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【ジビエ×CLUB RED 都市部懇談会】レポート

LABO 2023.02.03

【ジビエ×CLUB RED 都市部懇談会】レポート
CLUB REDの料理人たちが産地で学んだことからメニューを提案、多くのシェフたちと価値を共有・意見交換した一日

未来の料理人たちと共に「ジビエの未来」を考えるプロジェクト

近年、外食産業にとって厳しい状況が続く中、持続可能な外食産業の実現に向けた各種の取り組みが実施されています。一方で、消費者の外食におけるニーズは「味」や「価格」だけではなく「家庭で体験できない食事」を求める傾向にあります。また、SDGsやエシカル消費への関心が高まる状況もみられます。こうした社会環境の変化に直面している外食・中食業界にとって、ジビエのもつさまざまな価値が活性化の一助になると考えられます。
本プロジェクトは、CLUB REDのシェフたちと加工処理施設(生産地)が協働し、今の社会に相応しいジビエの「ブランド価値」を共に創り出すためにスタートしました。創造力・発信力のあるシェフと加工処理施設が協力しあうことで、今の時代に適合したジビエの価値を創出し、未来の外食・中食産業の活性化を目指します。

※CLUB REDは、歴代のRED U-35コンペティションにおいて優秀な成績をおさめた若手料理人と歴代の審査員が集うコミュニティであり、食のクリエイティブ・ラボ。

【ジビエ×CLUB RED都市部懇談会】に参加したCLUB REDの若手料理人たち
■産地懇談会に参加したCLUB REDのメンバー
髙木和也(フランス料理/ars/東京都)千葉県出身
廣川拓渡(フランス料理/イーストギャラリー/東京都)新潟県出身
立岩幸四郎(中国料理/Wakiya一笑美茶楼/東京都)兵庫県出身
高橋雄一(フランス料理 イタリア料理/Orpo/滋賀県)鹿児県出身
清水和博(スペイン バスク料理/エチョラ/大阪府)兵庫県出身
海野元気(新北欧料理/snow/福岡県)福岡県出身
波多江優貴(フランス料理/三井港倶楽部/福岡府)福岡県出身

■都市部懇談会より新規参加したCLUB REDのメンバー
相松敏彦(イタリア料理/LEONE9/静岡県)三重県出身
天田竜聖(創作料理/天武/群馬県)群馬県出身
黒木由次(中国料理/中国菜老四川飄香 銀座三越店/東京都)愛知県出身
新開才也(Japanese French/プルミエレタージュ/東京都)東京都出身
清野桂太(フランス料理/フリーランス/東京都)茨城県出身
玉水正人(フランス料理/wine restaurant LE CONTE/東京都)三重県出身
土肥秀幸(フランス料理/la Maison de GRACIANI/兵庫県)福井県出身
平賀大輔(中国料理/フリーランス/準備中)千葉県出身
堀内浩平(山梨ガストロノミー/フリーランス/東京都)山梨県出身
山川万理恵(フランス料理/Du vin hachisch/神奈川県)神奈川県出身

千葉県、京都府、大分県、全3回の生産地懇談会を経て、都市部懇談会を開催
2022年11月16日、東京都港区のフジマックテストキッチンに、産地懇談会に参加したシェフ7名、クルックフィールズ(千葉県)の岡田修氏、京丹波自然工房(京都府)の垣内忠正氏、日本ジビエ振興会代表でオーベルジュ・エスポワール(長野県)のオーナーシェフ藤木徳彦氏、そして新たにCLUB REDのシェフ10名が集結。さらに、今回のプロジェクトを支援する農林水産省の方々が列席しました。
フジマックテストキッチンは、業務用厨房機器総合メーカーのパイオニアである株式会社フジマックが全国10か所に展開しているクッキングラボラトリーのひとつです。最新の厨房機器が揃った会場で【ジビエ×CLUB RED 都市部懇談会】が開催されました。

【ジビエ×CLUB RED 第1回産地懇談会】レポート(千葉県)
【ジビエ×CLUB RED 第2回産地懇談会】レポート(京都府)
【ジビエ×CLUB RED 第3回産地懇談会】レポート(大分県)

