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山形県東根市×CLUB REDシェフ 産地ツアー「産地視察編」

レポート 2026.10.28

 山形県の中央部に位置する東根市。さくらんぼ「佐藤錦」発祥の地として知られ、“果樹王国”と称されるほどに四季を通じて多種多様な果物が楽しめます。また、それだけでなく、豊かな水や農産物を背景に、さまざまな食の営みが根付いてきました。古くから受け継がれてきた麩、日本酒、きのこ、山形牛、川魚、わさび、そして果物。そんな東根の食の魅力と可能性を料理人の視点から探るため、日本最大級の若手料理人コンペティション「RED U-35」において優秀な成績を収めた「CLUB RED」のシェフ3名が東根市を訪れ、2日間の産地ツアーを実施しました。
 ツアーでは、生産者や地域事業者を訪ね、食材の特徴や栽培・製造へのこだわりについて直接話を聞いたほか、実際に東根の食を味わい、作り手との交流を重ねました。そこで得た気づきやアイデアを、東根産食材の新たな活用方法や付加価値の創出につなげていきます。
 さらに今回のツアーを起点に目指すのが、東根産食材を活用した「東根特産品コース」の開発。今後同市における、ふるさと納税の体験型返礼品として展開を予定しています。

1泊2日の産地ツアー内容につきまして、下記3テーマに分けてご紹介します。

産地視察編 食事編 交流・ディスカッション編

多数の応募者の中から、異なるジャンルで活躍する3名のシェフが選ばれました。

シェフプロフィール


高木 祐輔(左)
1994年東京都生まれ
専門:中国料理
所属:nope(東京都)producer CHEF
枠に囚われずスパイスやワインとの組み合わせを追求。通常の中国料理では用いられないような食材にも積極的に向き合い、新たな一皿へと昇華させることを得意とする。

加藤 順一(中央)
1982年静岡県生まれ
専門:フランス料理
所属:L'ARGENT(東京都)シェフ
フランス料理をベースに、北欧で培った独自の知見を取り入れながら、日本の食材を生かした料理を手がける。

藤田 強介(右)
1990年山形県生まれ
専門:イノベーティブ(フレンチ・イタリアン)
所属:altea(宮城県)統括責任者/料理長 東根市出身。
ジャンルレスで自由な発想を武器に国内外で料理人として経験を重ねる。「食を通して出身地の東根に何か還元すること」を一つの夢として今回のツアーに参加。

産地視察編

産地視察01「文四郎麩」

 最初に訪れたのは、東根市六田地区で江戸時代の文久年間から麩づくりを続ける「文四郎麩」。古くから麩づくりが盛んな六田地区では、「麩街道」と呼ばれる道沿いに、現在も4軒の麩屋が軒を連ねています。
 江戸時代、東根周辺では紅花栽培が盛んに行われ、その裏作として小麦が栽培されていました。さらに六田地区は、白水川や乱川、野川がつくる扇状地に位置し、豊かな水にも恵まれた土地。麩づくりに欠かせない「小麦」と「水」が揃っていたことから、麩づくりが地域に根付いていったといわれています。
 代表取締役の齊藤幸信さん曰く、六田の麩の特徴は、一般的な麩に比べて小麦粉の配合が少なく、グルテンを多く使うこと。ふっくらときめ細かく、煮崩れしにくい一方、“つるり”とした舌触りと弾力のある“しこっ”とした食感が生まれるといいます。

 麩の原料となるグルテンは、小麦粉に水を加えて練り、何度も水で洗ってでんぷんを取り除くことで作られます。加藤シェフから、「なんで小麦粉を作った後に洗おうと思ったんですか?」という質問が。齊藤さんから「小麦粉には、たんぱく質とでんぷんが含まれています。そのまま焼けばパンになりますが、でんぷんを取り除き、たんぱく質を取り出して焼くことで、保存のきく麩になります」と教えていただきました。冷蔵庫のない時代を生きるための知恵が、その製法の背景にありました。
 また、洗い流したでんぷんも無駄にしません。かつてはでんぷんのりとして活用され、現在はくず餅の原料にも使われているとのこと。ひとつの食材を無駄なく使い切る知恵にも、長く受け継がれてきた麩文化の一端が垣間見えました。

産地視察02「小山田きのこ園」

 「月山はなたけ」やタモギタケ、えのきなどを栽培する小山田きのこ園を訪れました。シェフたちは実際の栽培施設に入り、きのこが育つ環境や培地づくりについて話を聞きました。
 小山田きのこ園が大切にしているのが、きのこの土台となる培地の素材です。主におがくずや米ぬかを使い、素材の質を吟味しながら独自に配合。生産者の小山田寛治さんによると、使う素材によってきのこの香りや食感にも違いが生まれるといいます。

