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日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 北陸 イベントレポート#1

レポート 2022.03.11

2022年1月21日(土)22日(日)の2日間にわたって、石川県金沢市の「兼六園茶屋 見城亭」にて『日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 北陸』のダイニングイベントが開催された。

『日本博×CLUB RED』プロジェクトでは、地域の食文化を伝える「郷土料理」の魅力を次世代に、さらには海外の人たちに再発見してもらうことを目的としている。今回は2020年度の東北(感染対策により一部中止)に続いての開催となった。
イベントでは料理を味わうだけでなく文化と認識してもらえるよう、工芸品や歴史的建造物などと同じ空間で、日本の食をひとつの「美」として提供する。
『日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 北陸』のテーマは、石川、富山、福井の北陸三県の食だ。これらは「発酵」という共通項を持ちながら、それぞれの土地に根ざした伝統と文化に応じた個性がある。
北陸にゆかりのあるCLUB REDの若手料理人4名は、1年間の「北陸Labo」で各地域の食と文化・風土を学び体験してきた。その知見を活かし、能登地方に古来伝わる農村行事「あえのこと」にインスピレーションを得て、新世代の郷土料理を創り上げ、この日のイベントでコース料理として提供した。

※CLUB REDは、歴代のRED U-35コンペティションにおいて優秀な成績をおさめた若手料理人と歴代の審査員が集うコミュニティであり、食のクリエイティブ・ラボ。

[参加料理人]
※左から順に
川嶋 (2018 GOLD EGG 日本料理)
1984年、石川県生まれ。「一本杉川嶋」(石川県七尾市)オーナーシェフ。
短大を卒業後、調理師専門学校に入学。卒業後、大阪と京都の日本料理店で腕を磨き、料理長を歴任。

砂山 利治 (2017 BRONZE EGG フランス料理)
1987年、ロンドン生まれ埼玉県育ち。「レ・トネルぶどうの木」(石川県金沢市)シェフ*2022年2月からフリーランス。
都内のレストラン勤務後2010年渡欧。2015年からスーシェフ、帰国までの数か月は「La grenouillère」に勤務。

濱多 雄太 (2018 BRONZE EGG 日本料理)
1984年、富山県出身。「浜多屋 魚津駅前店 hamadaya LABO」(富山)料理長
名誉唎酒師の勲章を日本最年少で受賞。2022年秋新店舗開業準備中。

平田 明珠 (2017 SILVER EGG イタリア料理)
1986年、東京都生まれ。都内イタリア料理店で修業後2016年石川県七尾市へ移住。
宿泊施設を兼ね備えたオーベルジュレストラン「villa della pace」(石川県七尾市)オーナーシェフ。

雪景色の金沢・兼六園で行われた2日間だけの特別なダイニング

金沢では初日の昼過ぎから雪が降りはじめ、街はたちまち白銀の世界に変わった。会場である「兼六園茶屋見城亭」の窓の外では雪化粧をした金沢城が威容を誇り、北陸の冬の風物詩である雪吊りには雪が降り積もっていた。見城亭は、2019年に世界的建築家・隈研吾氏によりリニューアルされた。店内は伝統と先端技術が融合するモダンな意匠の空間である。

店内一階は、食事前に今回のテーマとなった北陸文化を‘見て’体験できるスペースとなっていた。「あえのこと」の料理模型や、漆器、ガラス、金沢箔といった工芸品が展示され、北陸Laboの活動をまとめた映像が流れていた。

ゲストたちが会場を訪れ、最初に案内されたのはウェルカムメニューが用意された一階カウンターだ。

カウンター上には輪島の伝統ある塗師屋、大﨑漆器店の直径1メートルを超える巨大な漆皿に美しくアミューズが並び、中央に活けられた白椿が季節感を添えている。砂山シェフ、濱多シェフからアミューズを受け取った人たちは写真を撮り、料理とペアリングの飲み物を味わい、展示を眺めて開会までのひとときを過ごしていた。

北陸の文化を語る「あえのこと」トークショー

開会の宣言後、「あえのこと」についてのトークショーが行われた。1日目は、金沢を中心に年間約600軒のレストランを食べ歩くフードアナリストで外食文化研究家の長坂紅翠香(ながさかあすか)氏。2日目は編集者から輪島塗の塗師に転身した輪島在住の赤木明登(あかぎあきと)氏が、「あえのこと」について語った。

 

[トークショー:「あえのこと」について](概要)