千葉、京都、大分。産地ごとのジビエを参加者全員で食べ比べ
最初のプログラムでは、参加者全員で千葉、京都、大分、それぞれの産地から届いた鹿肉と猪肉を食べ比べ、産地ごとのジビエの知識や味わいを理解しました。メインステージに立つ藤木氏が、それぞれの産地ごとに、鹿ロースブロックと猪ロースブロックのロースト、鹿ロース肉と猪バラ肉のしゃぶしゃぶを用意します。
ローストは、いずれも前日に1.2%の塩をして、当日フライパンでじっくり焼いたものです。猪ロース肉は、焼いているうちに出た脂を容器に移して保存。脂の色にもそれぞれの違いがあり、時間が経つうちに固まるスピードもまちまちでした。

最初は、クルックフィールズ(千葉)のローストから試食です。試食用の皿が配られると、シェフたちは匂いを確認し、じっくり味わいます。
試食が始まるとともに、クルックフィールズの岡田氏から施設についての説明がありました。
「うちの施設は千葉県木更津市にあります。木更津市の全面的な協力を得て、施設に市の職員が常駐しており、登録している34人のハンターさんたちが獲物を持ち込みます。捕獲方法は、基本的には罠で、箱罠と括り罠です。それから銃、ナイフ、もしくは電気で止めさしします。うちの特徴は、止めさしから30分以内に搬入された個体のみを食用としていること。それ以上時間超過したものはペットフードに回すなどしています。
私は施設の設計段階から携わっていますが、特徴としては、まず解体室自体が冷蔵庫になるような作りであること。10度ぐらいの室温で解体をしています。次の熟成室は結構広く、20数体は下げられるような作りになっています。そこで個体の大きさによって3〜6日間の熟成期間を経てから脱骨作業に入ります。
千葉県の特徴は、どんぐりが多い地域であること。今年はどんぐりが豊作らしいので、冬の脂は良質なものになると思います。ただ千葉県という場所が温暖で平坦な土地で、ライフルを使用することも禁止されています。自然が深くない、険しくないのでジビエの味が強くないかなという気はします。そのため、一般受けはしやすいかと思います」

次にしゃぶしゃぶ。それぞれの皿に一切れずつのせて、藤木氏が塩を振ります。鹿肉の部位は、柔らかい内腿。「あとで枝肉を解体するときに、皆さんに特徴をお見せします」と藤木氏。続いて猪肉です。

続いて、京丹波自然工房(京都)のローストを試食します。ここで垣内氏から施設についての説明が行われました。

「現在、全国のジビエのブームで処理施設がかなり増えています。ただしこれは有害駆除のための農林被害を抑えようというところから始まっています。駆除したものを何とかジビエとして利用しようというのがスタート。そのため当初は、時間が経っていたり、鉄砲で撃って玉が体に当たったりしているような肉を食肉に利用していました。しかし、これではなかなか流通できないということで、全国的に処理施設がどんどん増えてきています。今では皆さんから注目していただいて、このような勉強会に参加していただけるということは、かなりブームになってきているのは事実です。
私は約10年前から処理施設をやっております。私も猟師でございます。しっかりした食肉になりうるような、食材としてのシカやイノシシを取ってくるハンターのことをジビエハンターと呼んで、去年からジビエハンター育成のための研修会を始めています。全国各地でどうしたらしっかりと安心安全なお肉を提供できるかというようなことを研修しております。
処理施設の名前は京丹波自然工房、食肉は鹿肉のかきうちというブランドでやっています。私どもの施設に入ってきますのは、銃を使わない、罠で獲れたものを利用しております。本当はですね、ストレスのかからない獲り方が一番おいしいです。山で罠にかかるっていうことは、ものすごいストレスがかかるわけです。銃で獲る場合、遠くからバーンと頭から上もしくは心臓肺のところを撃った場合は全くストレスがかかりません。こういうお肉は非常に良いということです。ただ頚椎は3センチしかない。脳は5センチ10センチほどしかないです。そこへライフルの弾を当てようと思っても、まず当たらないんですよね。だから罠で獲った方が、傷がなくていいということをちょっと覚えておいてください。
私どもの施設でこだわっているのは、衛生です。人の口に入るものですので、お肉が流通したときに大丈夫なのかというところからスタートしています。皆さん、これからどこで仕入れしようか考えられると思いますが、必ず施設を見に行ってください。どういう過程で処理されているのか、どういう処理の仕方をして送られてくるのか。梱包ひとつにしても大切です。いずれは畜肉と同じように流通させて行く上で、国産ジビエ認証制度もひとつの基準です。私どもはその第1号を取得させていただいております」