 培地を詰めてから収穫までは、えのきなどでおよそ2か月。原料を混ぜ、殺菌、培養といくつもの工程を経ながら、温度や湿度を細かく管理して育てていきます。特に外気温の影響を受けやすく、わずかな環境の違いが生育の揃い方や収穫量にも影響する、繊細な仕事です。

 栽培されているきのこにも、それぞれ個性があります。なかでもブラウンえのきは、一般的なえのきよりも傘を大きく育てることで、旨味も増すのだそう。鮮やかな黄色が目を引くタモギタケも、小山田きのこ園を代表するきのこのひとつです。「どちらも東京ではなかなか見かけない」と、シェフたちも珍しいきのこに興味津々。
 見学後には、自慢のきのこを使ったバター醤油炒めに加え、山形の秋の風物詩「芋煮」のサプライズも。シンプルな料理だからこそ際立つ香りや歯ごたえを確かめながら、シェフたちはそれぞれのきのこをじっくりと味わいました。

産地視察03「六歌仙」

 続いて訪れたのは、東根市唯一の酒蔵「六歌仙」。1972年、北村山地域の5つの酒蔵が合併して誕生した、酒蔵としては比較的若い歴史を持つ蔵元です。伝統的な酒造りの技を受け継ぎながら、近代的な設備による品質管理を取り入れ、安定した酒造りに取り組んでいます。代表取締役社長の松岡茂和さんは、「日本酒は米と水の味を届ける、料理の名脇役でありたい」と話します。そんな酒造りへの思いを聞きながら、シェフたちは日本酒が生まれる現場を巡りました。

 シェフたちが興味を示したのは、同じ日本酒でも仕込み方や発酵のさせ方によって、味わいが大きく変化すること。発酵させる時間や温度によって甘口・辛口の方向性が変わり、米の旨味を残しながらキレのある味わいに仕上げるなど、それぞれの酒に合わせた設計が行われています。

 見学後は、味わいの異なる日本酒を飲み比べ。六歌仙は「お酒のデパート」と称されるほどに幅広いアイテムを生み出しています。なかでも超辛口の酒は、すっきりとシャープな味わいが特徴で、和食はもちろん、味が濃い目な中国料理などと合わせるのがおすすめだそう。
 さらに、東根名産のさくらんぼをモチーフにしたリキュールも試飲。山形県産米を中心とした日本酒だけでなく地元の農産物を生かした商品づくりにも取り組んでいます。
 伝統を受け継ぎながら、設備や技術、新たな商品づくりも柔軟に取り入れる六歌仙。料理に寄り添う「名脇役」としての日本酒のあり方に、シェフたちも理解を深めました。

産地視察04「よってけポポラ 買い付け」

 2日目は、ファーマーズマーケット「よってけポポラ」での買い付けからスタート。店内には朝採れの野菜や果物など、農産物が所狭しと並びます。この時期に旬を迎える桃を求め、開店前から行列ができるほどの賑わいです。

 「よってけポポラ」は、JAさくらんぼひがしねが運営するファーマーズマーケット。生産者718名の会員を有し、「新鮮・安全・安心」をモットーに、毎日新鮮な農産物が運び込まれます。全生産者が薬剤散布履歴を記録した「工程管理表」を提出し、安全性を確認。市場流通より1〜2日早く店頭に並ぶ、抜群の鮮度も魅力です。 ずらりと並ぶ農産物を前に、加藤シェフは「ここまで品揃えが豊富な施設は初めて」と目を丸くし、高木シェフも「こんな値段でいいんですか。東京だったら倍以上します」と驚きを隠せない様子。一方、東根市出身の藤田シェフにとっては馴染みの場所。日頃から足を運び、食材を仕入れることもあるそうです。

 店内を隅々まで見て回る加藤シェフの目に留まったのは、袋いっぱいに詰められた殻付きの胡桃。市場では殻付きの状態で流通することが珍しいそうで、売り場のすみずみまで足を止め、じっくりと品定めしていました。
 一方、高木シェフが目を向けていたのが、前日の事業者交流会で言葉を交わした生産者の農産物。作り手の顔を知ったうえで、実際にその食材を手に取る。産地を訪れ、生産者と料理人が直接つながる今回のツアーならではの買い付けとなりました。

