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RED U-35 2020 特別座談会 第1部「美味しさの本質と料理人のあり方」

若手料理人×食の先駆者

REPORT 2020.04.21

RED U-35 2020 特別座談会 第1部
世代を超えた対話から見えてくる 美味しさの本質と料理人のあり方


日本の料理界の将来を担うRED U-35世代の2人の料理人が、今最も関心を寄せるテーマについて、日本料理界を牽引するトップシェフ2人とともに、世代を超えて語り合った。

参加者
・小山薫堂氏 放送作家(RED U-35総合プロデューサー)
・德岡邦夫氏 京都 吉兆 総料理長(RED U-35 19/20審査員長)
・生江史伸氏 L'Effervescence シェフ(RED U-35 19/20審査員)
・糸井章太氏 Maison de Taka Ashiya 料理人(2018 グランプリ RED EGG)
・本岡将氏 Restaurant Bio-s シェフ(2018 準グランプリ GOLD EGG)

※本対談は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を考慮して、2020年3月20日(金・祝)に開催を予定していた「RED U-35 2020 オープニングレセプション」を中止し、オンラインコンテンツに切り替えて制作したものです。



トップシェフが考える「美味しさ」とは?

小山薫堂氏(以下小山):RED U-35 2020 開幕スペシャル 第1部では、RED U-35 2018グランプリ(REDD EGG)の糸井章太さんと、同準グランプリ(GOLD EGG)の本岡将さんが、德岡邦夫さんと生江史伸さんのお二方にどうしても聞きたいことがあるとのことで、お集まりいただきました。

本岡将氏(以下本岡):料理人になることを夢見た幼いころから、ずっと考え続けてきたことがあります。それは「美味しいってなんだろう?」ということ。近年、世界のトップシェフたちは、サステナブルな社会実現に向けて料理人として何ができるのかを考え、実践されています。我々若い世代の料理人は、その活動を素晴らしいと思う一方で、シンプルに美味しいものを提供するのが料理人の本質的な務めなのではないかと考えることも。その点をふまえたうえで、お二人にとっての「美味しい」とはどういうことなのか? 漠然とした問いではありますが、お考えをお聞かせください。

德岡邦夫氏(以下徳岡):もともと「美味しさ」とは舌ではなく、頭で感じるものなのではないか、と感覚的にとらえていました。あるとき、伏木亨さん(龍谷大学農学部 教授、京都大学 名誉教授)が書かれた、美味しさを科学的に分析した著書を読んだところ、そこには普段私がなんとなく感じていたことが書かれていたんです。その後、伏木先生との直接の対話を重ねながら、ある結論に達しました。つまり、美味しさとは、身体が欲しているものの量と物質であるということ。塩味、甘味、酸味、苦味、うま味という基本的な5種類の味覚があり、それぞれにセンサー(受容体)があります。たとえば塩味には1種類、うま味には3種類のセンサーがあるのですが、苦味には53種類ものセンサーがあることがわかっています。それは毒素である可能性が高い苦味成分を感知するため。そこから類推できるのは、味覚が快楽ではなく、リスク回避のために存在しているのではないかということ。子どものころに苦手だった野菜の苦味が、大人になると美味しく感じるようになるのもその証。デトックス効果のある苦味成分は、本来それほど毒素のたまっていない小さい子どもには必要のないもの。だから美味しく感じないんです。「美味しさ」のベースには、こうした身体的な要素があるのではないでしょうか。

生江史伸氏(以下生江):まったくそのとおりですね。徳岡さんが今おっしゃったことと似たようなことをお話ししようと思っていたので、僕は少し違う角度から考えてみます。美味しさを、徳岡さんがおっしゃったような体に必要な栄養素をとるためのものと、ファインダイニングで求められるものに大別したとき、我々が追求するのはおおよそ後者でしょう。でも、その視点だけでは見落としてしまう部分もあるのではないかと。たとえば、割烹料理店の優しそうなご主人が、カウンター越しに手渡しで提供してくれた温かいお椀をいただけば、それだけで「あ、なんか美味しいな」と感じてしまいますよね。こうした料理人とお客との共感の上に成り立つ美味しさ、つまり人と人のつながりが生む美味しさが、今後さらに重要になってくるのではないかと考えています。

小山:本岡さんは最初の発言でサステナブルについて触れていましたが、美味しさとサステナブルの関係をどのように考えていますか?

