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特別対談 料理とデジタル技術の融合の可能性

米澤 文雄(The Burn)×木村 岳洋(株式会社デジタルフォルン)

INTERVIEW 2021.10.01

RED U-35 2021 ONLINE 特別対談「料理人と企業が手を組み、食の未来のためにできること」

料理とデジタル技術の融合の可能性
・米澤 文雄(The Burn エグゼクティブ・シェフ)
・木村 岳洋(株式会社デジタルフォルン取締役 上席執行役員 副社長 事業部門管掌)


RED U-35 2015でゴールドエッグを受賞したThe Burnのエグゼクティブ・シェフ 米澤文雄氏は、日頃よりSNSを駆使しての情報発信やオンラインでの料理教室の実施など、食の新しい可能性にチャレンジすることで人気を博す料理人でもある。そんな米澤氏だが、デジタル技術を完璧に使いこなせているかというと、そうではないと語る。米澤シェフが、デジタル技術を活用してより良い社会の実現を目指す株式会社デジタルフォルン(株式会社オセアグループのグループ企業)の副社長 木村岳洋氏に、デジタル技術の可能性を聞いた。

あらゆるサービスが細分化する時代

木村 オセアグループは、ITソリューションを提供する「デジタルフォルン」、デジタルマーケティングを提供する「サイトパブリス」などのIT事業のほか、デジタルテクノロジーを駆使した地域エアコミューター事業など、デジタルをべースに幅広い事業を展開しています。グローバルでは、アンドロイドトータルシステムプロバイダー「サンダーソフト」を2008年に中国で創業。2015年には日本企業が出資したIT企業の事例としては2番目となる上場(深圳市場創業板)を果たしました。中国ではほかに、介護事業も展開しています。私は「デジタルフォルン」で、デジタルテクノロジーを活用して、お客様のビジネス拡大やビジネスモデルの創出に取り組んでおりますが、食の業界でも貢献できることがあるのではないかと感じています。そんな想いから、当グループは、RED U-35 2021 ONLINEのパートナーとして参加させていただくことにしました。

米澤 日照時間や気温、土壌の水分量を計測しながら、水やりの量やタイミングを管理するトマト農家さんなど、デジタル技術を導入する生産者が増えており、食とデジタル技術の融合が進んでいることを実感する毎日です。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、インターネットで食品を購入し、自宅で調理する方も増えていますよね。

木村 実際、AIを活用して、水、光量、温度、湿度などをコントロールし、野菜の安定生産を実現する企業も登場しています。また、ネットで注文し、運ばれてきた食材を家で消費するというケースは今後も確実に増えていくでしょう。この先、我々の業界を含むあらゆる分野で、顧客のニーズはより細分化され、マーケットはニッチなものと推測しています。飲食業界でいえば、料理のジャンルやサービス形態において、さらに多彩なスタイルが現れるのではないでしょうか。

レストランの予約システムに見るデジタル技術の課題

米澤 レストランの予約システムは、その最たるもの。当店では、5~6社の予約サイトからそれぞれ予約情報が入ります。かつては、各データを1枚の表にまとめるという非効率なことをしていました。最近、それらの予約情報をひとつにまとめてくれるサービスが登場しましたが、正直、まだまだ不十分な点があり、使い勝手がいいとは言い切れません。予約を締め切るタイミングも難しくて、たとえば17時半オープンの場合、15時でネットの当日予約を締め切らざるを得ないんです。というのも、オープン時間ギリギリまで受け付けてしまうと、開店前のミーティングで当日の予約をスタッフ全員が把握できなくなり、結果、現場が混乱してしまうからなんです。

木村 予約システムの増加は今後も続くと思われますので、それらを一元的に把握する施策がほしいですよね。開店直前に予約を把握できないという問題の解決策として、たとえば3分おきに各予約サイトの最新状況をRPA(Robotic Process Automation)などで把握し、それを店舗に集約させ、メールなどでお伝えする、という自動化は可能でしょう。今お話いただいたような、現場で発生している課題をご相談いただければ、我々もきっとお役に立てるはずです。

コロナ禍以降に増加している食の分野におけるデジタル化

米澤 コロナ禍以降、食の分野ではどのようなお仕事が増えていますか?

木村 増えているのは、主に3つの領域です。
1つ目は、オンライン販売に関する領域。たとえば、コロナ禍以前は飲料の卸業とレストランをメインの事業とされていた企業様からご相談をいただき、BtoC向けのオンライン販売事業と、その関連サイトを短期間で立上げました。

2つ目は、店舗での販売見通しに応じて、サプライヤーへの発注・在庫適正化の流れをデジタル化するという領域です。こちらは、変化する販売見通しにスピーディに対応したいという食品を扱う小売業のお客様からのリクエストにお応えしたものです。

3つ目は、自動化。転記などの単純定型業務を自動化したいという、コロナ禍以前よりご要望の多い領域です。たとえば、先ほどの複数の予約サイトからの情報を取得して、店舗に連携させるというものもこれに含まれます。従業員が店舗やオフィスで作業をせずとも、自動的に必要な情報が必要な時間に入手できるということが、今後のスタンダードになっていくかもしれません。

デジタル化し得ない料理の側面

木村 米澤さんは、オンラインでの料理教室に積極的に出演されていらっしゃいます。リモートで料理を教える難しさや限界はどんなところにあるとお考えでしょうか?