産地視察05「土田マッシュファーム」

 ハウスの中にずらりと並ぶ菌床から、肉厚なキクラゲが顔をのぞかせます。ここ「土田マッシュファーム」で栽培しているのは、生の黒キクラゲと、珍しい白キクラゲ。国産のおが粉を使った菌床を並べ、ミストで湿度を調整しながら育てています。芽が出始めてから収穫できる大きさになるまでには2〜3週間ほど。5月から9月下旬頃まで、ひとつの菌床から繰り返し収穫していきます。
 一般に出荷するキクラゲは、消費者が手に取りやすい大きさを見極めて収穫します。しかし、そのまま育てれば手のひらほどの大きさになるものも。大きくなっても味や食感はほとんど変わらないと聞いたシェフたちは、むしろそのサイズに興味を示しました。大きなキクラゲを前に、「この大きさだったらステーキとして使いたい」といった声も上がりました。
 さらに話題になったのが、珍しい「白キクラゲ」です。黒キクラゲから生まれた白い個体を培養して生産していますが、時には茶色が混じるものもあり、商品として販売する際には“真っ白”であることが求められるそう。一方、シェフたちからは、料理に使うのであれば多少色が入っていても気にならないという意見が出ました。一般消費者にはまだ食べ方が十分に知られておらず、黒キクラゲに比べて需要の少ない白キクラゲ。その珍しさや見た目からシェフたちも好感触です。

 見学後には、茹でた生キクラゲを試食しました。からし醤油やごま油と塩というシンプルな味付けで、まずは素材そのものの味と食感を確かめます。キクラゲをよく料理に使用するという高木シェフは「中華だと、これをミキサーとかにかけて、ゼリー状にするんですよ。シロップでゼリーと一緒に食べたり」と意外な調理法を紹介。味そのものに強い主張がないからこそ、甘味にも塩味にも合わせられる食材として、パスタや肉詰めなど次々と料理のアイデアが生まれていきました。小売では扱いにくい大きさや色も、新たな魅力になる。規格にとらわれない料理人ならではの視点で、キクラゲの可能性がぐんと広がりました。

産地視察06「田村食品」

 続いてシェフたちが訪れたのは、山形牛をはじめとする黒毛和牛の生産・加工・販売を手がける田村畜産。グループ全体で約4,500頭を飼育し、年間約2,000頭を出荷しています。一般的に繁殖と肥育が分業される和牛生産において、田村畜産では北海道と山形県内に繁殖農場を持ち、東根市の直営農場を中心に肥育。加工から販売まで一貫した体制を築いています。
 まず見学したのは、枝肉を部位ごとに切り分けていく加工現場。枝肉を肩、バラ、ロース、モモの大きく4つに分け、ナイフ一本で骨を抜き、余分な脂を削いでいきます。和牛は無理な力をかけると肉が割れてしまうため、肉を傷つけないよう細かくナイフを入れていく、まさに職人技です。

 見学後は、山形牛を料理にどう生かすかについて意見交換を行いました。話題になったのが、和牛の価値を象徴する「サシ」でした。田村畜産では五等級の発生率が約8割に上る一方、加藤シェフからは、フランス料理のコースでは魚料理まで食べた後に脂の多いA5ランクの牛肉が登場すると“トゥーマッチ”になることもあるという料理人ならではの意見が。赤身肉であればソースやバターなどで脂を補えますが、もともと脂を豊富に含む和牛では、合わせるものをさっぱりさせるなど、異なるアプローチが必要になるといいます。ほかにも内臓や希少部位など、それぞれのシェフが独自の観点から牛肉の可能性を探ります。しかし今回、コース料理の食材として用意されるのは、山形牛A5ランクのサーロイン。豊かなサシを持つ山形牛を、どう料理に落とし込むのか。シェフたちは早くも、その一皿に思いを巡らせていました。

産地視察07「平澤養鱒場」

 すぐそばに名水百選の小見川が流れる東根市大富地区で、川魚の養殖を営む平澤養鱒場。豊かに湧き出る清らかな水で、ニジマスやイワナが育っています。平澤養鱒場の自慢は、さくらんぼワインの搾りかすを加工した独自の餌で育てたニジマス「さくらんぼサーモン」。採卵から養殖、調理加工まで、薬品や食品添加物などを使用せず、すべての生産工程を平澤さん自らが担っています。

