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【日本博×CLUB RED Labo #4】日本を旅するダイニング 〜若手料理人たちは郷土料理から何を学び、何を感じたのか〜

レポート 2021.03.20

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食文化の継承を目指す食のクリエイティブ・ラボ

「RED U-35」において優秀な成績をおさめた若手料理人と歴代の審査員が集うコミュニティである「CLUB RED」は、これまで食のクリエイティブ・ラボとしてさまざまな活動をしてきた。2020年9月より、文化庁と独立行政法人日本芸術文化振興会が主催する「日本博」の一環として、「日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング  in 東北」と題し、郷土料理の魅力を発信するプロジェクトを展開。今回は、およそ半年にわたるその成果をレポートする。

なぜ今、“郷土料理”なのか?

南北に長い日本列島の、暖流と寒流の交わる豊かな海域は魚介類の宝庫であり、山野もまた米、野菜、山菜、キノコなど、自然の恵みを育む土壌に恵まれている。“郷土料理”は、こうした風土を背景にその土地特有の食材や調理法が長い時間をかけて文化として結実したもの。しかし、世界中から食品が輸入される現代においては、一見和食らしい一汁三菜の献立に多くの輸入食材が使われていることも珍しくない。また、外食産業の発展により、自宅で料理をする機会も減り、伝統的な保存技術や調理方法が忘れ去られようとしている実態もある。

こうした現状を背景に、昔ながらの食の知恵が詰まった“郷土料理”を次世代へ伝えるべく今回のプロジェクトは生まれた。その第一弾の舞台に選ばれた山形県鶴岡市をはじめとする東北地方は、厳しい寒さから凶作と常に隣り合わせであるがゆえ、貴重な作物を保存食にして冬に備えるための郷土料理が現代にまで継承されているエリア。その文化を再発見し、未来へと伝える大役を任されたのは、東北および近隣出身のCLUB REDの精鋭6名。さらに、地元の若手料理人3名(以下)がサポートメンバーとして参加した。

CLUB REDの精鋭6名によるスペシャルチーム

・成田 陽平(青森県弘前市出身/日本料理/菊乃井 本店<京都府>)

・酒井 研野(青森県黒石市出身/日本料理/研野<京都府>)

・菅田 幹郎(岩手県遠野市出身/イタリア料理/おのひづめ<岩手県>)

・早川 光(秋田県鹿角市出身/イタリア料理/XEX 東京 Salvatore Cuomo Bros.<東京都>)

・廣川 拓渡(新潟県新発田市出身/フランス料理/イーストギャラリー<東京都>)

・福嶋 拓(山形県米沢市出身/中国料理/chinois蓮歩<埼玉県>)

サポートメンバーとして参加した鶴岡の若手料理人3名

・齋藤 翔太(山形県鶴岡市出身/日本料理/庄内ざっこ<鶴岡市>)

・有坂 公寿(秋田県角館町[現仙北市]出身/フランス料理/ポム・ド・テール<鶴岡市>)

・五十嵐 督敬(山形県鶴岡市出身/イタリア料理/ブランブラン・ガストロパブ<鶴岡市>)

※料理人のカッコ内は、出身地、専門料理、所属店<地域>

 

若き料理人たちが食文化を学び、
“郷土料理”をアップデート

2020年9月、プロジェクトは、郷土料理の文化を学ぶ講義からスタートした。講師を務めたのは和食のユネスコ無形文化遺産登録に尽力したMIHO MUSEUM館長の熊倉功夫氏だ。熊倉氏は、地域固有の食材や風習が郷土料理として結実するにいたった物語をも伝えることが重要だとしながら、現代においてはそうした料理を食べる文化がなくなりつつあることを指摘した。講義で得た知識を踏まえ、若手料理人たちは、同年10月に2日間にわたり、山形県鶴岡市を探訪。

生産者や料理人を訪ね、その土地に伝わる食材や調理技術を学んだ。また、山岳信仰の聖地、出羽三山神社羽黒山参籠所斎館に伝わる精進料理を実際に味わい、郷土料理の具体例に触れた。

こうして知見を深めた若手料理人たちは、その成果を次世代へとつなぐ郷土料理のコースに結実。2021年2月27日に開催予定だった「日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニングin 東北」で、一般客に味わってもらうはずだった。ところが、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響等によりイベントは中止に。本番を見据えて試食会まで開き、万全を期していたものの、残念ながら発表の機会は失われてしまった。それでも若手料理人たちは未来を見据え、日々の研鑽に励んでいる。彼らは同プロジェクトにおいて何を学び、何を感じたのか。後日、それぞれの想いに耳を傾けた。