試食をしていた海野氏から「今日食べたものそれぞれの産地で、サイズや年齢の差はありますか?」という質問がありました。藤木氏がそれに答えます。
「今回は、多分千葉の方が大きいですね。猪に関しては京都。大きい方が年齢がいっていると考えられますが、味わいと年齢は関係ないように思います。処理施設にはさまざまな年齢、サイズのものが持ち込まれますが、一番の決め手は血抜きです。皆さんはなるべく上手な処理施設を見つけて、お客様が喜ぶジビエを提供してください」


最後に宇佐ジビエファクトリー(大分)の鹿肉と猪肉。試食が配られるなか、質問が続きます。「処理の方法が同じだった場合、地域差と個体差、どちらが大きいのでしょうか?」と高橋氏。
この質問に対して「おそらく個体差。基本的にはシカもイノシシも同じシーズンなら日本全国だいたい同じものを食べています。北海道のエゾシカは別ですが」と垣内氏。「個体差、あとは地域の気候の差も結構出てきます」と岡田氏。
藤木氏は「私の店は季節によって仕入れ先を変えています。いろいろな産地のものを提供したいという考えからですが、お客様と話してみると、求めているのは個体差かなと感じます」と、レストランオーナーの立場から回答しました。

さらに、猪ローストの脂を見て山川氏から質問が。
「産地ごとに、脂が固まるスピードが違いましたが、なぜこうなるのでしょうか?」
藤木氏が答えます。
「最初に脂が固まったのが大分、いつまでも固まらなかったのが京都、千葉は間くらいでした。これは、何を食べているかが関係します。鹿児島のさつまいもや千葉・大分のどんぐりのように個性の出る地域もあり、それぞれに脂の香りが違い、脂が白い。一方、鹿肉の場合は、脂の融点が高いのでモソモソしてあまりおいしくない。なので鹿の脂は除いてしまいます」
質問と応答が続くうちに試食も終わり、全員が産地ごとの味わいを食べ比べるという体験を共有できました。
産地別の食べ比べを終えたシェフたちは、どのように感じたのでしょうか。
「肉の旨味の濃さや筋をかみしめた味の違いを感じました」(清野氏)「肉質、肉本来の香り、脂ののりかた、大変面白い食べ比べでした」(新開氏)「千葉の鹿肉はクセがなく、猪肉はお話にあったようにイベリコ豚のようなナッティーな香り。それに比べて京都の鹿肉、猪肉は少し力強い印象。九州は京都に近い味わいでしたが筋肉質が強く感じられました」(玉水氏)
さらに産地ごとの違いを知ったうえで、どこのジビエを使ってみたいかを尋ねたところ、かなり現実的な回答がありました。
「東京に店舗があるので、環境に配慮すると千葉のクルックフィールズさんが第一候補です」(玉水氏)「食材の均一化という点で、京丹羽自然工房が魅力的だと思いました」(土肥氏)「どれもいいものなので、値段や発注単位から選んでいきたい」(天田氏)「料理によって、あるいは提供する時期によって産地を変えてみたい」(平賀氏)
施設の特色を知り、実際に試食することで、各自が料理にフィードバックするための知見を得られたようです。

鹿肉の解体をしながら部位の特徴、味わいについて藤木氏からレクチャー

試食が終わって、綺麗に片付けられた調理台に鹿の枝肉が運び込まれてきました。ここから、藤木氏による鹿肉の解体が始まります。
「今回ここで解体をお見せしたいと考えたのは、いくつかの目的があります。ジビエの価格に関することや、ジビエは使える部分が少ないということと、部位の特徴を知っていただくこと。特徴とともに、調理方法や希少性などについてもお話しします」
調理台の上には、長野から藤木氏が持ち込んだ鹿の枝肉が横たわっています。
「一頭分、枝肉で買うのがいちばん安いです。処理施設で皮をむいて内臓を出しただけの状態」