徳岡:サステナブルを考えるときに重要なのは、バランスだと思います。環境保護などの特定の問題に偏るのではなく、経済効率などとのバランスが保たれてはじめて、持続可能なのではないかと思います。

生江:サステナビリティの根源にあるのは“思いやり”だと思うんです。僕はシェフとして料理で人を幸せにすることを願うのと同じくらい、自分が料理をすることで誰かに迷惑をかけちゃいけないなとも考えているつもりです。互いの立場を尊重し合うという環境があってはじめて「サステナビリティ」は成立する。もちろんその過程ではさまざまな不公平が生まれ、互いに妥協しなければならない場面が発生するはずです。その問題解決は、最終的に人間の“良心”にかかってくるわけです。人類は、この“良心”を活用することで生き残ってきたはず。ジャングルのような厳しい環境で、人類が生き残ってこれたのも、相互理解と助け合いの精神があったからこそ。サステナビリティの根底には、こうした人と人とのつながりがあるのではないかと考えています。

本岡:「自分が料理をすることで誰かに迷惑をかけないこと」とおっしゃいましたが、その「迷惑」とはどのようなものでしょうか?

生江:たとえば、僕が料理にチョコレートを使うとします。しかし、それが劣悪な環境のなかで誰かが貧困な生活を強いられながら生産されているものであるとしたら、僕がその製品を使うことは、そうしたシステムを支えてしまうことになる。我々が素材を選ぶときに知るべきことは、どういう方々がどのような環境で作物をつくってらっしゃるのか、ということ。もちろん、原価率などの効率性も素材選択の重要なポイントのひとつではありますが、ただその商品を選択することで不幸の連鎖に加担することになってはならないと考えています。それが、僕が言う「人に迷惑をかけない」ための努力です。

本岡:よくわかりました。ありがとうございます。

小山:冒頭の発言からすると、本岡さんは、ただ美味しいものを生み出すことに徹していた昔の料理人のような姿が正しいと思っているのでは?

本岡:美味しいものをひたすら追い求める先人たちの姿に憧れてこの世界に足を踏み入れたので、その気持ちを大事にしつつ、これからも常に「美味しさとは何か?」を考え続けたいと思います。

生江:最悪なのは、サステナビリティを振りかざしながら、美味しくない料理を提供すること。美味しくないものが、サステナブルであるはずがないんです。

糸井章太氏(以下糸井):「嵐山 吉兆」では、サステナビリティというようなことを謳うことはしませんが、いろんな取り組みをされてらっしゃいますよね?

徳岡:地方の生産者との関係を、自治体や企業などを巻き込みながら徐々に拡大、継続させる仕組みづくりも確かに大切です。ただ僕はあくまで料理人なので、最も注力すべきは「目の前のお客さまに、どんな料理で喜んでいただくか」を、スタッフとともに考えること。たとえば、うちでは2番目にお出しする碗を召し上がったお客様の反応を聞いて、そのあとの料理の味付けを考えます。美味しさというのは、お客さまを含めさまざまな人とともにつくりあげていくものですから。

糸井:お椀の反応で、お客さまの好みを探り、その情報を厨房で共有するということでしょうか?

徳岡:そうです。サービススタッフがお客さまに直接感想をお聞きして共有します。それをその後の料理に反映させていくわけです。このようにお客さまが喜んでもらえるために何をすべきかを考える一環として、フードロスや環境問題、地方活性化に貢献できることを考え、結果的にサステナビリティにつながるのが健全なあり方だと思うんです。

糸井:根のついたタマネギを手にして、この根っこの部分を捨てずに使うには、どうすべきか、ということを考えること。料理人としてできるのは、その積み重ねくらいしかないのではないかと。

徳岡:そうです。その積み重ねが、やがては自治体や企業を巻き込むなどして、より多くの人の喜びや、環境問題の解決に繋がっていくのです。しかし先ほども言ったように、まずは目の前のお客さまを喜ばせることが大前提。そこから生まれたものこそが持続可能なものであって、その積み重ねが結果的に、より多くの人を喜ばせることになる。先に大きな問題を考えるのではなく、まずは目の前のお客さまを喜ばせること。ますはそうした方向で考えてみるのが良いのではないでしょうか。

糸井:たしかにおっしゃるとおりかもしれません。聞いてみてよかったです!

料理人のあり方と可能性

糸井:人を喜ばせることができる料理人の活躍の場は、今後ますます増えていくのではないかと考えているのですが、お二人は今後の料理人の可能性について、どのようにお考えですか?

生江:僕の場合は、新たな可能性を模索しながら仕事をしてきたわけではありません。ただ、目前の課題に対して、自分のやり方を信じて懸命に取り込んできただけ。その積み重ねがあって、今の自分があるわけです。ありがたくも現在は、成功しているレストランのシェフ、あるいはRED U-35のようなコンペティションの審査員を務めさせていただいておりますが、このポジションを目指してやってきたわけではありません。今日が人生最後の日になるかもしれないという覚悟で、日々最善を尽くしてきた結果。ただ、積極的に地域貢献活動に取り組む諸外国の料理人たちの活動を見ていると、我々日本の料理人ができることはまだまだあるとは感じています。ただ、個の力で社会貢献に結びつく活動をすることは難しいと思うので、やはり目の前のお客さまをいかにしてもてなし、その幸せな気持ちでお帰りいただくかに力を注ぐことが、一番の近道だと考えています。料理が、その幸せの連鎖のきっかけになればいい。大きなヴィジョンをもつことも大切かもしれませんが、僕の場合は、目の前にある仕事に最大限のエネルギーを注ぐことを大事にしたいと思っています。

徳岡:食をどう捉えるかによって、料理人の可能性は無限大だと思います。食は人類の生存には欠かせないものですから。お二人は、これからどうしたいのでしょう?