優れたアイディアが次々に生まれた好循環

プロジェクト・リーダー
成田 陽平氏
考案した料理:「寒鱈うずみ豆腐椀」

「集ったのは熱意のある料理人ばかり。当然、ミーティングをすればすぐにアイディアが出て、自然とよい形にまとまる好循環が生まれていました。料理のコースについては、イベント会場が鶴岡の山岳信仰の聖地、出羽三山神社羽黒山参籠所斎館であることを意識しました。出羽三山には、過去、現在、未来の意味が三つの山に割り振られ、すべての山を回った者は厄払いができて生まれ変わるという信仰が伝わっています。その信仰にならい、古の郷土料理に学びながら、現在の調理技術を駆使しつつ、郷土料理の未来を展望するコースを作ることを大きなテーマにしました。

私自身は、イベント開催が2月の雪深い季節であることを重視し、温かい椀を考案。それは、冬の東北の貴重な栄養源となる寒鱈をアラや内臓まで余すところなく使う山形の郷土料理“どんがら汁”にヒントを得たものです。今後も、伝統食材や保存方法を現代風にアレンジすることで、未来につながる地球に優しい郷土料理を生み出していくつもりです」

土地に根ざした自然体の料理を発信

酒井 研野氏 
考案した料理:「春を待つ」

「京都で料理人をしている私が感じるのは、日本全国から選りすぐりの食材が集まる場所である京都には、それがゆえに華やかな料理が多いということ。一方の郷土料理は、使う素材や調理法がその土地の文化風習に根ざしているので、お袋の味のようにそこで生まれ育った人々の味の記憶を形成しているのだと実感しました。

私は、山形県鶴岡市の在来野菜、宝谷かぶのシャーベットを雪に見立て、その下で春を待つ鯉をメインの食材としました。添えた野草で表現したのは春への期待感です。今回、学んだことを生かして、その土地に根ざした、自然体の料理を発信していきます」

現代に適した郷土料理を模索

福嶋 拓氏
考案した料理:「中国式芋煮 庄内風」

「今回集まった同世代の料理人には、料理のジャンルも仕事場の環境も異なれど、お客様を大切にする考え方について共感できることがたくさんありました。
私は山形の郷土料理である芋煮を中華風に仕上げたひと皿を用意しました。今回のプロジェクトをとおして、郷土料理を次の世代につなげるためには、その文化を深く理解しながら現代に適した形に進化させる必要があると感じました。その点を意識して、今後も活動をしていきたいと思います」

ひと手間の大切さを再認識

早川 光氏
考案した料理:「猪と庄内小麦のピチ イタリア風ひっぱりうどん」

「食べ物がすぐに手に入る飽食の時代とされる昨今ですが、素材を発酵させるなどの手間ひまをかけて作る郷土料理にこそ、料理の本質はあると思いました。ひと手間の大切さを、料理人として伝えていけたらと思います。

私は、山形の郷土料理“ひっぱりうどん”によく似たピチというトスカーナのパスタを庄内小麦で作りました。害獣として問題になっている猪を食材として有効活用することも意識しています。今回のようなプロジェクトには、機会があれば何度でも参加したいです」

東北6県の理解を深めることが今後の目標

廣川 拓渡氏
考案した料理:「サクラマスのミキュイ 蕗の薹のタプナード」

「鶴岡だけでも、特有の食材や文化など、知らないことばかりでしたので、東北6県すべてをまわり、さらに理解を深めたいと思いました。
私は、山形県の県魚“サクラマス”を香草でマリネし、昆布、海苔とともにパートブリックという薄皮で包んで揚げる料理を考案しました。コンセプトは山形の自然と匂いを伝えること。コロナ禍でしたが、ZOOMやチャットなどでメンバーと頻繁に情報交換できたので、とてもよい関係を築けました。今後もみんなと切磋琢磨していきたいと思います」

次世代につなぐ大切さを実感

菅田 幹郎氏
考案した料理:「山の香と鴨の形」

「鶴岡では塩蔵文化がとくに印象的でした。昔は貴重だったはずの塩を食糧の保存用に使うというのは、他の東北の諸地域に比べて鶴岡が豊かな土地であったことの証ではないかと推測します。

コース料理では、山形の米を食べさせ育てた鴨肉に稲藁で薫香を纏わせ、酢酸発酵させた山形の日本酒を合わせました。今回の経験から、先人が育んできた文化を次の世代につなぐことの大切さを実感しました。そんな私自身は次の世代に何を残せるのか。今後もそれを考え続けていきたいと思います」

テーマは鶴岡の文化を伝えること

鶴岡市の若手料理人3名
齋藤 翔太氏 考案した料理:「新笹巻き。」
有坂 公寿氏 考案した料理:「庄内刺し子を纏った柚子」
五十嵐 督敬氏 考案した料理:「桜餅の再構築桜のリオレ」

「鶴岡の文化を伝える役割を意識した私たち3人は、デザート全体に“環り、遺す”というタイトルをつけました。私が考案したのは鶴岡の笹巻きをベースにしたもの。庄内地方には餅米をアク水で炊く特有の文化があり、なかでも鶴岡の場合は保存性や殺菌性に優れた黄色い餅米に仕上がるのが特徴です。故郷の東北を離れて腕を磨いているCLUB REDのメンバーと技術や考え方を共有できたのは大きな収穫でした」(齋藤翔太氏)

