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【ジビエ×CLUB RED 第3回産地懇談会】レポート|CLUB REDの料理人たちがジビエの生産地で学び、語り合う 〜宇佐ジビエファクトリー(大分県)編〜

LABO 2022.12.21

未来の料理人たちと共に「ジビエの未来」を考えるプロジェクト

近年、外食産業にとって厳しい状況が続く中、持続可能な外食産業の実現に向けた各種の取り組みが実施されています。一方で、消費者の外食におけるニーズは「味」や「価格」だけではなく「家庭で体験できない食事」を求める傾向にあります。また、SDGsやエシカル消費への関心が高まる状況もみられます。こうした社会環境の変化に直面している外食・中食業界にとって、ジビエのもつさまざまな価値が活性化の一助になると考えられます。
本プロジェクトは、CLUB REDのシェフたちと加工処理施設(生産地)が協働し、今の社会に相応しいジビエの「ブランド価値」を共に創り出すためにスタートしました。創造力・発信力のあるシェフと加工処理施設が協力しあうことで、今の時代に適合したジビエの価値を創出し、未来の外食・中食産業の活性化を目指します。
※CLUB REDは、歴代のRED U-35コンペティションにおいて優秀な成績をおさめた若手料理人と、歴代の審査員が集うコミュニティであり、食のクリエイティブ・ラボ。

【ジビエ×CLUB RED 第3回産地懇談会】に参加したCLUB REDの若手料理人たち

海野元気(新北欧料理/snow/福岡県)
波多江優貴(フランス料理/三井港倶楽部/福岡府)福岡県出身

新たな地域資源としてジビエを有効活用。食肉のプロが加工処理施設と事業を手掛ける「宇佐ジビエファクトリー」を見学
2022年10月12日、福岡県からCLUB REDの料理人2名が大分県を訪れ、宇佐市の中山間部にある加工処理施設「宇佐ジビエファクトリー」を訪れました。CEOの山末成司氏は、ほかにも「安心院ソーセージ・ハム」、飲食店の運営など幅広く事業を展開しており、ジビエなどの地域資源活用による地域還元型ビジネスを推進しています。その一環で、衛生的に問題ないもののおいしく食べられないジビエを市内の「九州自然動物公園アフリカンサファリ」の肉食獣用に提供することで、地域循環に寄与しています。

もともと畜肉加工を行っていた山末氏がジビエの処理施設を始めたきっかけは、近所の農家のおばあちゃんが「最近ジビエって聞くけど、あなたのところでできるの?」と言われたことから。理由を聞くと、自分の畑にシカが来るので捕獲をしてもらったが始末はしてくれない。命を粗末にしていることが辛く、農家をやめようと考えている、と。その言葉に使命感を抱き、ジビエを手がけるようになったそうです。

宇佐ジビエファクトリーでは、猟友会等から持ち込まれた、あるいは自社で捕獲したイノシシやシカを食肉用に加工処理しています。この日は仕掛けた罠にイノシシがかかったとの知らせを受けて、山末氏の案内で捕獲する様子を見学できることに。ちなみに、通信技術の活用により、しかけた罠の捕獲状況を随時確認、獲物の動きまで感知することができるそうです。

罠が仕掛けられていたのは、森の中の沼田場(ぬたば)と呼ばれる、水がある場所。こうした場所でイノシシやシカは水を飲んだり、寄生虫や汚れを落としたりするそうです。「危ないのであまり近づかないでください」と示された先には、くくり罠のワイヤーから逃れようと必死に暴れる小ぶりなイノシシが。

狩猟免許を持つ社員の林氏が獲物に近づき、素早く正確に止めさしを行います。「ピキッ」と一声発して静かになるイノシシ。「おいしく食べるからね」と山末氏が声をかけます。「命をとる瞬間、食べなきゃと思うでしょう」という言葉どおり、ジビエをいただくことの本質を学んだひとときでした。

捕獲したイノシシは、トラックで処理場へ運び、まず体重を計ります。次に、識別番号を屍体にペイントし、記録後に皮剥きの作業場へ。
宇佐ジビエファクトリーでは、イノシシには湯むきを施します。湯むきという処理方法は西日本の文化で、皮を残すために行うもの。もともと九州では豚肉が皮付きで広く流通していたため、イノシシも湯むきにしているそうです。