糸井:レストランで料理を提供することはもちろんのこと、食育に関して自分にできることはないかと模索しているところです。僕がフランスでとくに感じたことは、食文化に対する意識の高さ。食事をすることの楽しさ、素晴らしさを、子どもたちにも伝えられる教育システムのようなものをつくり、そこに貢献できたらいいなと思っています。

徳岡:根源的な食の大切さを伝えることはとても大事です。ぜひ、トライしてほしいですね。ひとりでやるよりも、志を同じくする人とともに取り組んだほうが絶対にいい。そのために、RED U-35の参加者のみならず審査員も名を連ねる「CLUB RED」があるんです。ぜひ、いろんな提案をしていただき、ともに取り組んでいきましょう。

糸井:はい! ありがとうございます。

本岡:もう一つ、お二人に聞きたいことがあります。お二人の活動の、原動力とはなんでしょうか?

徳岡:僕は単純に自分の幸せのため。でもそれは幸せを独占することではなくて、たくさんの人と分かち合うことです。

生江:僕も徳岡さんと同じで、自分のためです。幸せは誰かに与えた分だけ、自分にも与えられるもの。それはこれまでの人生で学んだことでもあります。アメリカの心理学者アブラハム・マズローが唱えるマズローの欲求5段階説というものがあります。人間の欲求には生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階あり、人間は最終的に自己実現にむかって成長するというものです。最終レイヤーである自己実現の欲求が満たされると、コミュニティの発展に寄与したり、自分とは直接関わりのない人たちに対して愛情を注ぐなど、個を超越することができるんです。ただ残念ながら、自己の名声やレストランの評判を高めることに終始しがちな料理人に、この次元に到達できている人はほとんどいない。自分の幸せのために自己実現欲求のレベルに到達しようとする料理人を見つけるために、僕は実はRED U-35の審査員を務めているのです。そこが評価ポイントのひとつでもあります。

小山:本岡さんがシェフを務める「Restaurant Bio-s」を訪れたときに、彼はまずレストランのそばにある畑にニンジンを採りに行ったんですよ。ニンジンを手にして、ヤギに手を振っていた。あの光景を見たときに、彼はなんて幸せな料理人なんだろうと。そんな環境で活動してきた本岡さんは、都市部のレストランをどう思いますか?

本岡:僕のなかでも「Restaurant Bio-s」はレストランの理想形でした。食材を育て(1次産業)、加工して(2次産業)、お客さまに提供する(3次産業)スタイルを、オーナーの松木一浩さんは「1次、2次、3次をすべて合わせた6次産業」だとおっしゃっていました。でもそれって、昔の家庭では普通のことでしたよね。現在我々は、分業化のおかげで専門性の高いサービスを享受できているわけですが、昔ながらのスタイルで1次から3次までのすべてを担うことで見えてくるものもあります。「人参が昨日よりも大きくなったから、火の入れ方を変えよう」とか、変化する野山とそこで育まれる食材に囲まれた日々は、人間としても、料理人としてもとても幸せなことでした。

小山:本岡さんのように、地方での活躍にスポットが当たり、羨ましいと思える料理人が増えていけば、料理界はさらに変わっていくと思います。これからも応援しています。

本岡:はい。ありがとうございます。

小山:話は尽きませんが、そろそろ時間です。今日はお二人にとっては充実した時間ではなかったでしょうか。

糸井:はい! 僕はほとんど頷いてばかりでしたが(笑)

小山:2年前には審査員の前でとても緊張して話をしていた2人が、堂々と自分の考えを述べるまでに成長した姿を見るのは、審査員として嬉しいのではないですか?

徳岡:とても嬉しいですし、これからも頑張ってほしいと思います。だからこそ、多くの人びとの幸せに貢献できることを「CLUB RED」でともに考え、取り組んでいきましょう。

小山:では、短い時間でしたが、どうもありがとうございました!

全員:ありがとうございました!

*Author|RED U-35編集部(MOJI COMPANY)

特別座談会 第2部「RED U-35 攻略法」はこちら

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小山薫堂 放送作家(RED U-35総合プロデューサー)、德岡邦夫 京都 吉兆 総料理長(RED U-35 19/20審査員長)、生江史伸 L'Effervescence シェフ(RED U-35 19/20審査員)、糸井章太 Maison de Taka Ashiya 料理人(2018 グランプリ RED EGG)、本岡将 Restaurant Bio-s シェフ(2018 準グランプリ GOLD EGG)

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