 川魚は比較的鮮度が落ちやすく、臭みがあるというイメージを持たれることも。そこで平澤養鱒場では、「プロトン凍結」という急速冷凍技術を導入。味はもちろん、活〆ならではの食感も保ち、遠方の飲食店でも扱いやすいように加工しているそうです。
 シェフたちは、さくらんぼサーモンの刺身や炭火焼き、筋子を次々と試食。高木シェフは「コリっとした食感は意外でした。サクラマスは使ったことがあるんですが、ちょっとまた違う印象ですね」と率直な感想を述べます。

 試食を重ねるうちに、話題は具体的な仕入れ方法へ。冷蔵での出荷は可能なのか、フィレなのか一尾なのかと、料理人ならではの質問が飛び交います。藤田シェフは「旬の野菜などと合わせたい時は、丸(※一尾の状態)でいただいた方がやりやすいかなと思います」とコメント。皮目を焼いたレア調理やシンプルな刺身など、さくらんぼサーモンを生かした一皿へと、シェフたちの発想がどんどん膨らんでいきました。

産地視察08「大富農産」

 大富地区の豊かな地下水を生かし、本わさびを栽培しているのが「大富農産」です。約500㎡のハウス12棟による栽培を行い、約1年半かけて本わさびを生育しています。水温が年間を通して約14度と安定しているため、夏は涼しく、冬は凍結を防ぐことができ、加温設備を使わずに通年出荷を実現。また、栽培期間中は農薬や肥料を使用せず、水だけで育てていることも特徴のひとつです。
 シェフたちはハウスを視察。一面に本わさびが広がる光景を目の当たりにし、圧倒された様子でした。生産者の平野博幸さん曰く、本わさびは刺激物ではなく"香味野菜"だということ。試食では実際に鮫皮おろしで収穫したばかりの本わさびをすりおろし、その香りと辛味を確かめました。すりたての本わさびは、鼻に抜ける爽やかな香りと、後に引かない辛味が特徴。藤田シェフもすりおろした本わさびを口にして「辛みがすぐ抜けた、全然違いますね」と驚いていました。さらに、花わさびの醤油漬けや、地元の酒粕を使った本わさび漬けなどの加工品も試食しました。

 また、本わさびの栽培に使う水を生かして育つクレソンにも注目が集まりました。市場で見るような小売用の少量パックのイメージを持っていたシェフたちは、たくましく生い茂るその量に驚きを隠せない様子。料理に使いやすいまとまった量での仕入れに興味津々でした。高木シェフは、「中華だと結構大きいものを炒め物にして使うんですよ」と調理法を紹介。本わさびの副産物であるクレソンとの思いがけない出会いも印象に残ったようです。

産地視察09「つかさ果樹園」

 園地に足を踏み入れると、枝いっぱいに実った桃がシェフたちを迎えます。最後の視察先は、大富地区の「つかさ果樹園」。昼夜の寒暖差が大きく、清らかな水と豊かな土壌に恵まれたこの土地で、桃やりんごなどの果樹を栽培しています。つかさ果樹園のりんごは過去に3度の農林水産大臣賞を受賞、生産者の寒河江 司さんは、さまざまな栽培法を柔軟に取り入れ、新規就農者の指導役も務めるなど、若手農家のリーダー的存在です。
 シェフたちの目を引いたのは、大きく枝を広げた桃の木。木と木の間隔を十分に取り、なるべく自然に近い形で育てることで、収穫量と品質の安定を図っているそうです。桃の重みや雪の影響に耐えられるよう、支柱にも工夫が施されています。

 続いて、りんご畑へ。ここでは樹上で完熟させる栽培に加え、さくらんぼのハウスを活用した新しい栽培方法にも挑戦しています。加藤シェフは収穫前のりんごに興味を示しました。「甘みよりも酸味があったほうが個性になって調理しがいがある。料理人は青りんごを探してますよ」とシェフならではの目線で情報を共有しました。未熟なりんごも、料理人にとっては魅力的な食材になり得るということは、生産者の寒河江さんも目から鱗のようでした。

 見学後には、収穫した桃を試食。ここで教わったのは、一つの桃でも食べる場所によって甘さが異なるということ。「縫合線と呼ばれる筋の反対側が、特に糖度が高くなりやすい」と寒河江さんが農家ならではの豆知識を伝授します。さらに、冷やした桃と常温の桃を食べ比べながら、温度による味わいの違いも確かめました。
 栽培方法や見た目、熟度、食べる温度によって変わる果物の魅力。そこに料理人ならではの視点が加わり、果樹王国東根が誇る果物の新たな生かし方を考える時間となりました。

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