今回のコース料理は、能登輪島食の大使でもある長坂氏の案内でシェフたちが奥能登地域の「あえのこと」を体験したことから生まれた。

「あえのこと」は、田の神様に祈り、感謝する奥能登の代表的な民俗行事であり、毎年12月5日と2月9日の2回行われる。あえのことの「あえ」とはもてなし、「こと」は儀礼、祭事を意味する。

農家の主人は、田圃で神様を迎え、すぐそばに神様の姿があるかのように声を出して自宅へ案内する。これは、田の神様の目が不自由ゆえとされる。そして、田の神様への接待としてご馳走を振る舞う。

田の神様は夫婦神であり、「あえのこと」の料理はすべて2膳ずつ用意される。床の間には、それぞれの御膳に二股大根と栗箸を置いて祭壇が作られる。栗箸は1尺2寸(約36センチ)あり、12ヶ月を意味する。栗の木は実が採れるということで、豊作になるようにという願いが込められている。

料理にもそれぞれ意味がある。赤飯は蒸すことから虫を連想させるため縁起が悪いとされ、白飯もしくはご飯に茹でた小豆を混ぜたものを盛る。汁は「粘り強く作業する」ために納豆汁。煮しめの定番である焼き豆腐は「田が焼ける」として敬遠される。尾頭付きにはメバル。「芽が張る」の意味を込め、これも焼かずに生で供する。

お神酒は、田の神様が甘いものが大好きということで、甘酒を用意する。また、おはぎもたくさん供える。

そうして神様とともに年を越し、2月9日になると、再びご馳走を用意して神様を田圃へ送り出す。
現在は農業技術が発達し、さまざまな食材が手に入る。しかし昔は、お米が収穫できないと命に関わる事態になったことから、祈りを込めて「あえのこと」の食事を用意していた。シェフたちはこの「あえのこと」にインスパイアされて今日のコースを用意しているので、こうしたことを思い浮かべながら食べていただけると幸いだ。

いよいよメインイベント、北陸のコース料理を味わう時間

ダイニングイベントのメイン会場にてゲストたちが着席すると、いよいよ食事の時間が始まった。テーブルの上にセットされた箸は、この日のために大﨑漆器店と箔一で誂えたオリジナルで、ゲストのための記念品でもある。

料理の前触れに、ソムリエがペアリングの飲み物を提供して回る。

そして一皿目、九谷焼作家の森岡希世子氏の白い皿に盛られた八寸がテーブルに配られた。北陸の冬景色を模して盛り付けられた8品は、能登に始まり、皿の上でぐるりと石川県を一周できるという趣向だ。4人の料理を一皿にのせた、イベントのオープニングにふさわしいものだった。

ゲストたちは料理の説明を聞くあいだじっくりと目で味わい、おもむろに箸を取って食べ始める。一品一品じっくり味わう方、メニューと突き合わせて吟味する方、小声で感想を話し合う方々。

そんななか、客席前の壇上に用意されたテーブルがライトに照らし出され、川嶋シェフがお椀の用意を始める。季節に合わせた梅の花の漆椀に具が入り、熱い汁が注がれていく。香ばしい出汁の香りがフロア中に満ちて期待感が高まるなか、次々と椀が運ばれる。予定では甘鯛のところ、仕入れの事情からクエに代わったが、それでも質の高い食材が手に入るのは北陸の食が豊かであることの証だ。

3皿目、『鰤大根』に使う藁焼きの鰤を川嶋シェフがプレゼンテーション。ゲストたちは写真や動画に収めようと席を立ち、会場内がひとしきりざわめきに包まれた。

4皿目の蒸焼き物が運ばれる頃、気がつけば窓の外はすっかり暮れ落ち、金沢城がライトアップされて浮かび上がっていた。コースが進むうちに隣り合った人同士も打ち解けて、会場内は和やかな雰囲気に包まれていった。

平田シェフの5皿目は、能登の文化とイタリア料理の融合に頭を悩ませた一品。シェフがこだわった香り高い原木椎茸と鰆の味わいにゲストは満足げだった。

そして6皿目、砂山シェフの『熊鍋』も試行錯誤の末にかたちが定まったものだ。熱々のスープを赤木氏の器に注ぐというスタイルで、洗練されたジビエ料理に生まれ変わった料理に目をみはるゲストも見られた。

7皿目、川嶋シェフと濱多シェフが炊きたてご飯の釜を持って厨房から出てきた。ひとつひとつのテーブルで釜の蓋を開けて見せる度に、盛大に湯気が上がる。客席を一周した二人は壇上へ。テーブルの上には蟹のほぐし身でできた高さ20センチ以上の「カニタワー」が用意され、どよめきが広がる。「ご飯よりカニが多い」「カニでご飯が見えない!」。