まず、前足を持ち上げ、脇に包丁を入れます。すーっと刃が入り、前足をたちまち切り分ける藤木氏。さらに大腿骨を外し、モモ1本に。モモはハムなど、1本で使う価値もあり。枝肉の次に割安なのが脚1本で仕入れることですが、くくり罠で捕獲された場合、四肢のうち1本は傷んでいて使えないそうです。

ロースは肩甲骨の横にあります。その内側にあるのがヒレ。ヒレ肉は少ししかありません。バラ肉に至っては本当に少なく、垣内氏によると70キロ以上の個体でないと取れない希少部位だそうです。枝肉を切り分けつつ、藤木氏が包丁の入れ方、進め方を実際に見せながらレクチャーを続けます。

次はネック。内出血などがないか確認をしながら、骨から肉を剥ぎ取っていきます。シカは首が長く、よく動かすのでネックは味がよく、テリーヌやソーセージなどのミンチ材に適しているそうです。首は捕獲した後に放血のため切断するので、衛生的に使えないこともあるということです。

先ほど外したモモは、大腿骨を外し、ふくらはぎとスネを取り除きます。モモは外モモ、芯玉、内モモに分けます。肉の下にはリンパ節がいくつもあり、これは取り除きます。それぞれの部位の見分け方、筋や血管の切り方を説明する時には、見学しているシェフたちがグッと身を乗り出します。

モモ肉のうち、最も値段が高いのは内もも。次に芯玉、安いのが外モモ。芯玉は文字通り丸い玉のような形で、きめ細かい肉質ながら真ん中に筋が入っているので、これを除くと塊が小さく扱いやすくなります。内モモと外モモの間にはシキンボという肉厚な部分があり、ヒレのような肉質。もしも外モモにシキンボが付いていたら「買い」だそうです。

脂筋を除いた外モモは、豚肉では「豚モモスライスしゃぶしゃぶ用」に使われている部位。味わいはあるけれどやや硬いので、スライスして使うと良いそうです。内モモは、中に筋が入っていなくて柔らかく、ローストビーフのように調理しても良いとか。豚肉なら「豚モモ肉ひと口カツ用」として売られている部位にあたります。

続いて、肋骨周りのバラ肉から、ロースを切り分けます。残ったのは、肩肉と前足。この2つは比較的安い部位。しかし、豚肉ならばハム・ソーセージに使われる部位で、味わいはあるそうです。
「私の店では、残った筋、軟骨、骨を使ってジビエのコンソメスープを作っています。すごく旨味が出るので、フランス料理好きのお客様にとても喜ばれます。また、肉の付いた肋骨を焼いて、ジビエコースのアミューズとして出すことも。そして、アキレス腱。出汁がとてもおいしい上、煮上がるとコリコリねっとりした食感が楽しめるので、細かく切ってテリーヌに入れてもいい。乾燥させれば、犬が喜ぶおやつにもなります。以上で、終わります」
45分間にわたり、熱意をもって懇切丁寧に、鹿の解体と解説をしてくださった藤木氏。終了の言葉とともに、会場にいる全員から大きな拍手が送られました。
解体を見学し終えたシェフからは、「一体から取れる部位ごとの量が好きないことに驚きました」(天田氏)「部位ごとの使い方も解説していただいて、非常にためになりました」(高木氏)といった感想が聞かれました。

解体した鹿肉は、このあと「部位による食感の違いを確かめてみてください」として、スネ肉、肩肉、外モモ肉のスライスに塩をしてフライパンで焼いたものが全員に試食提供されました。
実際に味わってみることで、「スネ肉は煮込み料理ならお子様にも提供できそう」(清野氏)「肩肉はひき肉などに加工できるので使ってみたい」(堀内氏)「これまで外モモ肉は硬いので避けていたが、肉の旨みが十分あるので新しい提供方法を模索したい」(土肥氏)など、今後の課題や料理のイメージが明確になった様子でした。