この日は、あとからシカが7頭届くということで、処理場の人たちが忙しく立ち働いていました。皮むきを終えたイノシシは内臓を取り出し、付着物を取り除いて洗浄します。このあと、死後硬直がとれるまで1〜2日冷蔵庫で保管。
「ここから先はなかなかお見せしないのですが、今日は特別に少しだけ」と冷蔵庫を見せていただきます。庫内には鹿肉、アナグマの肉がありました。
「庫内の肉は、個体温度がどれくらいに下がったら捌きますか?」と海野氏。
「魚と一緒で、死後硬直が取れたら捌き始めます。だいたい、1日か2日かかります。筋肉の硬直をとってから捌かないと、お肉が柔らかくならない。触ってみてください。それは昨日入ったものです」という林氏の言葉に、海野氏が鹿の枝肉に触って、柔らかさを確認します。

「部位はどれくらいの細かさに分けられるのですか?」と波多江氏。
「腿は、内モモ、外モモ、芯玉。芯玉は外モモと内モモの間の部分です。あとは、ロース、ネック、スネ。前足をウデと呼びますが、うちではソーセージやハンバーグ用のミンチ材にしています」と答えた林氏に、海野氏がたずねます。
「レストランで焼いて食べるなら、内モモ、外モモ、芯玉、ロースでしょうか?」「鹿の場合、外モモは打ち身が多くて色が変わってしまい、使えないんですよ」「そう考えると、食べられるところは少ないですね」
「40キロのシカから取れるのが8〜10キロ。3〜4キロということもあります。先ほどのイノシシは約20キロでしたが、5-6キロ取れればいい方です。なので、ジビエは高いんですよ。人件費もかかっていますし。体が大きいほどお肉はたくさん取れますが、小さいものほど肉が柔らかく、クセがないので好む人もいます」と、林氏がジビエの歩留まりについて説明してくださいました。加工場では、肉をカットし、金属探知機にかけた上で出荷します。インターネットで販売する食品の加工も行われており、手ごねのハンバーグ製造工程も見学。ハンバーグは1日200〜300P、ソーセージは1万本を生産するそうです。

さて、宇佐ジビエファクトリーの一室では、日本ジビエ振興協会代表でオーベルジュ・エスポワール(長野県)のオーナーシェフでもある藤木徳彦氏が、CLUB REDのシェフたちのために午前中から試食の準備をしていました。

まず最初に出されたのは、猪肉の骨スープ。
「入っているのは骨のみです。味付けは塩」と説明する藤木氏に「水からですか? 骨は焼かずに生のまま?」                          「ブランシールもしていない?」と立て続けに質問する波多江氏と海野氏。「焼き込んだりしなくても、十分に味が出て、ストレートに鹿肉や猪肉の味が感じられます」と藤木氏が答えます。

次は、皮付きの猪バラ肉。
「皮付きは、ジビエ好きのお客様に喜ばれますよ。今回は1.3%の塩と0.5%の砂糖で真空調理しました。85℃で4時間」と藤木氏。冷え固まった脂は歯ごたえがあり、口の中で脂がほどけると旨味が広がります。シェフたちと一緒に試食をしている山末氏からも「おいしい」との声が上がりました。

続いて、鹿ロース肉と猪ロース肉のロースト。
「これはフライパンで焼いただけ」という藤木氏の言葉に、驚きの声が。脂のたっぷりついた猪肉は、じっくりと時間をかけて火を通したもので、焼き色も食欲をそそります。

 

「先ほどのスープでしゃぶしゃぶにしましょう。皆さん好きに火入れしてください。」と、藤木氏がそれぞれに、猪バラ肉のスライスを配ります。火の通し加減を試しつつ食べた結果は「よく火を通した方がおいしい」(波多江氏)「ちゃんと火を通すと、脂の味も肉の味もしっかり感じられる」(海野氏)ということでした。

最後に、鹿肉のしゃぶしゃぶも試します。
「鹿肉は淡く火を入れても、しっかり入れても、どっちも好きだな」と呟いた海野氏が「肉の選別はどのようにしているんですか?」と山末氏に質問。「搬入して、確認した段階である程度わかります。打ち身が多かったり、年齢の割に毛並みが悪ければ病気だと。そういうものは、うちは流通させません」という山末氏の言葉には、食肉のプロとしての自信と誇りが感じられました。