「庄内では女性たちが服を自分で補修する習わしがあり、刺繍文化が発達しました。その文化を伝えるために私は“庄内刺し子”をモチーフにした柚子のムースを考案しました。今回のメンバーとは少し料理の話をしただけで、あっという間に意気投合できました。最大の収穫は、みんな本当に料理が好きなんだなと実感できたことです」(有坂公寿氏)

「私はリオレというフランスの米のデザートをモチーフに、庄内の米の源流ともいえる品種“亀の尾”を使って桜餅を再構築しました。CLUB REDのみなさんは、頭の回転が早く独創的。自分にない物事の捉え方が、とても勉強になりました」(五十嵐督敬氏)


 
プロジェクトを終えての総評

一方、プロジェクトを監修・指導した側は彼らをどう評価したのか。RED U-35総合プロデューサーの小山薫堂氏、同大会審査員の狐野扶実子氏、そして郷土料理の講義を担当した熊倉功夫氏に今回のプロジェクトを振り返ってもらった。

地元の人が気づけない郷土料理の魅力を引き出す力
小山 薫堂氏

「まったくジャンルの異なる料理人同士で結成されたチームであるにもかかわらず、各自がコース全体の流れのなかで自分が担当した料理が果たす役割を理解し、なおかつ、自分が専門とする料理の個性をも表現できていました。そこはとても素晴らしいと思います。今回のプロジェクトでは、彼らが鶴岡の郷土料理を知らなかったからこそ、その魅力に気づけたという側面もあったはずです。未知の土地を巡り、宝物を発見するような好奇心をもって郷土料理に触れたときに、地元の人には気づけない魅力を引き出せるのではないか。そんな可能性を感じさせてくれました。

▲Labo#3 鶴岡視察後の試食会の様子 

オリジナリティーあふれる料理が示した未来
狐野 扶実子氏

「みなさんそれぞれが鶴岡の郷土料理をさまざまな想いで解釈し、オリジナリティーあふれるひと皿に仕上げていた点が素晴らしかったと思います。害獣と共存していくためのレシピを考案した方もいましたし、環境問題を意識した方もいました。今回のプロジェクトをとおして、郷土料理にはSDGsの目標を達成するためのヒントが隠されていることも実感。このプロジェクトの成果を見て、時代に合わせた形で郷土料理を再構築できると確信しました。若き料理人のみなさんにはこれからも切磋琢磨していってほしいと思います」

 

▲Labo#3 鶴岡視察後の試食会の様子 

見事に表現してくれた料理の背景にある物語
熊倉 功夫氏
「コース料理は、どのお皿も素晴らしいものでした。私はそこに郷土料理の3つの方向性を感じました。ひとつは、伝統的な食材と調理方法をアレンジして現代的な郷土料理を目指す方向性。もうひとつは、新しい食材を新しい調理方法で仕立てて現代的な郷土料理を目指す方向性。そして、最後に前述のふたつのやり方をミックスさせる方向性です。郷土料理の背景にある物語までをきちんと伝えていこうという姿勢が見られたことも大変素晴らしいと思いました」

 

▲Labo#1 kickoff オンライン勉強会の様子

次回の「日本博」×「CLUB RED」にも乞うご期待

およそ半年にわたり、郷土料理の未来を模索してきた今回のプロジェクト。監修・指導した3名のコメントからも、若手料理人たちが学んだ成果を次世代へとつなぐ郷土料理に昇華させたことがわかる。今回のプロジェクトに刺激を受けた他の「CLUB RED」のメンバーも多いだろう。彼らに活躍の場を与えるためにも、この「日本博」×「CLUB RED」のプロジェクトは今後も継続していく予定だ。乞うご期待。

▶︎ 過去の記事はこちら
【日本博×CLUB RED Labo#1】郷土料理を、若手精鋭料理人が学び、創り、発信する!新プロジェクトがスタート
【日本博×CLUB RED Labo#2】舞台は山形県鶴岡市へ! 食材のユートピアで日本の食文化を学ぶ
日本博×CLUB RED Labo #3】鶴岡での学びを生かし、郷土の食文化をコース料理として再構築! 本番に向けた試作・試食会をレポート

▶︎ イベント開催概要はこちら
日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 東北

※About
日本博 Japan Cultural Expo 縄文から現代まで続く「日本の美」
「日本博」は、総合テーマ「日本人と自然」の下、日本全国で日本の文化芸術に流れる「日本の美」を国内外へ発信し、次世代に伝えることで更なる未来を創生を目指す文化芸術の祭典です。日本各地で行われる日本博が、人々の交流を促して感動を呼び起こし、世界の多様性の尊重、普遍性の共有、平和の祈りへとつながることを希求します。
主催:文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
https://japanculturalexpo.bunka.go.jp

 

 

 

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