産地懇談会に参加したシェフたちがオリジナルメニューを披露した試食会

いよいよ、千葉県のクルックフィールズ、京都府の京丹波自然工房、大分県の宇佐ジビエファクトリーを訪れた7名のシェフたちによる試食会が始まります。シェフそれぞれが産地で感じたジビエの特徴や魅力を生かし、この日のために考案したオリジナルメニューを披露。限られた時間の中での調理、しかも一人分ずつの提供ということで調理台の前で忙しく立ち働くシェフたち。料理の火加減を見たり、盛り付けを手伝ったり、お互い助け合う姿が見られました。

■「猪肉小籠包」立岩氏
猪の肩ロースに、豚の皮、もみじ、豚足などの濃厚な煮こごりを合わせた旨みたっぷりの特大小籠包。一口目はそのまま、お好みで添えてある柚子胡椒で味変を楽しめる。「この猪肩ロース肉は非常に旨味が強いので、それを全面に押し出して。基本的に中国料理は“熱い料理は熱いまま、冷たい料理は冷たく”が基本なので、熱々のスープを楽しんでいただけるよう、一気に蒸しあげました」

■「牡丹鍋(フレンチ解釈の一口で)」高木氏
猪肉料理としておなじみの牡丹鍋をフランス料理で解釈したひと皿。猪肩ロースの塩漬けを柔らかく煮たプティサレ、自家製ラルドを炙ったもの、柿と味噌のピュレ。鍋の解釈ということで、春菊を添えて。「メニューを開発中に、柿がイノシシの被害に遭ったというニュースを見て、柿と猪肉を組み合わせました。ジビエの間口を広げるということから、日本人に馴染みのある味噌を使いました」

■「千葉 鹿のラビオリ」廣川氏
『自然で健康に育ったお肉を食べ、体に活力を』『千葉』2つのコンセプトを表現。千葉県産小麦と落花生でラビオリの生地を作り、木更津の鹿肉をマリネして挽いたものと房総の伊勢海老をファルスにして。鹿の味を強調するために九十九里のハマグリでとった出汁を使い、アクセントに柚子とトリュフを加えて。「岡田さんのジビエ料理を食べた時に、すんなり体が受け入れ、活力が湧いてくると感じて。健康に育ったシカ、それを育んだ千葉のテロワールを感じていただけるひと皿に」

3人の料理を試食後、クルックフィールズ岡田氏に感想をうかがうと「見学されたお三方に、本当にいい料理に変えていただいて、感無量です。最後のお料理もオール千葉を感じて、心にしみました。どうもありがとうございます」と、喜びを語ってくださいました。

■「鹿肉のアロス」清水氏
焼いた鹿の骨で出汁をとり、出汁の味を感じられるよう、スペイン風のお米料理に。首肉とスネ肉を出汁とワインで炊いて煮こごりで固めたもの、季節のキノコとムカゴをのせて。「産地見学の際に、肉質がいいこと、旨味が圧倒的に強いことでジビエに対する価値観が変わりました。今回、一頭買いさせていただいたので、このあといろいろな部位を試しながら使っていきたいと思います」

■「滋味溢れるジビエのコンソメと鹿肉のメンチカツ」高橋氏
鹿肉のミンチと豚バラ肉を使ったメンチカツ。鹿肉の淡白さを豚肉で補っている。浸したスープは、食材を無駄なく使い切るために鹿の骨、ネギの頭などの野菜屑、椎茸の軸などを使用したコンソメスープ。高橋氏の店では『ものを捨てない』をテーマにしている。「垣内さんのところの肉は愛情がすごくかかっている素材だと感じたので、温かい、ほっこりする料理にしたいと考えました」

試食を終えて、京丹波自然工房の垣内氏に感想をうかがいました。
「現在ジビエが全国的に増えてきたことで、ジビエのイメージが変わりつつあると思います。それがシェフの技術によって普通のレベルからさらに120%に。何か新しい味わいが感じられる、そんなお料理でおいしかったです。最高でした」