客前で豪快にご飯に蟹を混ぜ込む二人をゲストたちがスマホやカメラを持って一斉に撮影する様子は、まるで人気タレントの記者会見のようだった。

蟹飯が行き渡ったのち、「お代わりございます」の声に最初は遠慮がちだったゲストも一人が茶碗を差し出すと次々に二杯目を所望。器を空にした人たちは満足げに箸を置いた。
最後の皿となったデザートを名残惜しげに食べ終えたゲストたちのために、川嶋シェフが抹茶を点てはじめた。心のこもった一服を飲み干すと、二時間半に及ぶコース料理は終了した。

最後に川嶋シェフが参加した料理人と、それぞれのチームで調理や配膳に携わった若手スタッフを紹介し、挨拶の言葉が述べられた。

「一年かけてきてこの日を迎えることができて、本当に嬉しく感動しています。もちろんお客様あってのことですし、このような場を提供してくださった日本博、CLUB REDの皆様の力があってのことです。

北陸の食材の素晴らしさも伝わったと思いますが、やはり何より人。このようにたくさんの若手がいるということは、僕たちの世代で終わることなく、次の世代を地域で育てていかなければならないと感じています。たくさんの人たちの思いを背負って、今後とも頑張りますので、皆さま応援のほど、よろしくお願い申し上げます。

また、最後になりましたが会場を貸してくださった見城亭の皆様にもお礼申し上げます。ありがとうございました。」

閉会のアナウンスののち、料理人・スタッフ全員が一階にずらりと並んでゲスト一人一人に笑顔で挨拶をして見送った。こうしてダイニングイベント『日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 北陸』の全行程は終了したのだった。

料理人たちが一年にわたって向き合い、つくりあげたコース料理の詳細については、次回のレポートでご紹介しよう。

※本イベントはスタッフ、来場者に対し万全の感染対策を行なった上で実施されました。

アンバサダー狐野扶実子氏(食プロデューサー/ RED U-35 審査員)からのメッセージ

狐野氏は当日、コロナウイルス蔓延により来場が叶わなかったが、開会時にメッセージが読み上げられた。

「今回は北陸にゆかりのあるCLUB REDメンバー川嶋亨さん、砂山利治さん、濱多雄太さん、平田明珠さんが担当されました。この4名は専門分野が異なれば料理に対する考え方も異なり、各自がそれぞれ独自の料理哲学を持っています。しかしこの4名が一つのチームとなったことで、驚くほど豊かでユニークで、インテリジェンスと愛情あふれる唯一無二の素敵なコース料理が出来上がりました。彼らはこのイベントのために約1年間、北陸の郷土料理はもちろんのこと、風習や伝統工芸などに幅広く触れてまいりました。そして、インプットしたことをどのようにアウトプットするか。
料理人が社会に貢献できることは何なのかなどを共に考え、悩み、施策を積み重ねてまいりました。そして、今日という日を迎える最後の最後まで皆様に少しでも喜んでいただきたい、美味しいと感じていただけるために何ができるかを試行錯誤してきました。
北陸の素晴らしい文化を再構築し、継承していくということは、そう簡単なことではないのですが、このチームは悩み考えながらも何よりも楽しんで取り組んでいた様子が印象的でした。
皆様、その成果をどうぞご存分にお楽しみいただければ幸いです。

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日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 北陸

【主催】文化庁、独立行政法人 日本芸術文化振興会、株式会社エヌケービー
【企画運営】RED U-35(RYORININ’s EMERGING DREAM U-35)実行委員会、株式会社ぐるなび
【後援】石川県、富山県、金沢市、魚津市、七尾市

「日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 北陸」は、
文化庁と独立行政法人日本芸術文化振興会が主催する展覧会や舞台公演などの体験型プログラム「日本博」の一環として開催された。

※日本博は、「日本人と自然」を総合テーマに、縄文時代から現代まで続く「日本の美」を体感する美術展・舞台芸術公演、芸術祭などを、年間を通じ、全国各地で展開するプロジェクト。文化庁、日本芸術文化振興会、関係府省庁、全国の文化施設、地方自治体、民間企業・団体等が連携して、各地域が誇る様々な文化芸術の振興を図り、その多様かつ普遍的な魅力を国内外へ発信し、次世代に伝えることで、更なる未来の創生を目指している。

日本博公式サイト https://japanculturalexpo.bunka.go.jp

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