産地見学会でシェフたちが学び、感じたこととは

ひと通り試食を終え、ここからはシェフたちと生産者の意見交換会です。まず、CLUB REDの2人に試食の感想を聞いてみました。
波多江氏「宇佐の鹿肉と猪肉を食べてみて、これは誰でもおいしいと感じるのでは、と思いました。そして、処理方法が重要であること学びました。スープの旨味の出し方や火入れ加減など、改めて自分自身の課題として持ち帰りたいと思っています」
海野氏「自分の店で出すとしたらどうするか、と考えながら試食しました。『この食材はこう調理する』という固定観念があり、火の通し方や表現によって味の感じ方が変わる、という目線は今まで持っていなかった。これから自分で色々試作してみる時間が必要だと感じています」

それぞれが自分の課題を再認識したという2人。宇佐ジビエファクトリーを訪れたことで、これまで感じていた課題や疑問に変化はあったのでしょうか。
波多江氏「僕が衝撃だったのは、フォンの取り方です。フランス料理のフォンはこれ、ソースはこれ、という先入観があった。そうじゃなくていいんだ、というのは大きな発見でした。シンプルに出汁をとること。食材に向き合ったときに『そうするべきだ』という答えがピタッとはまった」
海野氏「ジビエの処理方法は知っていたのですが、実際に見て、話を聞くと知らなかったことがありましたし、知識の裏付けもできました。なぜこういう食材を使うのか、自分の口でお客様に説明できるようになったことは大きな収穫でした」

ここで海野氏が、日頃から抱いている疑問を投げかけます。
「ジビエが嫌いというお客様も多いのですが、どのようにアプローチしたらいいでしょう? 長い間、僕の中のテーマなんです」
難しい問題だ、としながら山末氏が答えます。
山末氏「地元でもまだまだ食べられていない、通販の顧客もほとんどが関東圏というのが実情です。先日、宇佐市の花火大会が開催された際に、ジビエの串焼きやソーセージを提供したのですが、無料なのに誰も食べに来ない。ところが、1人が食べて『わあ、おいしい』と言った途端に、それまで敬遠していた人まで来て、今度は長蛇の列に。やっぱり食べてみないことにはどうにもならないので、まずは食べるきっかけづくりですね。今からですよ。ジビエはまだ草創期ですから」
海野氏「ジビエでおいしい料理を作って、少しでも裾野を広げて。料理人が活動する意義は大きいですね」

 

まだまだジビエに苦手意識を持つお客様が多いという現状があり、料理人たちの課題も多岐にわたります。山末氏は、学校給食や食育など、次世代へのアプローチも実践しています。また、ジビエの普及には社会的意義だけでなく、素材そのものが持つ魅力があると語ります。
山末氏「鹿肉は、栄養価が断然違います。DHA、オメガ3、オメガ6、イミダペプチド系は大体入っていますから、体力向上、持久力アップに。しかもアレルゲンはほぼ含まない。現に鹿は中国では薬であり、部位によっては上薬に位置付けられています。『日本書紀』によると、日本でも薬狩りと称して鹿を狩っていたようです」

産地懇談会を体験した今、ジビエの魅力をどのように伝えていくのかを尋ねてみました。
波多江氏「今日は捕獲の瞬間という衝撃的な場面を見ることができたので、あの体験を目に焼き付けて、絶対に伝えていくべきだと思いました。僕ら料理人が一番にわかっておかなくてはいけない。しかも、知ったことで、よりおいしく感じますよね」
藤木氏「ジビエが食肉として認められ、ガイドラインができたのは2014年。まだ10年経っていません。だけど伝えるべきメッセージを伝えないと、お客様にはわかりません。ジビエを食べる方の中には、ジビエの背景や実情を知りたがる人も多い。味だけでなく取り組みも含めて『本物のジビエを提供している』と伝えること。さらに『なぜジビエを食べるのか』という大義を広く発信していくことで、ジビエを食べる人が増えていくのではないでしょうか」

千葉、京都、大分の3回にわたって行ってきた産地懇談会。加工処理施設を見学し、現場の方々と語り合うことで、CLUB REDのシェフたちは何を学び、どのような課題を胸にそれぞれの職場に戻ったのでしょうか。

次回は、産地懇談会に参加した7人のシェフたちと生産者が東京で一堂に会する「都市部懇談会」を開催。
現地で学んだ知見を生かし、考案したオリジナルメニューを他のシェフたちと共有する勉強会(LABO)を実施する予定です。

 

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