■「猪のバロティーヌ 生息地の情景」波多江氏
猪の骨、端肉、フィレ、ロース、バラなどさまざまな部位を使い、現地で見た捕獲の様子を皿の上に表現した。森をイメージしたオリーブのチュイール、どんぐりを模した落花生、鮮やかな真紅のカシス、土を表すごぼうとキノコの粉末。ソースはマルサラソースとコンソメソフトソースの2種。コンソメスープとともに。「大分では捕獲の現場を見学することができました。その情景を忘れてはいけないと感じ、命をいただくというメッセージ性をこれからも伝えていきたいと思います」

■「黄飯(おうはん)/鹿/椎茸」海野氏
大分県の郷土料理『黄飯』を鹿肉で。本来はクチナシで炊き上げるが、今回は大分産サフランを使って。大分の特産品である椎茸のマーマレードを添えて。さらに猪肉を大分の『孔雀』という郷土料理に。スコッチエッグを半分に切って断面を並べると孔雀の羽模様のようになるため『孔雀』と呼ぶそうです。「私のお店は九州の食材を使って九州の食文化を表現しています。今回は、大分のジビエと地元の食材を組み合わせて、お客様に興味を持っていただけるような新しい郷土料理を目指しました」

参加者全員による、ジビエの価値についての意見交換

ジビエの産地食べ比べ、藤木氏の鹿肉解体、シェフたちの新メニューの試食を終えて、いよいよ最後のプログラム。この日集まった参加者全員による意見交換の時間です。

まず、今回初めて参加したCLUB REDのシェフに意見を聞いていきます。最初の質問は、「本日のジビエ試食について、どのように感じましたか?」
天田氏「今日のお肉はほとんどクセがなくて柔らかいお肉でした。僕は群馬県伊勢崎市で料理を作っていますが、皆さん選択肢があっても必ず牛肉を選びます。今日学んだジビエの本当のおいしさや背景にあるストーリーについて、今後はアピールしていきたいです」
玉水氏「ジビエという言葉があることで、かえってジビエが敬遠されてしまうのではないでしょうか。牛肉や豚肉と並んで、当たり前のように鹿肉や猪肉がメニューに載っていれば、もっとジビエが浸透していくのではないかと感じました」

次の質問は「ジビエが加工処理施設で処理されていることを今まで知っていましたか。また、施設ごとの違いや特性を感じましたか?」
新開氏「僕自身いろいろな生産者さんを訪ねるのが好きで、これまでにも石川の業者さんとお話しする機会があり、現在ジビエを使っています。今日お話を聞いて、施設によっていろいろ違うことを知りました。僕ら料理人が力添えできるのは、ジビエをどうやって提供するのが一番いいか考えることで、それが普及につながるのかなと感じました」
堀内氏「試食では、率直にすごくおいしいかったのと、施設ごとに違うことも感じました。僕自身は山梨県の施設を訪ねることが多いのですが、今日は今までの知識に加えて、いろいろ教えていただきました。今後は自分の中でジビエの価値を深掘りして、コースに落とし込んで皆さんに味わっていただくことで、一過性のブームではないものを提供できるのではないかと考えています」

続いての質問は、産地について。「それぞれの産地の特性を感じましたか?」
平賀氏「ジビエのことは全く知らずに参加したのですが、藤木シェフに丁寧に教えていただいて、すごく興味を持ちました。産地というのは、動物もそうですし、野菜ももちろん違うと思います。今日は千葉、京都、大分のジビエをいただきましたが、どれもすごい。牛肉、豚肉と同じように使えると思いました。これからさらに知識を高めて、狩猟についても京都に教わりに行こうかと考えています」
山川氏「私は3年前に狩猟免許を取得しました。自分でジビエを獲って捌きたいと思ったからです。また、体を使う仕事をする人たちが必要とする、たんぱく質の多い食事に興味があり、日頃から筋トレと食の動画サイトをよく見ています。同じテーマで、料理人の立場でジビエを使ってできればいいなと考えているところです。今回の体験を通して、ジビエに限らずさまざまな食材に対して、産地の特性などの見極めができる料理人になっていきたいと思いました」