米澤 私は画面越しでも人に教えるのが得意なほうだと思います。ただ、リモートで教えやすいものと、そうでないものがあるのも事実です。たとえば、豚肉何gを、塩何gで、何分茹でて、というように、レシピのすべてを数値化できる料理は、画面越しでも伝えやすいですし、失敗も少ないんです。一方、教えにくいのは、そば生地のように、どれくらいの硬さがちょうどいいのかなど、さわらなければ伝わりにくいものですね。どう工夫しても、これらの情報を画面越しに伝えるのには限界があるんです。ですから、すべての工程を可能なかぎり言語化できるレシピづくりを心がけています。

木村 リモート料理教室におけるデジタル技術については、まだまだ進歩の余地があると思っています。現在、自分でセットしたカメラを前に調理される方が多いですよね。料理人がカメラワークにも気を配らなければならないそんな現状に対し、我々は彼らが調理に集中していただける技術を構築したいと考えています。たとえば、料理人が装着した軽量のカメラやセンサー付きの手袋から、その目線や手の動きを抽出しデータ化して、視聴者のヘッドセット(マイク付きヘッドフォンなどの音響機器)に転送することで、プロの動きが手にとるように共有できるテクノロジーが生まれるのではないかと思っています。

米澤 そういう技術なら、きっと子どもたちもすごく興味を示してくれるでしょう。コロナ禍にあふれた、レストランの苦境を伝える報道の影響で、料理人になりたい子どもが減ってしまうのではないかと思うとショックで……。実際に苦労も少なくないのですが、それでも料理人の仕事の醍醐味は金銭的な利益の追及ではなく、自分が手がけたおいしい料理をお客さまに喜んでもらえること。それこそが最高の幸せなのです。

木村 私の立場と矛盾するかもしれませんが、料理にはデジタル化してほしくない部分がたしかにあります。先日、家族で鉄板料理屋に行きました。ところが、デジタル画面でオーダーした料理が、奥の厨房から運ばれてきて、それを仕切られたテーブルでいただくというシステムに変わってしまっていて……。鉄板料理の醍醐味のひとつである、目の前で披露される優れた技とともに美味しい料理を満喫するというエンターテイメント性を味わえませんでした。子どもたちの楽しい思い出にもなったはずなのに……。感染症対策なので仕方のない部分もありますが、コロナ禍以前は目の前の鉄板で料理をしてくれる店だったので、残念な想いをしました。

米澤 それでは、もはや鉄板料理ではないですものね。おっしゃるように、料理の一番大事な部分はアナログでなければなりません。つまり、料理に込めた想いや、サービスを通したお客さまとのコミュニケーションをデジタルに変換することは不可能です。このように核となる部分がアナログなので、レストランにどんなデジタルサービスがあったらうれしいですかと、よく聞かれるのですが、うまく答えられないんです。おそらく木村さんのようなデジタル技術のプロフェッショナルにレストランを1日体験していただくのがベストだと思います。朝の仕込みから、ランチ営業を経て、まかないの時間、そして休憩をはさみ、ディナー営業をして、最後に食材の発注かけて……。1日の営業が終わったとき、「これはものすごく効率悪いな!」と思える部分が見えてくるのではないでしょうか(笑)。

木村 実際に顧客企業様の業務を詳しく教えていただくことで、非効率な部分に気づくことが多いんです。我々はユーザー目線をひじょうに重視しておりますので、ぜひ体験させてください。

米澤 我々料理人が当たり前にやっている仕事のなかには、あるいは「こんなシステムを導入することで効率化できるかも」という部分もあるはずです。ですから、ぜひ体験しにきてください。本日はありがとうございました。

株式会社デジタルフォルン 取締役 上席執行役員 副社長 事業部門管掌
木村 岳洋
株式会社オセアグループのグループ企業であるデジタルフォルンは、業務/ITコンサルティング、Saasツールを活用したDX支援、システム導入/クラウド化支援・データ分析など、ITソリューションを提供する創業60周年の企業。
https://www.vorn.co.jp

The Burn
東京都港区北青山1-2-3 青山ビルヂングB1F
定休日:月、祝
http://salt-group.jp/shop/theburn/
Instagram:@theburn_aoyama

※本記事は、新型コロナウイルス感染拡大防止の対策を講じた上で取材を行いました。撮影時のみマスクを外して撮影を実施しています。

■ RED U-35 2021 ONLINE 特別対談「料理人と企業が手を組み、食の未来のためにできること」

〈第1部〉特別対談 料理とデジタル技術の融合の可能性
米澤 文雄(The Burn)×木村 岳洋(株式会社デジタルフォルン)

〈第2部〉特別対談 日本橋の「歴史」と「食」が融合して生まれる革新
野田 達也(nôl)×柿野 陽(三井不動産株式会社)


〈第3部〉特別対談 人と人とのネットワークで広がる料理人の世界
井上 和豊(szechwan restaurant 陳)×岡﨑 正明(株式会社ジェーシービー)


〈第4部〉特別対談 これまでも、これからも、変わらぬ支え合いを大切に
盛山 貴行(粲 s.l.m)×大谷 和人(ヤマサ醤油株式会社)

プロフィール

米澤 文雄(The Burn エグゼクティブ・シェフ)

1980年、東京都生まれ。高校卒業後、恵比寿イタリアンレストランで4年間修業。2002年に単身でNYへ渡り、三ツ星レストラン「Jean-George」本店で日本人初のスー・シェフに抜擢。2018年に「The Burn」料理長に就任。2019年に自身初となる「ヴィーガン・レシピ」本を出版。コロナ危機の最前線で闘う医療従事者のため、トップシェフ達が料理を届けるプロジェクト「Smile Food Project」にも参加。2015年開催のRED U-35 2015にてゴールドエッグ受賞。

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