作/神奈川県「シェフクリエイト横浜スタジオ」料理講師)が、最上位の女性料理人に贈られる岸朝子賞には、高江洲悠紀氏(33歳/専門 フランス菓子/東京都「BAMBAKUN」シェフ)が輝いた。

審査員長の狐野扶実子氏は、「『自分らしさ』をテーマとした今大会では、どれひとつとして同じものはない多様な個の輝きを見つけることができた。最終的には、『自分らしさ』をいかにして料理に反映させたのかを評価のポイントにした。総じて、個性的な料理が増えたことと、みなさんの自由な表現が印象的だった。生い立ちや経験は、個性を構成する要素ではあるが、それに縛られすぎることなく『自分らしさ』にさらなる磨きをかけ、未来に向けて勇気をもって新たな一歩を踏み出してほしい」と述べ、若き料理人たちへのエールとともに大会を総括した。

最後に、総合プロデューサーの小山薫堂氏からは、「RED U-35 2025」の授賞セレモニーが「大阪・関西万博」で開催されることや、狐野扶実子氏が引き続き審査員長を務め、審査員団に「HAJIME」オーナーシェフである米田肇氏が加わることなど、次回大会の構想が明かされた。

2025年10月5日(日)。「大阪・関西万博」という特別な舞台で栄冠を手にするのは誰か。新たな才能の出現に、世界の注目が集まる。

text by Moji Company / Photos by Jiro Hirayama

RED U-35 2024受賞結果
《RED EGG(グランプリ)》 加藤 正寛
(イタリア「La Credenza」料理人)
《準グランプリ/GOLD EGG》 中村 侑矢
(奈良県「INA restaurant」オーナーシェフ)
《GOLD EGG》
 丸山 祥広
(熊本県「瑠璃庵 Ruri-AN」料理長)
 中川 寛大(京都府「cenci」料理人)
 町田 亮治(東京都「赤坂 菊乃井」副料理長 ※独立準備中)

《岸朝子賞》 
高江洲 悠紀(東京都「BAMBAKUN」シェフ)

《滝久雄賞》 
辻岡 靖明(神奈川県「シェフクリエイト 横浜スタジオ」料理講師)

RED U-35 2024
■ ORGANIZERS 主催:RED U-35実行委員会 株式会社ぐるなび
■ CO-ORGANIZER 共催:株式会社エービーエフキャピタル
■ SUPPORTERS:emCAMPUS FOOD、株式会社ニッスイ、日本航空株式会社、株式会社アリラ、ヤマサ醤油株式会社、ロケーションリサーチ株式会社、株式会社Traders Market
■ CHEF SUPPORTERS:株式会社日本食品総合研究所NSK、BAROOM

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