次は視点を変えて、ジビエの社会大義について。「ジビエを余すことなく食べることが環境への配慮や持続可能な食材という観点で語られることがあります。皆さんのお店では、そういった観点で取り扱っている食材はありますか?」
黒木氏「自分自身はジビエを食べ慣れていないので、扱ったこともほとんどなく、今日はほとんど素人のような状態で食べました。よく言われる臭みがあるとか硬いということは本当になくて、食材として扱いやすいと感じました。持続可能な食材という観点では、一般的な家畜の豚肉や牛肉を選びがちなお客様に対して、生産者様の思いを伝えることで、理解して召し上がっていただけるかもしれないと感じました」

土肥氏「私は数年前から食材を無駄なく使いきるように努めています。そのきっかけは落花生でした。使う部分よりも廃棄する殻の方が多かったためです。今ではSDGsでモノを大切にしようという風潮になり、とてもいい傾向だと思います。ジビエはおいしく調理できるものですし、時代の流れに沿った食材。私の店ではジビエを敬遠するお客様はほとんどいないので、その点で苦労がないことはありがたいです」

最後は、ジビエの訴求ポイントについて。「消費者に一番伝えたいポイントを5つの項目の中から選んで、意見を聞かせてください。1. 味、2. 産地ごとの違い、3. 機能性、4. 安全性、5. 社会大義」
最も多くのシェフたちに選ばれたのは「安全性」でした。
立岩氏「やはり一番は安全性です。どんなにおいしい料理でも、食中毒があったり、安全性が損なわれると、店だけでなく、ジビエそのものの信頼も損なわれる。安全性があって、次に料理の味、そこに社会大義などが加わってうまく循環できれば、いい流れが生まれるのでは」
海野氏「私たちが訪れた宇佐ジビエファクトリーは、もともとは畜肉加工からスタートされて、食肉のプロだと仰っていました。そのため、扱うジビエも畜肉同様の基準で判断すると。安全性を求めた時、ジビエの特殊性はありますが、食肉加工の延長線上でジビエの処理を行っているということは、お客様にも説明しやすいし理解を得やすいと感じました」
相松氏「一番大事にするのは安全性です。私は小田原にいますが、湯河原はミカンの農家が多く、イノシシ被害が深刻です。小田原でも自治体がジビエを推進しようとしていますが、まだまだ一般に売られてはいません。これは社会大義にも関わると思います」
清野氏「社会大義です。ジビエは、食べる人に『命』が密接に伝わる食材のひとつ。ジビエを使うことによって、味を伝えるだけでなく、生き物に対する優しさを伝えられる。そういう部分でジビエはすぐれた食材だと思っています」

さらに料理人へ伝えたいジビエの訴求ポイントも尋ねました。「他のシェフにジビエを勧めるとしたら、一番伝えたい価値は何ですか?」という質問に対しては「味(おいしさ)」が最も多く、今回の試食で体験した味を伝えたいと考えた人が多いようです。
黒木氏「今回参加してみて、自分自身のジビエに対する考え方が変わったので」
天田氏「おいしさをわかっていただけば、料理したくなると思います」
山川氏「風味がよくて栄養価も高い、しかも利用することで社会問題を解決できる」といった複合的な価値を見出す人もいました。一方で、
玉水氏「人に教える以上は安全性が大切。その上で生産者のこだわりなどを伝えていければ」という、安全性を前提と考える意見もありました。

意見交換の最後に、藤木氏から発言がありました。
「ジビエを最後に提供するのは、私たち料理人です。おいしい料理を食べれば、お客様は必ず興味を持ちます。ジビエに限らず、野菜も他の食材も。おいしければ産地に目が向き、理解しようとし、人に伝えようとします。だから料理人の仕事は大事なんです」

「お疲れさまでした」の声とともに拍手が巻き起こり、都市懇談会は終了となりました。このあとは、会場全体で商談を兼ねた名刺交換会が始まり、産地とシェフ、シェフ同士、それぞれ話が尽きない様子でした。

【ジビエ×CLUB RED】では、産地懇談会、都市部懇談会を終え、今回シェフから新たな価値の提案が行われ、より多くのシェフたちが価値や課題を共有することができました。
次のステップでは、加工処理施設とCLUB REDメンバーのマッチングにより、それぞれのお店でジビエメニューを提供し、ジビエの新たな価値について検証を行う予定です。

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